映画監督と総合プロデューサー
井口二佐には、信頼している米海軍将校がいる。アイゼルト・トールゼイ米海軍大佐がその人だ。トールゼイ大佐は、アメリカ海軍特殊部隊ネイビー・シールズの、総隊長である。
トールゼイ大佐は、アフガンやイラク戦争で、出動して実戦の経験を持つ。トールゼイ大佐と、井口二佐との出会いは、SBU創設時の2001年に遡る。
そもそも、SBUの創設を強く望んでいたのは、アメリカの方だった。日本にレベルの高い特殊部隊が存在していれば、ワザワザアメリカ本土や別の作戦地域にいる、シールズを呼び寄せて事態に対処する必要がなくなる。大規模な兵力を持っているアメリカでも、あくまで大切なのは、国益であり、アメリカ合衆国民の生命と財産の保護にある。同盟国の安全はその次だ。トールゼイ大佐は、井口二佐が小隊長就任にあたって、こう述べている。
「ミスターイグチ・君はこの部隊をシールズと同等かそれ以上の組織にするつもりはあるか?」
井口二佐は、こう答えた。
「発足間もないですが、列国に負けないだけの組織にするつもりはあります」
「私はシールズ隊長として、SBUが高い練度を誇る部隊になる事を望む」
最初の二人の会話はこの程度だった。しかし井口二佐はその後、トールゼイ大佐が望む以上の組織にSBUを育て上げて行く。合同演習の時に顔を合わせると、
「腕をあげたな。」
「いえ、まだまだです。」
というやり取りをするのが恒例となった。井口二佐にとっては、トールゼイ大佐は映画監督の様なものであった。仕上がったSBUは、映画そのもので井口二佐は、それを仕上げて行く総合プロデューサーの様なものであったのだろう。だから井口二佐はトールゼイ大佐に認められる様に部隊を仕上げて行った。