栄田三佐の怒るリミッターの是非
珍しく青野が栄田三佐に呼び出されていた。何が珍しいかと言うと、優秀な青野が上官に呼び出される事と、井口二佐に比べると比較的おとなしいタイプの栄田三佐が人を呼びつけた事である。
「おい、青野? てめぇ何か勘違いしとりゃせんか?」
「と、言われましても、何をどう勘違いしているのか分かりませんが?」
青野は余程いけない事をした気になった。
「井口二佐ばかりが恐れられているが、本当に恐ろしいのは、普段怒らない人間が吠える時だ。まぁ、そんな事はどうでも良い。俺は今強烈にドタマに来ている。理由は簡単だ。青野? 貴様の胸に手をあてて聞いてみろ? 心当たりがあるだろう?」
青野は心当たりがあるか最近の行動や言動を思い出してみた。しかし、上官に何か恐れられる様な事をした覚えは無かった。
「思い出すはずないよな? お前が無意識のうちにやっている事なんだから。分からないなら教えてやろう。訓練でお前本気出していないだろう? 俺には分かるぞ。20年近くもSBUにいて、若い奴が本気でやっているのかそうでないのかなど、見れば直ぐに解かる。」
青野は言われてみれば、力をセーブしていたと思った。自分が本気になれば、人を殺しかねない。無意識のうちにセーブしていたのは事実だ。
「何故俺がそれで怒るのか理由が解からないだろう?」
「解かりません。」
「訓練も仕事のうちだ。何も本気でやる必要はないのかもしれん。しかし、ここはSBUだ。海上自衛隊最強の部隊として、俺達は誇りを持って日々の鍛練や訓練に臨み、有事(任務)に備えている。ここで本気に成れない奴は、任務においても、無意識にセーブをかけてしまう。それが通用するのは訓練だけだ。ありとあらゆる脅威が襲ってくる中、俺は力をセーブしている奴に国家の大事を預ける事はまかりならん。」
「お言葉を返すようですが、訓練なのだからセーブする必要もあるのではないのでしょうか? 私は、今までその様にやって来ました。訓練で本気に成れないのは仲間が相手だからです。実戦(任務)とあればリミッターを解除します。」




