ここは民間会社じゃねぇ!
「ここは、民間会社じゃねぇ!」
青野にとっては肝を冷す様な言葉であった。確かに栄田3佐の言う通りなのかもしれない。自分は自衛官としての自覚が、足りなかったのかもしれない。
いずれにしても、自分が訓練で他の隊員を圧倒しているだけの事で、いい気になっていたのは紛れもない事実である。そもそもが自分が勝たせてもらっていただけの事かもしれない。そんな事も分からず大物に成ったつもりでいたのだとすれば、やはり名前の通り青いのかもしれない。
栄田三佐にとって自分程の戦士など過去に腐るほど見て来た事だろう。海外諸国の歴戦の勇姿も数多く見ているであろう。その栄田三佐が「甘い」と言うのであるから、それを聞き流す事は出来ない。自分の戦い方に大きな欠陥があるとすれば、それはやはり「実戦を知らない」その一点に尽きるだろう。
訓練で幾らSBU隊員No.1を取ったとしても、それはあくまで訓練でしかない。無論、訓練で出来ない事を本番実戦の場で出来る筈はなく、下位に甘んずるよりは良い。それは、隊員としての評価として記録は残る。だが、実戦となるとここから先は未知の応用問題を解くようなものだ。敵は本気で自分を殺しにかかって来るし、銃火器も装備している。白兵戦にならず、銃撃戦になる可能性が極めて高い。実戦においては、むしろ訓練で出ない様なイレギュラーな問題も確実に起こる。
SBU隊員は、どんな状況下でどんな事態に遭遇しても、対処する事が求められている。そういった事を踏まえると栄田3佐の「ここは民間会社じゃねぇ!」発言の真意も理解出来る様になる。SBUの場合頭で分かっているだけでは全然駄目で、実戦で有能な戦士は、どう行動するかが問われている。実戦が起こらないとされている日本だが、それは、今後どうなるかは不明瞭であり、海に周りを囲まれた島国であっても、核を用いない通常戦争になる可能性もある。
備えあれば憂いなしとは言えないが、日本と言う国家の現状を考えると、海上ではSBUは最後の砦である。海上自衛隊と言う組織にあって特殊部隊と言うくくりでまとめられるのは特別警備隊(SBU)だけである。




