この国を守りたいと言う気持ち
青野は、ベテランの明日山一曹に栄田三佐について聞いてみる事にした。明日山一曹は、SBU創設時からの数少ない隊員の一人で、創設時は海士長だった。明日山一曹は、叩き上げもいいところで、実戦経験はないが、米国海軍特殊部隊ネイビーシールズとの合同訓練では、模擬戦ながらシールズ隊員を圧倒したという"猛者"であった。明日山一曹は栄田三佐の事をこう言う。
「あの人は"スッポン"だ。目をつけた標的には命が危うくなるまで、食らいつく。人間的には悪い人間じゃねーんだがな…。」
「じゃあ自分はスッポンに吸い付かれたって事ですか?」
「かもしれんなぁ。」
「その基準は??」
「栄田三佐にしか分からないスタンダードがあるんだろ?」
「過去にもいましたか? スッポンに吸い付かれた不幸な人材は?」
「いるにはいたよ。でもみんな配置替えを希望して、どっかに行ってしまったよ。」
「自分は、スッポンに吸い付かれた程度じゃめげませんよ。」
「ふっ。それは見物だな。」
明日山一曹は、そんな青野にこうアドバイスを送った。
「青野、俺ももう20年近くこの部隊にいるが忘れちゃいけないのは、この国を守りたいっていうその気持ちだ。上官の嫌がらせとか、煩わしい人間関係にばかり、目をとられてしまいがちだが、俺達の存在意義というのは、あくまで海上保安庁の人員で対処不可の海上の脅威を排除する事だ。その技術を磨いておく。その一点に尽きると思うんだ。海上の脅威と言っても幅が広いが、俺達は海と言う広大な範囲に於ける"最後の砦"なんだ。幸いにして、SBU創設以来出動する機会は無かった。しかしながら、いつ訪れるか分からないモノが最強の恐怖なんだ。」
「勉強になります。やはり、明日山一曹に相談して良かったです!」
「なんかあったらいつでも聞きに来い! 俺達は同胞だ! 一蓮托生のな。」
「はい。では失礼します。」
青野は17:00の課業終了後に、初めてノートとペンをとった。それは、明日山一曹が言っていたこの国を守りたいと言う気持ちを、自分なりに書き出して見る為の行動であった。別に何を書こうとも思っていなかったが、不思議とペンは進んだ。SBU隊員として揺らぐことのない信念を固めておくなら早い方が良い。栄田三佐が何だ。自分の中の芯がぶれなければ良いのだから。
翌日、青野はそのノートを栄田三佐に見せた。




