機密だらけの部隊
コンコン
「入れ。」
「失礼しまーす。」
「失礼します。」
「青野和人二等海士です。」
「同じく二等海士の赤村甲太です。」
「私は井口徹二等海佐だ。君達がこれからつこうとしているSBUという組織について、恐らく何も知らないはずだ。だから、少し長くなるが私の話を聞いて欲しい。」
「SBUとは、Special-Boarding-Unitの略で、2001年今から19年前に創設された海上自衛隊唯一の特殊部隊である。和名は海上自衛隊特別警備隊だ。」
「我々の存在は機密扱いで、階級章等は身に付けない。バラクラバ(覆面)で、顔も分からないようにするという徹底ぶりだ。部隊の編制や規模も、司令官である私以外は知らない。」
「その機密性を活かして、有事の際には真っ先に戦場に派遣される。こんな部隊が海上自衛隊にあるなんて思わないよな?そりゃそうだ。この部隊が作られたきっかけは、不審船対策だ。北朝鮮や中国といった常連客から、イスラム国等の過激な思想を持ったテロリストを水際で防ぐのが我々SBUの仕事だ。ここまでで何か質問はあるか?」
井口二佐は教師のように優しく言った。
「自分達もそのSBU隊員に成るための訓練を受けるのですか?」
「何か不満そうだな? 青野?」
「そんなつもりはありませんが。」
「俺達、誰からも何の指示も無かったんですよ?今日まで3ヶ月の教育過程で本人の了解もえずに。酷いっすよ。」
「どうかしてると思うのが普通だ。理不尽上等普通の部隊じゃあねぇんだここは?海自であり海自じゃない。まだヒヨッコのお前らには分からない事かもな。」
「配属されるのも機密扱いだからですか?」
「そういう事だ。」
「ゆっくりお喋りしてられるのは今のうちだけだぞ。」
「やっぱり厳しい訓練が待っているんですか?」
「バカヤロウ!」
「1度海自に入ると決めた時から、そんな事は覚悟しているはずだ。甘えるな!」
「こんな機密だらけの部隊が自分に務まるものなのでしょうか?」
「そこは心配するな。どんな奴でも屈強な海の戦士になれるようプログラムを組んである。」
こんな調子で、SBU配属初日は質問合戦で、終わった。明日からはいよいよ本格的な訓練が始まる。二人は、とんでもない所へ配属されたものだと思った。
しかし、次第に慣れてそんな事は思わなくなっていく。日々の鬼のような訓練が二人を大きく成長させる事になる。