万能なナイフ
鬼の隊長から出された宿題について、赤村は考えていた。自衛官は、憲法解釈がどうであろうと、必要があれば必要最低限の範囲で人を殺す事を許可された"軍人"である事に変わりはない。
「このナイフで人を殺せるか?」
井口二佐は何の為にこの言葉をかけたのか? 狙いがさっぱり分からなかった。
まぁ、確かにSBU隊員であろうが無かろうが、主権を著しく侵害してくる敵兵を排除する為の行動を取る事は、勿論制海権を取るのが、海上自衛隊の役目である。そこに政治の判断は入らない。そんな当たり前の事を知って欲しかったのか?いや、違う。だったらワザワザ、サバイバルナイフ何かじゃなく、20式小銃や89式小銃でも良い訳で、そんな事は、教育隊のあまっちょろい時期に叩き込まれる。
人を殺した事がある軍人とそうではない軍人とでは、戦闘能力に雲泥の差が出るという。人を殺す事を止められなくなった元スナイパーもいる。戦場では、何処で自分の命が狙われるか分からない。そういう状況の中で人を殺す事をいちいち躊躇っていたら、それこそ仕事にならない。
しかし、赤村はもっと深い意味がある事を直感で感じていた。考えれば考える程に泥沼にはまって行くような気配を感じたが、これは避けては通れない道だとも思った。そして、上官にヒントを貰うくらいなら許されるだろうと、淡い期待をした赤村が馬鹿をみた。最も今日は遅いから、就寝して明日の昼にでも聞く事にはなるが……。
ところが思うように寝れない。頭から殺せと囁くサバイバルナイフと井口二佐が頭から離れないのである。眠ろうとすると寝れない。そういゃあナイフって万能な道具だよな?TPOに応じて色んな事が出来るじゃん! それだ! 俺は人を殺す事にこだわり過ぎていたんだ。
すると、ようやく安眠に着くことが出来た。でも、ちゃんと大滝3曹には確認しておこうと思った、赤村である。