道しるべ
SBUが精鋭部隊である事と、その隊員が優秀である事は既にクドイ程紹介した通りであるが、中にはSBUに馴染めない人間もいる。
"落ちこぼれ"という表現は適切ではないかもしれないが、そういう人間もいる。井口二佐や栄田三佐はそういう隊員が現れた場合は、決して無理をさせない。
あくまで、SBU隊員として充分にやっていく素質のある人間だけを、鍛え上げて行く。出来ない人間に対して出来ない事を押し付けるメリットが、どこにも見当たらないからである。本人が例え落ちこぼれていても、やる気を失っていなければ続ける事もある。そういう人間は化ける可能性がある事を知っているからだ。
精鋭部隊を作り出す為には、並大抵の努力では出来ない。だからこそ、出来ない人間に無理をさせて、折角なった自衛官の職を失わせるのは、自衛隊全体にとっても利益が少ない事ではある。この人間はSBUでやっていけるなと、思って実際に訓練してみると、使い物にならなかったという話はよくある事ではある。決して珍しい現象ではない。
そういう挫折した人間に手を差し伸べ、どう生きるのかを教えるのは、栄田三佐や井口二佐の仕事である。縁あって自衛隊に入隊した人間に対して、SBU隊員の素質が無かったからと言って、切り捨てる様な行為は上官にあるまじき愚行である。自衛隊に存在する部隊は、当然大多数が、SBUのような部隊ではない。人間には向き不向きがある。それをきちんと見極める事は、SBUが持続的に発展していける部隊であるかという事を示している。
人間力で社会が成り立っている以上、その人間力に差があるのは、当然の事ではある。個人差はどの組織でも生ずる。それを個性として、適材適所に振り分けるのも、幹部自衛官の勤めだ。出来ないから切り捨てる。それは簡単な事だが、最もやってはいけない事である。