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落ちこぼれ二世の逆襲  作者: 竜胆千歳
第一章 働く事は難しい
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千榎の受難1 心は豊かに、頭は冷静に

ずいぶん放置しまくってましたが、再開しました。

「諦めるのは全部が終わってから! やる前に諦めたら本当に終わるから、やるだけやろうよ──お兄さんの夢を叶えてあげたいんでしょう?」

「……そうだな、お前に喝を入れられて決心したよ、この試合、勝ってやる!」

「……うん! 頑張ってきてね、わたしも勝てるように全力でサポートするからさ」

「……はい、カット」

「どうですか? もっと気合い入れて鼓舞した方が良いですか?」

人気野球アニメのヒロインの声を入れて、スタッフさんの評価を聞く。

「いや、流石ナッチャン、良い仕事するよ。これでオッケーだよ」

1発オッケーが出ると、心の中でガッツポーズが自然に出る。ただし、表情には軽めに嬉しさを見せる程度だけど。

「田沼さんありがとうございました、お疲れ様です」

「おつかれ、早く帰って彼氏の顔を見せてあげなよ」

「お言葉に甘えて行ってきます、隊長!」

先輩に対しワザとらしい敬礼で、スタジオを出て行って家に急ぐ、私の目標は年収1000万を稼いで、声優を続ける事を認めてもらう事だ、リミットは20歳と契約を結んでいるので、正直あまり余裕は無い。それでも、人気や実力は認められつつあると感じるのは、去年の月給は80万届くか届かないか程なので、目標まで指先が触れる所まで来ている。

因みに声の仕事で1000万なので、アニメ・吹き替え以外の、ナレーターとラジオパーソナリティは全額、音楽活動はキャラボイスで全額、それ以外は半額カウントされるので声で勝負しろと理解している。

「ただいまー」

「お帰りなさい、ご飯を作って~」

「分かりましたから、ちょっと待っててくださいね」

そうそう、我が家には同居人がもう1人いる。真田美伶(さなだみれい)さん、海の親友の彼女で、色々あって今は我が家に居候している。最初我が家に来た時は、自殺するんじゃないかと、少し心配していた程精神的に不安定だったが、今は大分落ち着いて、私と海のご飯を催促したり、ラブラブな時間を邪魔するまでに回復した……うん、回復したらしたでイライラする。

「そういえば、3日前は楽しそうだったね~独り身には刺激が強かった」

「ヘボご飯か粉ミルクのお粥、好きな方を選んで下さい」

「ゴメンナサイ」

全く、人の踏み込んだ愛情表現を茶化さないで欲しい。因みに前者は母さんの実家からで、後者は恵おばさんによる、澪の病弱脱却法の一環として、今も飲み続けているために実際に置いてある。どちらも栄養満点で体に良いが、公表するとドン引かれるのが欠点だ。

「千榎ちゃんも澪君も常識人だと思っているだろうけど、常識のある変人だからね、ちゃんと分かってる?」

「ウチらは良識的な常識人です、決して変人では──」

「彼氏はストレスが溜まると、12球団のマスコット人形と会話してても? 彼女は疲れが溜まると何故か赤ちゃん言葉で彼氏に甘えまくっていても? 変人では無くても、充分壊れているよ」

「……こんなウチらに誰がしたかといえば、周りの人達でしょうね、あなたを含めた」

事実を述べると、美伶さんはニヤニヤしながら、「否定しないんだ」と言ってきた。本当に彼氏さん、さっさと引き取ってくれないかな……ロクに澪との時間が取れないし。

「今度、名古屋でトークイベントやるんでしょ? 鬼まんじゅうよろしくね〜」

「はいはい、その代わりちゃんと勉強見てくださいよ」

この人は文武両道という言葉がぴったりの才人で、芸能人の親友を地元の有名進学校で学年2位をキープさせ続ける実力もあり、教える方も上手い人だ。海にも一緒に勉強を教えてもらっているが、高校卒業してから審判になったので、大学に入ってからは専らこの人に教えてもらっている。揉め事を起こして、4大はいくつもりはないみたいで、今は短大生だか、学歴抜きで本当に頭良い。

 取り敢えず、美伶さんのご要望にある程度応えるため、まともな料理を作って海の帰りを待つことにした。



                    

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 地元に帰ってトークイベントが終わり、仕事話と近況報告のため、里帰りしている兄さんと会った。

「結婚して1年、どうなの、兄さん?」

「……うん、幸せだよ。千榎も後少しで結婚ってなっているけど、目標額は到達出来そうかな?」

「夢物語で無くなっている所までは来ているかな、海は目標達成しているから、後はウチ次第だね」

 本来なら行きつけの喫茶店で美味しい紅茶を飲みたかったけど、行きつけの喫茶店が休日だったので、適当なカフェでお茶をしていた。ちなみにここの紅茶は茶葉をケチっている味をしていた、紅茶もコーヒーと同じだから、茶葉や豆などの元をケチるとどうなるか? 想像通りの結果になる。まあ、入れ方も重要だけど、紅茶を売りにしていない日本のカフェに、ちゃんとした入れ方をする店がさほどないので、一口で諦めた。

「……いざとなったら、仕事を増やしてもらえる様に掛け合ってもらうから、頑張ってね」

「兄さん……優しすぎ、ありがとう!」

 思わず兄さんを抱きしめた、ラジコンの腕前は歴史に名を刻む程凄い兄さんだが、子供の時にはあまり家事の役には立たず、色々と苦労したが、なんだかんだで優しい兄だ。

 でもこれが、自分の黒歴史を刻む事件になるとは、思ってなかった。



                    ☆☆☆☆☆☆



『人気バンド、ジェネラル・サックドラマー藤堂小夜の旦那、人気声優と不倫! 地元の喫茶店で密会していた!!』

そんな記事が週刊誌に出て、美伶さんは爆笑していた。こっちは結構面倒な事になっているというのに……。

「千榎ちゃんだけだよ、兄妹で不倫スクープ出るのって!」

「家族と公表してはないからですけど……これってあんまりですよ」

 ちなみに、義姉さんに連絡したら『わたしも思わず笑ってしまいました、記者さんには、あの人なら全然問題ないですって、言っておきましたから』と言っていた。そんな事言ってたら、関係が冷え切っているとか言われちゃいますよ、義姉さん!

「ただいまー、千榎、しゅう君にも恋しているんだって?」

海が帰って来て、笑いながらイジって来た、うん、大丈夫だ。ちなみに柊とは兄の名前だ。母さんの名前、ひさぎは本当は楸と書きたかったらしいが、人名漢字ではないのでひらがなになったそうだ。

「これ、本当に目標に影響出るから、洒落にならないんだけど……」

「明日のラジオで、言えば良いと思うよ。ついでに柊君と小夜さんにも出てもらって、大暴露大会にしちゃえば、数字も取れると思うし、一石二鳥」

「父さんに許可を取るよ……」

電話を掛けると、コール音が止んで、通話になった。

「パスコードをどうぞ」

「20XX040271」

「はい、どちら様ですか?」

「お父さん、千榎だけど雑誌の一件で話したいけど、時間空いてる?」

色々と頭のネジが飛んでいる両親のために、毎月パスコードを変更して、詐欺に遭わない様に工夫している。今月はお父さんの初登板の時に先輩が打った、決勝打の球数だ。

「良いよ、何がしたいの?」

「兄さんとの関係を公表したいんだけど、義姉さんも困らせてるし、良いかな?」

「うん、良いよ、ただし、ペナルティがあるから」

自分が撒いた種とはいえ、そのペナルティを聞いて、愕然としたよ、かなり、財布と体力を使うペナルティだったから、ああ、なんてこったい。



☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「夏木千尋の、七色変化球!」

ラジオタイトルがコールされ、番組がスタートした。今日は結構な人が聴いているんだろうな、主に芸能記者関係が。

「さあ始まりました、夏木千尋の、七色変化球! 今週はあれですよね、ウチがドロボウ猫とか言われて初の公の場所なんですけど、最近住んでいる所に色んなきしゃが煙を上げて走っているんですよね、……きしゃ違いだろっていうしょうもないダジャレかました所で、今回はゲストを呼んで来ました。記事に関係ある人ですよ、では、どうぞ」

「こんばんは、ジェネラル・サック、ドラムスの藤堂小夜です」

「……その旦那の石井柊です、いつも妻と妹がお世話になってます」

病気で声帯を取って、ネックレスから出る音で会話する義姉さんといつも通り吃音が出る兄さんが自己紹介をした所で、ネタバラシをする。

「兄さん、ウチら付き合っているんだって!」

「……一生言われるね、兄と付き合っているって報道が出た声優として」

「婚約者がいるのに、よくもまあそんなデタラメが……」

「そうそう……えっ?」

ちょ!? そこまでバラすんですか!? そんなの聞いてないですよ義姉さん!

「あと1年、本気でやらないと、声優廃業しないといけないんですよ、義妹は。ですので応援してください」

「……相手も実家に帰らないといけないので、どうかよろしくお願いします」

……うん、色々と爆弾を投げまくられてる。

「いい加減にしてよ兄さん! 義姉さん! 身内の秘密暴露しまくってないで、最初のコーナー行くからね!」

最近義姉さんも兄さんに似て、無茶苦茶やる時が出てきた。爆弾を撤去しようとしたら、別の爆弾を放り投げられた気分だ。

これから更に出るであろう爆弾に戦慄しながら、生放送のラジオがスタートした。どうなるんだろ……。

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