陸上自衛隊特殊作戦群
「何すか? これ?」
青野は重さ10㎏の重りを4つ渡された。
「両手、両足につけるんだぞ、青野。」
「これじゃあ重くて動けませんよ?」
「そりゃあ初めの内は重いだろうが、その内慣れてくるさ。女性海上自衛官の大滝三曹もつけてるんだ。男の癖に女々しくなるな。」
聞けば海上自衛隊特別警備隊員は全員この重りをつけているとの事である。任務に出る時だけ外すというのが、しきたりらしい。青野は核心から確信に変わる。
「こりゃあ、とんでもない所に来てしまったか、と。」
同じ頃、赤村も同じ事を言われていた。SBUの1日は、寝ても覚めてもとにかく体をいじめぬく事に終始する。モデルが米国海軍のシールズや英国のMI6と言った特殊部隊なのかは、下っ端の赤村には、分からないが、その人間達も真っ青の訓練内容だった。
だが、赤村も青野も、音をあげるどころか屈強な海の戦士に変わっていった。普通の部隊でも離職率の高い自衛隊にあって、何が彼等を駆り立てるのか?それは、恐らくたくましい先輩隊員の姿を見て、厳しい訓練に耐えうる事で、自己の存在価値に目覚めたのであろう。SBU隊員のPRIDEは他部隊の人間よりも高かった。それは確かだ。
顔も階級も見せない程の徹底した秘密主義にあって、そのバラクラバ(覆面)の下で、何を思っているのかという事は、彼等を理解する事につながる。
実際に出動する事案は起きてないが、彼らはどんな状況で、どんな場所でも、投入されれば作戦を完遂するという自信はあった。
初めはついていくのがやっとだった新人も、大体3ヶ月も経てば辞めるか、部署変更を望むか、立派なSBU隊員になるかの3択しかないと、井口二佐は言う。
そもそも特殊部隊なるものは、大日本帝国陸海軍時代には無かったものである。あったのかも知れないが、公には知られていない。
陸上自衛隊にはレンジャー教育課程を終え、レンジャー旗章をつけた隊員も多いが、レンジャー課程修了者は特殊部隊員ではない。強いて言うなれば、空挺団員も特殊部隊員ではない。陸上自衛隊員にはこうした精強な隊員が多く存在しているが、中央即応集団(陸上自衛隊特殊作戦群)下の隊員以外は、普通の隊員扱いである。これらの部隊の中でレンジャー資格は必須であり、空挺団に所属しているのが、陸上自衛隊特殊作戦群という部隊であるという事である。部隊の用途が違う為に彼処が強くてあそこは弱い等と評した処でなんの意味もない。