デビル栄田
青野は、格闘訓練を終えて隊舎に向かうと、訓練を眺めていた栄田副小隊長に急に呼び止められた。
栄田佐文三等海佐は、防大卒のエリートで、SBU創設時からずっと隊員の育成を任されて来たバリバリの精鋭育成マシーンである。とにかくその立ち居振舞いから、井口二佐が鬼と呼ばれるなら、この栄田三佐は、デビル(悪魔)と呼ばれていた。
そのデビルに目をつけられた。井口二佐はどちらかと言えば、怖いが嫌味はない。栄田三佐の方がねちっこい怖さがある。とにかく隊員の評判は井口二佐以上に悪い。デビルの前にデビルなし。デビルの後にデビルなし。まさしくその言葉が似合うのである。
「おい! 青野。ちょっと強いからって調子に乗るなよ?」
「どういう事ですか? 僕が何か悪い事しましたか?」
「そういう態度だよ!」
完全にたちの悪い絡みである。
「僕には状況が分からないんで、説明してください。」
「何の為にお前はその黒桜をつけてる?」
「何の為にって……。国を守る為でしょう?」
「あんな甘っちょろい徒手空拳で守れるのか?」
「意味がよくわからないのですが……?」
青野も負けじと反論する。
「そんな姿勢じゃ実戦ではちぃとも役に立たん。」
「じゃあどうしろってんですか?」
「来い!!」
栄田は上着を脱いだ。
「お前のその鼻へし折ってやるよ。おらっ!」
栄田の強烈な右ストレート。
「やるな。ほりゃ。うわぁ。グフッ。」
追撃の左ジャブ。
「メインディッシュだよ!」
フィニッシュブローの回し蹴りが青野に炸裂した。
「ううっ……。痛ぇ……。」
「身の程を知ったか新人。おかわりもあるぞ?」
「お前があまりにも調子に乗ってると聞いたんでな。」
「誰だよ……。そんな余計な事ちくる奴。本当ついてねぇ。」
「戦場ならお前はもう2回は死んでるな。」
「1回目は不意討ちだったじゃないですか? 卑怯ですよ?」
「ふっ。甘ちゃんだな。」
「不意討ちはする方が悪いんじゃなくて、される方が悪いんだよ。」
デビル栄田、この人はガチで強い。




