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落ちこぼれ二世の逆襲  作者: 竜胆千歳
第一章 働く事は難しい
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千榎の受難2 兄夫婦は容赦無し

結局、コーナー関係なしでやると打ち合わせであったので、家族の話が始まった。

「……夢の4割事件から、千榎の料理道が始まったよね」

「夢の4割事件?」

視聴者も義姉さんも分からないと思うので、ウチが説明を入れる。

「母さんは料理が上手くて、時々帰って来た時の料理を楽しみにしてたんだけど、……ただ、あの人は父さんと2人で右の天然、左の変人と仲間内で有名らしくて、手巻き寿司の予定って言ってたのに、食卓には牛丼が置いてあったり、助っ人選手に自分の実家の場所を聞いてたり……あれで進学校の学年トップって信じられないアホだけど」

他にも変態な本格派投手がいる。そして、野手にもアレな方々は一杯いる。オトメンなショートや、自由なセンター、血の気が多いライト、監督シンパのキャッチャー……──いずれにしろくせ者揃いの選手だったそうだ。

「──事件は小学校に上がって弁当を作ってもらった時だったんだけど、作って入れたからって言われたからそのまま学校に行ったの、それで昼食にカバンを開けたらあるはずの弁当が無いの。──自分が確認しなかったから怒らなかった。だから次の日は弁当箱を確認して持って行ったんだけど……」

「……食べかけのおかずが入ってたんだよね」

「そんなの、なぜ入れたんですか……」

義姉さんの意見はもっともだ、普通食べかけのおかずが入れる人なんて、イタズラ犯しかいないが、それを素で間違えるのが母さんだ。

「さすがに怒って、作るか作らないかはっきりしてよ! って言ったら、次の日は空箱だったの……」

「作らないって選択は普通しませんよね……」

義姉さんが呆れていると、兄さんが補足をする。

「……間にちゃんと成功するのを挟んだから、千榎は期待したんだけどダメで、3回繰り返した後に自分で作るようになったんだ。……その時千榎が言ったのが──」

「母さんの打率って最高1割8分だったよね、弁当なら10割いくのが普通なのに、12回やって2回しか上手くいってない……打率すら下回ってるよね! 半分とは言わないから、せめて4割は作ってよ! それが出来ないなら自分で作るよ! ──それを聞いた母さんは『自分で作ってね〜』……だって」

「悲しすぎる4割ですね……おまけにそれすら保証出来ないんですね」

基本良い母親だと思う、尊敬しているが手本にはしていない、というかならない人だ、父さんも以下同文。

家族ネタもほどほどにして、義姉さんのバンドについても質問する。

「そういえば義姉さん、バンドのメンバーって義姉さんから見てどんな人たちですか?」

「そうですね……グループ分けするなら、屈折したギター組と、へこたれないリズム隊ですね」

「ボーカルの牧田斐文(まきたあやふみ)さんはなんか世間に噛み付く感じはありますけどギターの野呂飛鳥(のろあすか)さんは大人で落ち着いた雰囲気ですよね」

義姉さんは野呂さんについて、ある見方をしていた。

「基本、ちゃんと付き合わないと信用すらしない人です。前の事務所と方針で揉めた時に酷い事言われていたらしくて、自分から人に優しくする人ですけど、相手に期待しない人です」

「意外ですね……──じゃあ、へこたれないリズム隊のベース、櫻井玲央(さくらいれお)さんについてはどうですか?」

「激情家ですけど、大切な人が貶される時に1番怒っているのを見ると、結構お人好しです。自分が失敗しても、積極的にまた挑戦していく気持ちが、メンバーの中で1番強いですね」

義姉さんがメンバーの中身を説明をしていると、兄さんが唐突に話しかけてきた。

「……千榎のラジオで楽しみなのが、モノマネコーナーなんだけど、……今日はやらないの?」

『夏木千榎の七色変化球』で人気のコーナー、『モノマネ3打席勝負』は、リスナーさんから投稿された、お題の違うモノマネを3つやって、放送作家さんの判定で三振・ゴロ・安打・ホームランの評価があり、安打3本かホームラン1本で1失点、1カ月累計5失点すると、罰ゲームでコスプレしながら次週放送するという、ラジオで意味あるのか? と思う誰得な罰ゲームである。ちなみに写真で撮り貯めているらしいので、写真集で売られる可能性がある。自分とっては時限爆弾みたいな罰ゲームだけど、ちなみに罰ゲームは2回だけやった事があるけど、なんだかとてもシュールな光景だったのを覚えている。

「いつも聞くけど、流行や難題、果ては下ネタまであの手この手で千榎ちゃんを追い詰めようとしていますよね、これまで罰ゲームは何回でしたか?」

「1年やって2回炎上しましたね、その時のコスプレが、魔法少女とメイドさんでした」

それにしても謎チョイスだ、メイドはともかく、魔法少女は成人前だから、少女なのかと疑問があったから、今のうちにやっておけるのはやっておけ感満載だった。まあ、楽しんでいた部分は多少あったけど。

「……今日は僕と小夜のお題もやるのはどうかな?」

「えっ!?」

隣の部屋にいる放送作家さんに目でどうですかと聞くと、親指を立ててやってくれと言ってきた。……味方はいないのか!!

「……オボエテイロヨコンチクチョウ──じゃあ、最初のお便りは、ラジオネームシック・タックさんから、『パンツの良さを力説する、中吉ワイバーンズマスコットアズールと、それを真剣に聞いているキャッチャーの中上玄さんの合わせ技を』という事です」

……分かったかな? 声真似でマスコットなどの無茶ぶりを、知恵と技術と勢いで乗り切るのがこのコーナーの見どころだ。相手に怒られるギリギリを攻めないと、ヒットやホームラン判定をされる。この点、ピッチングに近いところがある、内角を突いていかないと打たれる、攻め過ぎてもぶつける危険がある。そんな感じで必死にやっていたら、名物コーナーになって人気が出てきたのは嬉しい。

「──アズールさん、どうしたんですか?」

彼氏の姉だから、声真似は完璧。問題のアズールは、ボードに書く音を出して……。

「──うんうん、今履いてるパンツがお洒落で履き心地が良いんですね。亀鑑(きかんくんと隼人はやとくんにオススメしてみよう──判定は?」

「アウト!」

ゴロ判定の声が大きいと、結構ギリギリという事になる、ちなみに三振はバッターアウトと言うので分かりやすい。今回は少し危なかったか……。

「……動画サイトとかで聴けば分かるけど、玄の声は結構似てるよ」

「本人が聞いたらどう思うのかは分からないですけどね」

玄姉さんをあんまりイジり過ぎると、10倍返ししてくるから、この放送を聴いてない事を祈るばかりだ。

「続いてはラジオネーム野球狂の腐女子さんから、『アニメ『レーザービーム』のヒロイン、カンナのドキッとする発言をお願いします』と……」

この人は結構投稿してくれる人で、ウチが出ているアニメのキャラを、モノマネしてくれと言う人だ。……ハッキリ言うと、やり過ぎると降板させられそうで、緊張感半端ない。

「ねえマッサージしてくれない? ──あっ……そこ…うん……はぁ~ありがとう、気持ち良かったよ……──判定は?」

「バッターアウト!」

結構強気で攻めた結果か、三振判定が出た。……これ、審判役の真倉さんニヤニヤしながら聞いている辺り、セクハラで証拠押さえれば裁判勝てるんじゃないかと思う時が……。

「……千榎ってピンクな作品にも出てたから、幅が広いよね」

バコッ!

嘘ではないし、隠しているつもりは無いが、家族に言われると腹が立つ。とりあえず、近くにあったマイクで頭を叩いた。

「……嘘じゃないのに」

「柊くん……それはダメだよ」

ウチの家族はデリカシー無い人ばっかり! そりゃウチだって多少そういうところあるけど、生放送のラジオで言うな。

「でも、幅を広げるためにやったのも理由って聞きましたし、前にやった妖艶なキャラは凄く決まってましたよ。結果的に『夏木千榎』の実力を高めたなら、良いんじゃないんでしょうか?」

ムカムカした気持ちが残っていたが、義姉さんのフォローで何とかマイクを机に置く事に成功した。

「……まあ、清純派って呼ばれるのが嫌いではありますね、声やドラマとかって違う自分になれるじゃないですか、主役も脇役も何でもやりたいんですよ、大人な作品でも、色んな年代の人が楽しめる作品も、だから凄く欲張りですよ」

思わず自分の本音が漏れてしまった。何だかウチがゲストみたいだ。

「じゃあ、最後は兄さんと義姉さん。どんなのをやってもらいたいんですか?」

 こんな事を聞くのは、恐怖以外の何物でもないのだが、聞くしか無いだろう。

しかし、兄さんは想像の斜め上を行く人だった。

「……ストレスが溜まって、彼氏に赤ちゃん言葉で甘える石井千榎で」

「モノマネって言ってるでしょ!!」

まさか、ここに来てまた暴露されるとは思わなかった。

……その後、やったかどうかは言わないが、家に帰って、海に慰めてもらったとだけ言っておこう。


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