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黒い桜~The black cherry blossom ~  作者: 佐久間五十六


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オクタン価

 赤村や青野の様な若い隊員の日常の楽しみは、やはり食べる事であった。自衛隊の飯が美味いのは有名だがその中でも、海上自衛隊の飯は特に美味いとされている。軍隊の飯というと不味いイメージが先行しがちだが、それは今は昔の話である。栄養バランスもきちんと考えられており、ボリュームもしっかりある。

 調理師免許を持っている隊員がほとんどで、中には管理栄養士もいる。その他にも様々な免許を部隊に所属したまま取得する事が出来るのも、自衛隊にいるメリットと言える。その分専門性の高い職種が多いと言える。

 軍隊の飯が美味いというのは、それなりに重要な要素である。大日本帝国陸海軍の時代には、飯が美味い海軍の方が陸軍より人気だったし、整備兵や地上要員より、航空兵(戦闘機乗り)の方が美味い飯を食べていたし、さらには下士官より士官の方が美味い飯を食べていた。

 "飯の恨みは銃で返す"という言葉が当時流行ったが、普段不味い飯を食わされているばかりに、味方上司に恨みを持ち戦争のどさくさに紛れて、殺してしまう悲しい事もあったらしい。その位、兵站というのは重要であった。

 良質なガソリンを積んだ車の燃費が良い様に、ここぞと言う所で力が出るか出ないか。言うなれば、ガソリンのオクタン価の様なものである。オクタン価とは、ガソリンの精製度合いの事であり、精製度合いの高い、高オクタンのガソリン程、性能も良く、燃費も良い。

 要するに兵士にとって食事とはガソリンの様なものであるという事だ。良質なガソリンは長持ちして、スピードも出る。オクタン価の高いガソリンは値が張るが、最高のパフォーマンスをするには欠かせないエッセンスである。同じ事が人間にも言える。最大限のパフォーマンスをするには美味い飯というガソリンが欠かせない。そしてそれは最終的に部隊の士気に関わってくるのである。

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