井口二佐の悩みの種
井口二佐はよく、こう嘆いている。
「100億注ぎ込んで一機の戦闘機を作れたとしても、同じ100億注ぎ込んだ所で、良い部隊になるかは五分五分だろう。費用対効果の事をとやかく言うつもりはないが、金をかければ良い部隊になる訳じゃない。そりゃ、装備は一丁前のものは揃うかもしれない。しかし、海上自衛官を育てるノウハウを整えるには、時間も必要だ。要するに人材育成というのは、物質的ではない大切な何かが必要な訳で、我々士官の役目は、それをいかにして導き出すかに尽きる。SBUの様な新参者部隊なら尚更である。結局、どんなに金を注ぎ込んでも、人材育成のノウハウを確立するのは、容易な事ではない。民間企業の様な悩みを自衛隊は抱えている訳だ。国民の税金で全てが賄われる以上、費用対効果はある程度考慮される必要は大いにある。SBUの小隊長になって久しいが、未だに実際の所よく分かっていない部分は多い。」
「どういう教育をすれば立派なSBU隊員になるかは、ちっとも分かってないんだ。各隊員の不断の努力とガッツしかない。手探りの渦中にあるのは間違い無い。こうした悩みは、人材育成をしなければならない中堅士官レベルでは、ごく当たり前の悩みなのかもしれない。」
「いずれにしても、これからSBUが発展していく為の基礎を作っている段階としては、まずまずと言って良いだろう。まぁ、他人が評価してナンボのもんなのかもしれないが…」
井口二佐も彼自身の立場でそれなりに思い悩んでいる事がある様だ。