伝統墨主唯我独尊
その頃、青野は隊舎で上官の倉岩海曹長と話をしていた。
「赤村の奴井口二佐に何言われてるんですかね?」
「あーあ。多分隊長の挨拶喰らったんだな。」
「挨拶……ですか? それって自分にもあるんですかね?」
「その内あるんじゃねーか?」
「隊長の挨拶は新人にもれなく付いてくる全員サービスだからな!」
「良いことなんですか?」
「いや、ありゃあ最悪のサービスだな。」
「俺も最初はびびったよ。ありゃ痛かったよ。」
「え? その挨拶って痛いんですか?」
「隊長、腕っぷし強いのにガチの勢いで来るからさ。手加減一切無し。」
「うわぁ、やだなー。何でそんな事するんですかね?」
「意味もなくそんな事してるなら、只のパワハラだな。いや不適切にも程があるか。」
「つまり、何らかの意味があると……。」
「まぁ、隊長も色々経験してきてるからな。」
「その挨拶、避ける方法は無いんですか?」
「SBU隊員として、この部隊にいる以上は無理かもな。」
「赤村の奴大丈夫かな? あいつ、むきになると周り見えなくなるからな。」
「その心配は要らねぇな。隊長に勝てる新人なんかいねぇよ。」
「味方を殺すなんて事は、有り得ませんよね?」
「流石に、そこまではしないが、相当あのダメージはしんどいぞ?」
「入隊して半年、こんなに嫌な気持ちになるのは、初めてす。」
「6ヶ月か?入隊して?」
「はい、そうです。」
「あ、でも教育隊での課程をカウントしなければ、4ヶ月です。」
「その数字だよ。4→死だろ? 1回リセットする。語呂合わせだけどな。」
「え? そう言う語呂合わせでやるんですか?」
「あーあ。事実これを喰らって別配置になった人間は数多い。」
「うわぁー。それガチでヤバい奴じゃないすか?」
「まぁ、お前も喰らえば分かるよ。きっとな。」
「伝統なんすかね?昔の日本海軍見たいに。」
「海上自衛隊の理念は伝統墨主唯我独尊だろ?」
「はぁ……。そうっすね。」
どうやらこの鬼隊長は質の悪い鬼の様だ。それも相当の悪だ。