出なくて良いのなら…
確かに海上自衛隊上層部の意向も無視は出来ないが、それ以上にトールゼイ大佐の存在は、SBU の部隊を取り仕切る井口二佐にとっては、大きなものがあった。トールゼイ大佐はこうも言う。
「ネイビーシールズは今でこそ世界トップクラスの特殊部隊だが、発足間もない第二次世界大戦の頃は、貧弱な部隊そのものだった。だが我々は戦争を重ねる中で成長していった。」
SBUも発足して約20年。まさに今が過渡期の真っ只中なのである。もし仮に今SBUに出動命令が出たとすれば、成長する為の絶好の好機。と、井口二佐は思っていたが、現場の人間はそうは思っていなかった。B班班長小野沢一尉の言葉を借りるとするならば、こうなる。
「確かに、実戦経験を積み重ねる事は大切な事かも知れないが、実際の任務に勝る訓練はない。しかし、SBUが出動しなくて良いなら、それが一番だ。その平和と安定の状態を保つ事が、自衛隊員の仕事だ。」
小野沢一尉の言っている事は正論だ。確かにSBUが、出動しなければならない様な事案が、起こらない様に目前で水際対策を講じる事は大切だ。SBUは、どんな事態になっても対応する訓練に励むべきであり、それが使われない事がベストなのである。
そういう想いがあっても、不思議な事ではないと思う。海外での演習により、SBUの存在意義や自分達が、何をしなければならないのかを深く深く考えさせられいた。きっとそれは、日本での訓練では得られない経験値と感情だろう。
一人一人が高い士気を持つSBUだからこそ、自分達がどの様に使われるべきか、という細かい所まで思案するのだと思う。それは決してマイナス的な事ではないだろうと思われる。勿論現場の意見は尊重されるべきだろう。