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第1話

 私の名前はフィリス・マギカ。

 マギカ商会の次女で、フランク王国にある国立魔法学園の2年生。つい先だって16歳になりました。


 わりとよくいるブラウンの髪にブラウンの目。とりたてて特筆するべきところもない、まあ平凡な顔立ちです。

 魔法学園に通うからには凄い魔力があるのかとよく聞かれますが、残念ながらそんなこともなく……。

 魔力量は平均以下、お勉強も苦手、運動もダメ、……言ってしまうと、私は魔法学園の中では落ちこぼれなんです。

 そんな私が何故この学園にいるのかというと、これはもう「国立魔法学園卒業」のお墨付きがほしいからより他ありません。

 今後どんな進路に進もうと、このお墨付きがあるのないのとでは将来が大きく違ってくるのですから!


 ここフランク王国にある国立魔法学園は、世界的にも有名な魔法に特化した学園です。

 王家の庇護の元恵まれた環境で勉強できるのにもかかわらず、国立なので卒業後はフランク王家の柵に阻まれることなく自由にできるとあって、世界中から優秀な魔術師の卵が集まる事でも有名です。

 ですから将来の夢は「国の発展の為に!」ですとか「新しい魔法の開発!」なんて言ってらっしゃる皆様の横で、私のように将来確実にお仕事をゲットするため……、なんてことはとてもじゃないけど大きな声では言えません。


 でもこんな私でも自慢できる特技があります。

 それはとても良く眠れること。


 思えば小さい頃からよく母に「フィーは本当によく寝てくれて助かるわ」と褒められていたものです。

 お蔭で今ではいつでもどこでも、すぐに、ぐっすりよく眠れる、そんな子に育ちました。

 ……え? そんなの特技とは言えないって?

 あまりお友達には理解していもらえませんが、これってとても便利な特技なのですよ?

 例えばこちらの魔法学園は全寮制。生徒一人一人に個室が割り当てられます。

 ですが入寮当初、良く眠れないという悩みを持つ方がたくさんいたのです。きっと皆さん環境が変わって寂しくなられたのでしょうね。

 でも私はこの特技のおかげで毎日朝までぐっすり、とても気持ち良く眠れていました。

 他にも大事な試験やイベントの前でも、私は今まで一度も緊張して眠れなかったり、寝不足になったことはありません。

 どうです? すごいでしょう?

 最近では私がお友達に差し上げた「気持ちよく眠れるように刺繍した枕カバー」や「特製アイマスク」が好評で、少しずつ私の安眠グッズが口コミで広がっています。

 この分で行けばいずれ私がこの学園を卒業した暁には、お父様に頼んで小さなお店を開くこともできるかもしれません。

 その名も「フィリス安眠堂」なんて、ちょっと素敵だとは思いませんか?


 とにかく私は学園いる間に安眠グッズの開発に勤しもうと、毎日頑張っているのです。







「うーん、キャンディ……、これだと虫歯が心配ですね」



 自室の机の上にずらりと並んだお菓子を前に、私は腕を組んで悩んでいます。



「チョコレートだと溶けることもあるし……、ミントだとかえって目が覚めてしまうかも? マシュマロは……」



 その時トントンというノックの音がしました。



「フィー? 入りますわね。まあすごいお菓子の山ね。これは一体どうしたの?」



 入ってきたのは親友のアナスタシアさんです。

 アナはランドール伯爵のお嬢様で、濃いピンクの髪がチャーミングなとっても優秀で素敵な方です。



「アナ、お久しぶりです! 帰っていらしたんですね。お姉様の結婚式はいかがでした?」

「お姉様と義兄様はもちろん素敵だったけど、あとは退屈なお披露目と顔合わせですもの、私には興味ないわ。ねえ、このお菓子少しいただいてもいい? 私もお土産があるのよ。一緒にいただきましょう」



 アナはニコニコしながらそう言うと、後ろに控えていたメイドさんにお茶の支度を指示しました。

 伯爵令嬢のアナには学園でも専属のメイドがいるんです。すごいですよね!

 美味しそうなお菓子やお茶のセットが次々の机に載せられていく中、アナは私の前に積まれたお菓子をさも不思議そうに見ています。



「それでフィーはこのお菓子で何をしていたの?」

「これはですね、ナイトキャップの代わりになる物を探してたんです」



 そう! 最近私が開発している物は特製ナイトキャップです。

 ナイトキャップと言っても帽子のほうではなく、よく眠れるように飲むお酒の方ですね。



「私、常々思っていたのですけど、夜寝る前に飲み物をいただくとトイレに行きたくなりません? もちろん眠りを促す薬草の丸薬や粉薬もありますけど、それだって飲むときにお水が要りますよね? それにお酒だと子供は飲めないし、持ち歩きに不自由な時もあると思ったんです。だから何かもっと違う形にできないものかと」

「まあ、確かにそうかもしれないわね」

「ですよね! だから飲み物ではなく、何かお菓子のように口の中ですっと溶けてなくなるものがいいんじゃないかって思ったんです」



 そう言いながら私は勉強机の上からお菓子を幾つか手に取りました。



「最初に考えたのはキャンディーなんですけど、キャンデイーって無くなるまで時間がかかるし、寝る前に食べると虫歯になりそうですよね。チョコレートは溶けちゃうし、ミントはかえって目が覚めそうだし……」

「メレンゲはどうかしら。口に入れるとすぐ溶けてなくなるわ」

「メレンゲ! 軽くていいですね! でもすぐ割れてしまうから、持ち歩きには向いてないかも……?」

「そうね、確かにメレンゲは持ち歩きには向いていないわね……。そうだ! いい物があるわ!」



 そう言うとアナは後ろに控えているメイドさんから、真っ白なリボンが結ばれた水色の箱を受け取りました。



「これはどうかしら。あなたのお土産に持ってきたの。開けてみて」

「うわあ、ありがとうございます! なんでしょう?」



 ドキドキしながら可愛い箱を開けると、出てきたのはピンクの小さな薔薇が付いた角砂糖でした。

 箱にぎっしり咲いたピンクのお砂糖の薔薇は、まるで見事な美術品のよう。食べ物とは思えないほどの可愛いさです。



「うわ~、なんてかわいい!」

「うふふ、そうでしょう? お義兄様が結婚のお祝いに特別に作らせたんですって。ピンクの薔薇はお姉様の好きなお花なのよ。ロマンティックよね」

「これ、私が使っていいのですか?」

「もちろんよ! フィーが作る安眠グッズはいつもお世話になっているもの。お姉さまだってあなたのファンなのよ? 結婚式前に緊張して眠れない日が続いていたそうなんだけど、今回お姉さまにプレゼントしたお部屋に焚くアロマを使ったらぐっすり眠れたんですって」

「そうなんですか。役に立ってよかったです! じゃあこれが完成したら、まずアナに差し上げますね」

「嬉しい! 楽しみにしてるわね」



 私は頂いた水色の箱をぎゅっと抱きしめました。

 うふふ、これで材料は揃いました!






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