鬼の隊長 井口徹
SBU隊員誰もが恐れる鬼の隊長。それが井口徹という男の持っている本当の顔であった。勿論、赤村や青野も訓練を重ねる中で、先輩隊員から隊長のウワサを聞く事はある。だが、井口二佐から直接何かを指導されたり、叱られたりする事は無かった。
それは彼等が新人だからという事に他ならないのだが、まず鬼の目に留まったのは赤村だった。その時は突然訪れる。
「おい、赤村ちょっと良いか?」
この時の赤村は、特に何かをミスしたりした訳でも何でもない。いつも通りに上からの指示通りに動いただけの事だった。だが、別室に入った途端にデビルスイッチがオンになった。
「俺を殺す気でかかってこい!」
その目はいつもの穏やかな井口二佐のそれではない。赤村は言われるがまま、井口二佐を倒そうと殴りかかろうと振りかぶった時の事である。
カウンターで繰り出したワンツーパンチが赤村に炸裂し、そこからは井口二佐のワンマンショーだった。赤村も詳しくは覚えていないが、こう井口二佐に言った事は覚えている。
「はぁ、はぁ、何故こんな事をするんですか?」
確かに赤村に殴られる様な非はない。受け手によってはパワハラや職権乱用ともとられかねない。赤村の疑問は至極全うなモノであった。
すると、その場に倒れ込んだ赤村に井口二佐がバケツ一杯の水をかけて、気をしっかりさせてこう言った。
「もし、俺が敵国の兵士だったらどうする? 今の攻撃でもしかすると、殺されるかも知れないと思わなかったか? こんなに油断している様じゃSBU隊員として貴様がやってくのは難しいかもな。お前が何故このSBU隊員に選ばれたのか、その理由をきちんと考えろ。ボーッとしてんじゃねぇ!良いか?敵ってのは、戦場のどこから現れるか分からない。さっきみたいに、不意討ちで殺られる可能性は0%とは言え無い。それを赤村、君には知っておいて貰いたいんだよ。」
井口2佐はそう言うと、制服を着てそこから立ち去って行った。取り残された赤村は、呆然と部屋の天井を見つめていた。
「これがSBU小隊長の実力…か!?まるで大人が子供を力でねじ伏せるみたいだ。勿論、全然本気じゃなかったみたいだけど。」