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七話 変人組織




「グラスゲートの奴、やりやがったな」


「君、彼女に飛ばされたクチかい?」


眼鏡をかけたノッポの男が、彼女の名前を聞いた途端目の色を変える。

ヤツの知り合いだろうな。おそらく。

人というものは無意識下では、自分が慣れ親しんだ場所を好む傾向にある。超能力者でも、それは変わらんということか。


「ああ。緑のオカッパ頭だろう?」


「そうだね。成る程、一応聞くけど、君……………一般人じゃないだろ?」


「その成る程が何なのかはわからんが、ちゃんと仕事をして生きている成人男性という区分でなら、一般人ではない」


「素直に違うと言えないのかい?」


「……………ここは何処だ」


「……………『秘密基地』さ」


「これまたご立派な」


どうやら知り合いは確定のようだ。ついでに言うと同僚か何かか。

ここは何処かと聞くと、目の前の奴は秘密基地なんて言いやがる。

超能力者、秘密基地などという単語に、凄く嫌な予感がする鉄であった。


「それは褒めてると受け取ろうか。あ、自己紹介がまだだったね。僕の名前はマイン。マイン・ロータス。職業は魔術師とでも言っておこう。僕らは『国連連合軍第0特殊部隊RED CHASER』に所属するエージェントで、1人ひとりが国家機密クラスの存在。僕が一応この組織のリーダーとなっている。


…………よろしくね、アイアンフリーズ?」


(クソッ!なんて日だ。俺の情報が既に握られてやがる。5年間の平穏が全てしっぺ返しだと言わんばかりじゃないか)


鉄本人としては非常に嫌な自己紹介だった。マインとグラスゲートを知ることにより、国家機密を個人が知ることとなった。これで逃げようものならCHASERの名の通り、どこまでも追ってくるであろう。しかもバックは国連ときた。


「……………ハァ」


「自己紹介でため息は酷くないか?」


「茶番はよせ」


「僕は根に持つタイプなんだ、すまないが」


スカした態度に多少ムカつく鉄であったが、先ほどのキャロットを思い出し、動きかけた手を止める。


だから代わりに口が動いた。


「まっ、そんなダッサい眼鏡かけてるあたりで察するから気にするな」


してやったりという顔をする鉄。低レベルの争いに大の大人が反応する訳もないのは自明なのだが、今回に限ってそれは違った。

彼、マイン・ロータスは眼鏡にかける拘りや情熱が強い。彼は数ヶ月に一度、新しい満足の行くメガネを買ってきては、おどろおどろしいオーラを発しながら満面の笑みで眼鏡をかけている。メガネを変えた当日はとても気分が良く。部下の失敗にはとことん厳しいマインだが、その日に限って少し甘くなったりする。

そんな人生の半分くらいは眼鏡、いや、もはや本体が眼鏡というような勢いでメガネを愛する男。それがマインという男でもあった。


つまり、鉄は地雷を踏み抜いてしまったのだ。いや、クレイモアを大ジャンプして踏み抜くレベルで、やっちまったのだった。


「……………おいテメェ」


「お?」


あからさまな豹変に、こんなんで釣れるとはチョロいなと思う鉄だった。





「今、俺のメガネのこと何つったァ!!!!!!」





「釣れたか」


呑気なことを言う鉄であったが、突如としてマインの周囲に『出現』した、重機関砲爆撃砲迫撃砲ガトリング砲ロケットランチャー対空ミサイルといった砲という砲を見て、息が止まる。


そして、事もあろうに、マインは『秘密基地』のオフィスにも関わらず、全主砲をブッ放った。


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!」


響き渡る爆音。オフィスの壁など紙を破くように吹き飛んで行った。


「FRAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!」


相対するは人外。


そのままでも十分人に撃つには過剰戦力なそれだが、明らかに火薬量と弾の素材が魔改造されている。その砲弾を、刀を模した手で凌いでいる。


砲撃の音でわかるが、撃った弾の間隔が短すぎて一つの轟音に聞こえる。


無数の砲弾を捌く鉄の体は、人の目には阿修羅や千手観音を思わせるように、残像が幾つも見えていた。


(クソッ、予想外だった……………こいつ、魔術師とか言っていたのは本当のようだ。どういう理屈だか知らないが、あれらの重機関砲、まるで玉切れを起こす気配がない。……………いや、そもそも弾を込めてるのか?畜生、どうなってやがる)


鉄の思う通り、砲撃は一向に止む気配もない。加えて、鉄も疲労を見せる気配も一向にない。

まるで時間がループしているかのようなその空間は、意外なことで終わりを告げる。



「何!?えっ?何これー!!?」


まるで異空間から聞こえてきたかのような、その場には異質な声。


「グラスゲートか!よく来た、こいつを止めてくれ!」


好機、とばかりに本物の異次元からやってきたその少女、グラスゲートに砲撃野郎を止めるように言う。


「あー、多分ムリ。『お兄さん』任せたよっ、そこで暫く凌いでてねー!」


それだけ言って彼女はすぐさま瞬間移動した。


「待てッ!おい!」


(逃げられたか…………援軍はないと判断した方がいいな。彼女の言う『暫く』がどの程度なのかが分からんが…………。流石にこの勢いが丸一日続くなんてことはないだろう)


この間にも、怒り狂っているマインは轟音と質量とを放っているし、冷静すぎて逆に余裕をかましている鉄はその手刀で砲弾を斬り続ける神業を止めない。


そこからは長い持久戦となった。暫くしてマインの方が先に力尽きた。力尽きたと言ってもその目はまだ怒り狂っているままだったのだが。マインが力尽きてしまった原因は、単なる栄養失調。簡単に言えば腹が減ったからマインは負けたのである。


「ねー、おじさんはロータスさんのメガネを侮辱したのですよねー?」


しれっとその場に来ているグラスゲートが現れるなりそんなことを言う。もちろん、キュロットも一緒だ。

鉄が適当に相槌を打つと、グラスゲートは「この場を丸く収めたいので………お願いしますねー?」などと言ってきた。 つまりは取り敢えず形だけでも謝れという事なのだが、鉄はそういうことを毛嫌いしていた。

故に真っ正面から「いやだ」と言ったら、マインは執拗で、エネルギー補給をしたら地の果てまで追ってきて絨毯砲撃をするという。

流石に面倒なので鉄は折れる事にした。

そして戦場の爪痕を残したオフィスの残った椅子にそれぞれ腰掛け、話を続けるのだった。


「で、どこまで話したっけ」


「RED CHASERの活動目的とか話したんですかー?」


「…………よし、思い出した。そうだねグラスゲート。僕ら『RED CHASER』の活動目的はこうだ。まずは世にも奇妙な能力を持った者を集めて保護。また、表沙汰にできない事件を解決したり、冒涜的な宗教団体の動向を逐一記録し場合により弾圧する。その特殊性から国連のトップシークレットとなっていて、その情報セキュリティは正攻法じゃあ絶対解析不可能なんだ」


「あい、分かった。かなりヤバい集団に目をつけられたって事だな俺たちは」


どこまで話したかを確認するマインに、グラスゲートが話題を振る。手元に何もない時点で紙媒体にすら情報を残してはいけないようだ。


「その通りだ。だが安心してくれ。僕らは君らに危害を加えるつもりはない」


「いやー、実に開放的なオフィスだなここは。そう思わんか?」


「…………。君らがこちらに悪意を持たない限りは、としておこう」


「ロータスさん、これはフォローできないわー」


あんな事をしておいてどの口が言うのだろうか。


「…………おいキュロット、ボーっとしてないで話聞いてろよ?」


「はっはい!『深き紅』についてご存知ありませんか!?」


(駄目だこいつ本当に早くなんとかしないと……………)


そろそろこのオレンジ頭にアホの子認定をしそうな鉄だった。

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