八話 変人組織 その2
「ふむ、早速だがアイアンフリーズとキュロットはRED CHASERに所属してもらいたい。それは両者への益となるはずだ」
「…………つまり、知っているんですね『深き紅』を。…………いえ、追っているんですね、彼らを」
鉄はキュロットのアホの子属性に頭を悩ませている。故に黙りだ。グラスゲートはマインが全部話してくれるので黙って聞いている。
キュロットの問いに、マインは無言で頷いた。
「…………妹を…………助けられるのでしょうか」
「焦るな、とは言わないさ。だが、急いては事を仕損ずる。…………結局は君次第なんだ。もちろん、全力でバックアップはするけどね」
そんな予想はしていたので、俺らが国連の組織に加入することは特に異議はない。
だから、これからのことを聞く。
「俺らは何をするんだ?」
「あぁ、色々としてもらう事になるだろう。なるべく殺人はさせない任務を任せるつもりだよ」
「具体的には?」
「まぁ君らの『力』が今ひとつ分からないから、今は決めてない。…………そもそも、自分らの力を把握はしてるのかい?」
「丈夫な体だ」
「火が出ます」
「…………」
マインは頭を抱えた。
二人ともフィーリング派の天才肌なのか、ざっくりとしか把握していなかった。
「はいはーい、お茶を持ってきましたよー」
無言の空間にお茶を運んできたグラスゲートが瞬間移動で現れた。
「あぁ、ありがとう」
「ロータスさんもどうぞー」
「すまないな、ありがとう」
「あっ、そういえばマインさん。『RED CHASER』の構成員ってどんな方がいらっしゃるのですか?」
先ほどまで無言の空間だったのが辛いのか、キュロットが話題を振る。
「俺を含めて10人だ。…………最も、今12人になったがな。部下は多数いるが、俺らが『RED CHASER』だとは知らない。そうだな。先ずは先輩に挨拶回りに行こうか」
「私の出番ですかー!誰から行きます?」
「…………そういえばテレサはどうしたんだ?」
「…………あー!!」
(アホの子2号………だと……)
既にキュロットにアホの子認定をした鉄は、さらなる伏兵に戦慄する。
〜〜〜〜〜
場所は変わってここはとあるマンションの一室。窓はカーテンで締め切られていて、蛍光灯の明かりが無機質に部屋を照らしている。その部屋には寝るためのベッド、着替えをしまうだけの箪笥、置物と化したテーブルのみがあり、必要最低限を極めたような内装だった。部屋は一面薄い青、シアンに近い青で統一されており、内装のシンプルさも相まり雪解け水のような清廉さを感じさせる。
そんな部屋の主は現在昼寝をしていた。すやすやと安らかな寝息を立てて、何とも満足そうな寝顔をしている。
そんな折に来客が1人。
「むふふー。今日こそスミス姉に仕返してやるー」
来客は、玄関から入るとかチャイムをまず鳴らすとかの常識なんぞ知るかという勢いで部屋の主の『真上』に瞬間移動してきた。その眼はまるで獲物を見つけた猛禽のような、肉食系のそれだった。
が、
ガシッ、ボフンッ! と、空から降りてきた鳥をワニが食べるように、来客は部屋の主に身体を拘束され、ベッドの中に引きずり込まれたのであった。
「えっ、待ってよスミス姉!そこ、そこはぁぁぁ!やめてっ!あぁっ!」
…………………………。
……………。
………。
1時間経過。
「こ、このエロ姉ッ!アレは反則じゃないかなー!もうお嫁に行けないー!アホー!バカー!」
「ふふふ。先に手を出してきたのはどちら様かなぁ?グラスちゃん?」
「……………。うぅー、みんなにエロ姉って布教してやるんだからー」
ベッドの上で対面する2人。もちろんやましいことはない。さっきのも滅茶苦茶に擽ってるだけだった。
部屋の主の名前は、エアロスミス。職業はスナイパーである。しかも、かなりの凄腕だ。こんな形をしているが。
「成る程ね、新人の挨拶回りかぁ」
「じゃー、エロ姉はもう起きたし、呼んでいいよねー?」
「ええ。構わないわぁ」
その返事を聞くなり、来客はーーーグラスゲートは能力を使う。シュン、と空気の急激に流れる音が鼓膜を揺らす。
数秒経って、空気を押し出す音と共に、部屋の広めのところに数人の気配が現われた。
「なんでみんな玄関から来ないかなぁ」
と、部屋の主はぼやくのだった。
「やぁ、エアロスミス。急ですまないが新人が2人入った。氷室、キュロット、こっちが我らが死神、スナイパーのエアロスミスだ。エアロスミス、こっちの2人が新人の氷室とキュロットだ」
そう話を切り出したのはマイン。鉄とキュロットは軽く挨拶すると、エアロスミスもそれに応じた。
「死神だなんてぇ。人聞きの悪いこと言う。ただの狙撃手ですよぉ」
「その狙撃能力が可笑しいからウチにいるんだろ。違うか?」
「えへへぇー」
都合の悪いことは笑ってごまかすタイプのようだ。このエアロスミスという人物は。
「おいロータス、こいつ本当にそんな死神スナイパーなのか? 俺には気の抜けた女子大生にしか見えんのだが」
水を差す、または横槍を入れるとはこのことだ。それまで明るい雰囲気が一気に冷め上がる。
そんなことを気にしてないのか、分かっててやったのか、多分こうなるのを知らなかったしそれが意味することも理解していないのだろう。
まぁ少々荒い言い方なのは、彼の女性免疫のなさに起因しているのだが。
「ちょっと、氷室さん! それは初対面の、更に先輩に対して失礼すぎやしませんか!?」
「まぁそう言うな氷室。こいつはそう言う奴なんだ。空気職人の名は伊達じゃない」
キュロットからのツッコミと、マインからの補足を受けた鉄はひとり納得する。
つまりは空気を操ることに長けるとか、そんな感じの能力を持っていると。
「……………成る程な。理解した」
「まぁ、仕方ないですねぇ。自覚はあります。でもぉ、変えるとなると色々と面倒になるんですよねぇ」
彼女、狙ってこのキャラではなく、どうやら天然のようだ。自覚はあるといった手前、試行錯誤もしたのだろう。
……………結論、スナイパーだとばれない為にはこのスタイルが一番だと分かったようだが。
「よーし、エロ姉は終わったし、次はどこ行きますかー?」
そして本当に自己紹介だけして次へ回ろうという気のロリが1人。
「あぁ。次はヴェルキンだよ。彼はこういうのを放置すると煩いからね。更に言えば、これが君たちの初任務となる」
グラスゲートから新人2人へと目を移して言うマイン。初任務と聞き、2人は自然と身構えた。
「それで?俺らに何をさせようってんだ」
「まず君らには中東のある集落に向かってもらう。そこでヴェルキン・ダイヤモンドという人物に会ってもらう。そして、そのまま任務に流れる感じだ」
端的にそう述べると、さも当然のように外国へ発つと言った手前新人2人は不意を突かれていた。
「マジかよ」
「じゃあ、グラスゲート。頼んだぞ」
「あいよーロータスさん」
間抜けな掛け声と共に緑のオカッパ少女はその場の全員を転移させた。
あっという間の出来事に、鉄やキュロットは呆然としていた。エアロスミスはもう慣れっ子なのか、終始ふわふわした表情と雰囲気のままだった。
シアンの部屋は、あるべき姿に戻ったのであった。