倉岩曹長のジレンマ
倉岩曹長は、赤村にこう語る。
「俺も自衛隊に入って20年近く経つが、駄目な上官なんて吐いて捨てる程見てきた。だが、残念ながらこの制服を来ている以上は、どんな駄目上官でも、そいつの言うことには従わなきゃならん。命をかける状況も、出てくる可能性もある。でも、俺は部下にそんなジレンマを持たせたくはない。部下にどう思われても、だ。俺はそういう青臭い理想を持って日々の任務にあたっている。俺自身が良い上官だとはちぃーとも思わないが、それでも部下に命を託しても良いと思わせるだけの実力は身に付いてるつもりなんだがな。」
赤村は、笑いながら腕立て伏せをする倉岩曹長をじっと見つめていた。
「まぁ、こういう仕事だからな。いつ死ぬかは分からん。でもな、赤村。お前も時期が来たら部下を持つ事になる。その時にきっと思う。俺は一体この部下を守る為に命をかける事が出来るだろうか?そして、倉岩曹長を自分が思うのと同じ様に部下は思ってくれるだろうかと。信頼で結ばれた強固な人間関係が無ければ、いくらSBUが個々の能力を高めた所で、強力な部隊にはならない。その位の事はバカな俺だって分かるさ。」
赤村は、倉岩曹長が人間関係で苦労してきた事をすぐに悟った。下士官で、最上位の階級でありながら、その限界に挑まざるを得ない、今の倉岩曹長の悩みの深さがよく感じられる。決して口で言う程に単純な事ではないのだろう。