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紋章刻印(ステータス)


一族特有の世界や人に影響を与えた偉業、神具の欠片、異界の情報の片鱗、魔獣、神獣の一部、魔術、卓越した武術などを核として組まれた一子相伝の固有術式。


それは継承され続け、一族の歴史、先祖代々積み重ねてきた呪詛(きせき)である。


その恩恵は絶大で刻印継承者に超常的な力を(もたら)し、その力が強ければ強いほど一族の繁栄は約束される。背中に刻まれた刻印の重みは計り知れず、継承者は授かった力に報いるため、紋章刻印(ステータス)のレベルや能力を高めていく運命にある。


そして、ある一族の紋章刻印(ステータス)を継承させる儀が行われていた。

少年二人が木刀を手に打ち合っている。現当主である、かんざし玄星げんせいはただそれを傍観していた。


「うぉおおお!!!」


少し背の高い少年、かんざし駕月(かるな)は相手に隙を与える間もなく咆哮と共に木刀を振る。その猛攻を全て静かに受け流す、かんざし夜己(よな)。互いが打つ、打つ、打つ、木刀の激しい衝突音が響いた。

そして凄まじい打ち合いの末、勝敗が決した。

   

駕月かるな、貴様は負けた。これから、かんざし家は夜己よなが継ぐ、お前は直ちに去れ」


地面に伏せた我が子に対して冷然な態度で告げる。


「・・・はい、父上」


駕月は目に溢れ、こぼれそうな涙を堪え、噛みしめる、父の言葉にただ頷き、決闘の場から立ち去る。

かんざし一族にはある仕来(しきた)りがあった。兄弟を戦わせ勝利した方に家督を継がせるというものである。そして兄である駕月かるなは弟の夜己よなに負けた。一昔前は兄弟同士で命のやり取りをしていたようだが、今は敗北した者は家を追われるのみとなっている。

駕月はその習わしに(のっと)り、身支度のため屋敷に戻り、自分の部屋へと向う。すると道中、下人達の小言が耳に入った。


「長男と言えどやはり実子である弟君には適わなかったか」

「駕月様は血が滲むような努力はしてきたが夜己様のような神童相手では仕方ないだろう」

「おい、駕月様がお見えだ。口を慎め」


拳を握りしめ表情は意地でも変えなかった。


(才能がない、わかっているさ。それでも俺は父上に・・・父さんに認められたかった・・・)


玄星の妻である、お(よう)は身体が弱く、かんざし一族は子宝に恵まれなかった。まだ赤子で身よりのなかった子を駕月と名付け養嗣子ようししとして引き取り、跡取りとして育てた。だが夜己が生まれ、駕月は長男だとしても血の繋がりのない者、存在意義がなくなったも同然であったが、周り反対を押し切り玄星とおようはかんざし一族の伝統、決闘の儀を説き、周りの者を無理にでも納得させ、駕月を家族として滞在を許した。


(だけどその日々も今日で最後だ)


薄暗い部屋の中、屋敷を発つために荷物をまとめる。

だが、その手が止まっている。疾うに覚悟は決まっていた。決まっていた筈なのに、涙が止まらなかった。


(…俺は…俺は…ッ!!)


言い様がない思いが込み上げる。声を殺し、袴を握りしめた。この結果に不服はない自分の実力が足らなかった、それだけのことだと駕月は自分を納得させる。ただ心残りは亡き母の寵愛と父の期待に報いられなかったことだった。


すすり泣く音がただ虚しく部屋に響いていた。


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