海上格闘理論
SBUには格闘のSpecialistがいる。B班副班長の杉沢田二等海尉である。杉沢田二尉は、防大卒業後まだ2年しか経過していない、若手のエリートホープだった。
彼の防大卒業時の論文のタイトルは、「海上格闘における攻撃の安定性維持の論点」という位、SBUには珍しい海上格闘のSpecialistだったのである。最も、鳴り物入りで配属されたSBUでは先輩隊員に全く歯が立たなかった。彼は理論だけでは、海上格闘のSpecialistには成れない事を肌で感じた。
しかし、杉沢田二尉はある時を境にして、彼に敵うものがいなくなったのだ。その理由は、初めのうちこそ弾かれたが、徹底した格闘理論の実戦投入に成功した事により、杉沢田二尉に勝る者はいなくなった。
彼の偉大な所は自らだけじゃなく、部隊全体の
底上げの為に、井口二佐に自分の研究論文を渡した事である。これにより、SBUの対水上格闘能力は、抜群に高いものとなる。井口二佐は、この体系化された、格闘理論によって隊員全員が均一の水準に成れる様になった。
これまでは、隊員個人のスキルに任せていたため、能力に差があったが、杉沢田二尉のお陰で、格闘能力の水準に持っていける様になった。最もそれでも、完全に能力を均一化する事は出来なかった。とは言え、戦力の大幅なUPにはなった。
格闘と言うと、一見すると体系化するには難しい様にも見えるが、実は理論立てする事の出来ないものはない。全てが物理的な法則により、動いているものであり、体系的理論によって説明出来るものでしか、この世界は回っていないのである。それを表立ってする人間がいなかっただけの事である。
杉沢田二尉のまとめた「海上格闘理論」は、SBU隊員全員に配られる様になった。それを上回って来た新人が青野と赤村である。奴等は、理論もへったくれもない。野性的な感覚で勝負する、杉沢田の「海上格闘理論」に納まらない"例外"であった。規格外の野性的な感覚で勝負するタイプは、マニュアルでは納まらない"天敵"であった。




