苦難の道
C班の土井海士長も負けず劣らずである。土井海士長は、アメリカの有名私立大学を卒業したエリートである。本来なら幹部候補生でも充分合格出来る実力を持っていたのだが、青春時代の多くをアメリカで過ごしてしまった彼にとって、日本の自衛隊の入隊制度までは、頭が回らなかった様である。
日本語能力が劣っている訳ではなかったが、制度を理解していなかった為、下級隊員に甘んじてしまったと言う異色の経歴の持ち主なのである。
土井海士長は、所々でその実力を発揮する為、上官からしてみれば、実に使い勝手の良い部下であった。勿論、そうやって上官に良いように使われている事を土井海士長は知っていた。
それでも海上自衛官になると言う夢を望み、その道を選んだのだから、文句の1つも言わなかったのである。
アメリカの文化をよく知る土井海士長にとって、人付き合いや、ごますりの技術ばかりで、人事が決まってしまう民間会社よりも、階級と言う分かりやすい目標と、努力によって、いくらでも切り開かれた道があると言う完全実力主義の自衛隊の方が遥かに魅力的だったのだろう。
アメリカ的な考え方や価値観からすると、完全実力主義を選ぶ事は納得出来る。しかし、土井海士長は、あえて大変な道を選択したとも考えられる。エリートだった彼が果たして何も知らずに祖国の特殊部隊に配属される筈はない。土井海士長は、幹部という楽な生き方よりも、一兵卒という困難な道を選択した。そう思っておくべきだろう。