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落ちこぼれ二世の逆襲  作者: 竜胆千歳
第二章 夢の続き
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光り輝く為の戦闘証明

千榎の予告通り、練習が本当に増えたせいで、椿おじさんの仕事をあまり受けれなくなった。

「海君が主夫でも良いよー、穂鷹君と芝蘭ちゃんのお世話もしないといけないし、千榎が活躍出来るようになってるから。それに、海君のバンドが上手くいったら、仕事用の曲プレゼントして欲しいから、出世払いって事でよろしくー!」

結婚前提で話されてるのは嬉しいけど、娘はやらんというお約束に対応したかったので、ちょっと贅沢だけど残念だ。ちなみにその時は、アレをネットに晒すっていう脅しネタを見せて、ある程度千榎のストレスを抑える算段だった。

ともかく、練習量が増えて、格段にサビが取れてきた。そして、宗介君のバンド話も本格化して、メンバー全員と顔合わせになった。

「みんな集まったな、それじゃあ紹介するけん。このイケメンがギターの伊達時雨だてしぐれ、こっちのナイト系がベースの日向直倫ひなたなおみち、それでこっちの優男がドラムの中上海じゃ」

「伊達です、気軽に時雨と呼んでください」

「日向と申す、こちらも下の名前で呼んでくだされ」

イケメンと紹介された時雨君は、緑色のサラサラヘアに、少し影のある色気を放った大人の男性といった美男子で、ギターと言われてとても納得する。直倫君は、紫色の髪のオールバックが似合う、少し悪役顔の強めな顔をしている。ナイトと言うより話し言葉がサムライ色が強いのは気になるけど……。

「えー中上海です、ケンカは弱い上にケガすると病院にすぐ行かないといけないので、なるべく手は出さないで下さい」

「むっ、ドラムスとは思えないお方……」

なんだか舐められている感じはするけど、実際に病気の事があるから、音楽の事でぶつかる事があっても、口論程度で済ませたいからね。

「宗介君の紹介なら、どこぞの馬の骨なんて紹介しないでしょう。どれだけやれるかは分かりませんが、最低限の仕事はやってくれないと困りますので、せいぜい頑張ってください」

こっちはこっちで値踏みされている、なんだか第1印象はあまり良くないみたいだ。プロを目指すというのなら、それ相応の力量がないと足を引っ張る、運がないとプロに行っても成功しないけど、チャンス待ちの状況まで作らないと話にならないしね。その点、時雨君の判断は正しい。

「最年長のお眼鏡に叶う人材じゃけん、そこは心配しなくていい。なんなら今からセッションに行くか?」

「ええ、御託を並べてもキリがありませんし、直倫君の不安が払拭されるか、宗介君が早くも老眼になったかはっきりさせた方が良いでしょう。皆さんもそれで良いですか?」

僕も直倫君も頷き、機材の準備をして30分後に西郷邸に集合となった。

西郷邸に機材はほとんどあるので、スティックとスネア、インカムを持っていくだけなのはありがたい。そのお礼に里奈・真奈姉妹に何故かコスプレや女装を披露しているのは、複雑……とても複雑だけど、当然かな。ミーさん共々、穂鷹と芝蘭の面倒も見てもらってるし、どれだけの援助をしてもらっているのかと思うと、それだけじゃ返しきれない気がする……。

一足先に着いて、事情を里奈ちゃんに説明すると、喜んで貸してくれた。その時やけに嬉しそうにしていたのは……アレか。

「里奈ちゃんの彼氏に認められるように頑張るから、部屋を借りるね」

「はい、もちろん。終わったら早く時雨君に逢わせて下さいね」

西郷邸に来る前に2人について調べたら、2人とも裏系で、時雨君は杏おばさんに仕える、使用人兼工作員で僕より年上のバンド最年長者。直倫君は宗介君と同じフリーランスで、宗介君と同じ歳の親友らしい。千榎と同じ歳の人が、何人も裏道系に身を置いている状況になっているのが、少し残念だ。そんな事をしないと生きていけない人が多いという事でもある。見る限り不幸では無いだろうけど、この道以外の平凡な幸せもあるのに。自分も片足踏み込んでいる時点で、裏道系がかわいそうとは思わないけどね。

先にチューニングを済ませ、ちょうど時間が近づいていたので、いつでも演奏出来る様にスティック回しをしながら待っていると、時間5分前に時雨君が、3分前に宗介君が、10秒前に滑り込みで直倫君がやって来た。サムライな割にそこら辺はルーズなんだね……。

「申し訳ない、道に迷った」

「良くそれで稼業をやれますね、それでも生計を立てられる辺り一流なのは認めますが、早くこのバンドを武道館クラスにして、ベースだけで食べていける様にしなければ、すぐに立ち行かなくなりますよ」

うわぁ、慇懃無礼を体現したひねくれ具合。俺様ではないけれど、これから付き合っていくとなると、少し苦労しそうだ。そう思うと里奈ちゃん、最初の頃大変だっただろうね……。

「じゃあ早速だけど、ここに来た理由のドラム披露からだね。直倫君と一緒にセッションしようか」

「あい分かった、それではカウントを頼む」

スティックでカウントを取って、セッションの先陣を切る。微笑みかけながら直倫君の方を見て、早く早くとアイコンタクトを取る。

4小節目から直倫君が参加して来て、リズム隊がぶつかり合う熱く、それでいてクールなグルーヴでギター2人を圧倒する。

演奏が終わると、時雨君が優しく拍手を送ってくれた。

「先程までブランク明けと聞き、一抹の不安しか無かったんですが」

「それは普通に不安しかしてないよね」

やっぱりちょっとバカにされてたね、確かにそんな情報あったら不安にもなるのは仕方ないけど。

「ですが、今まで聴いてきたアマチュアやプロのドラムの中でも本当に素晴らしい物を持っています。ところで、前職はプロ野球審判でしたよね?」

「うん、そうだけど」

「ドラムの腕という素晴らしい才能を持っているのに、わざわざそっちに行くなんて、貴方少し変わってますね」

失礼な! だけど否定出来ないのが余計悔しい……だけど、選んだ事に後悔は全くない。それだけは自信を持って言える。ただ、時雨君の発言も間違ってはないけれど。

「先程の無礼を詫びたい、技術だけでない、とても良い演奏だった」

一緒にやった直倫君からも、高評価を受けたのも良かった、ボーカルはおろか、ベースに信頼されないドラムが、バンドの屋台骨を支えられる訳がないので、一歩前進かな。

「それじゃあ、ワシと時雨兄も交えて少し音を出してみんか?」

「いつでも良いよ」

直倫君も頷いたので、軽くスティックを回してリラックスした状態でカウントを取る。

始まりから、時雨君のギターがクールであでやかな音を鳴らして進んでいく。それに負けじと宗介君が、軽やかでかつ、力強いエモーショナルな音を鳴らしてハーモニーを奏でる。方向性があまり近くでは無いのに、その音がとても迫力があって、パワーを感じる。

やがて演奏が終わると、宗介君が最初口を開いた。

「上出来じゃな、この調子で曲を作ったんじゃが、ちょっと弾いてもらえんか?」

楽譜を渡されたので、内容を見てみると千榎より簡単で驚いた。こんなにラクで良いんだね!

「なかなかの要求具合、少し骨が折れる」

「ギターの比重が大きいですから、やり甲斐がありますね。まあ、実力を見せるチャンスです」

あれ、みんなかなり上手なのに、これが難しいのかな?

「千榎嬢の曲が難しすぎるんじゃ、レベル100やった後に、レベル70をやったら、多少は楽に思えるじゃろ。あと、海公がボーカルやっとらんのもあるし」

それもそうか、ドラム叩きながら歌うのは結構キツいんだよ。おまけにドラムもボーカルも、全くサボらせてくれないし。

「千榎殿の曲はそんなに難しいのか?」

「確かスリーピースバンドでしょう、打ち込みで華やかにしているのでは?」

「それなら、先にやってみようか」

「ベース無しになるから、少し薄っぺらいが、それは勘弁してくれ」

ヘッドセットを着けて、宗介君に目配せして1曲歌う。千榎がいないから余計に表現が大変だけど、触りまではしっかり歌えた。

歌い終わった後、時雨君が唖然としてピックを落としたのが、とても面白かった。それでも、イケメンはイケメンだった。

「確かにとても難しい、それもボーカルとドラムを同時に高いレベルで要求してますね。これを文句も言わずに喜んでやるなんて、変態じみてますよ」

「それ、褒めてるんだよね……?」

「認めてなかったら、無視するだけじゃ。認めながらディスるのが兄貴の褒め言葉じゃけんな」

これは相当……本当に里奈ちゃんはどうしてこの人を選んだのか、調べたけど、教えてくれなかったんだよね、顔だけで選ぶには相当癖が強過ぎるから、多分他の面もあるだろうけど。

「さて、改めて宗介君の曲をやろうか」

「あんな良いボーカルでやるのもありではないか?」

「ツインボーカルでやると、セロバみたいになるから、宗介君の良さを前面に出すためなら却下で」

宗介君のあの豊かな低音ボイスは、時雨君のギターも相まってとても魅力的だ。そこに僕の高音が入ると良さが霞む。僕の高音で消される程、宗介君はヤワじゃないけど、音を増やせば良いものでもないからね。バランスさえあれば、引き算でやるのもアリだ、特に時雨君のギターもなかなか良いし、この2つを中心に組み立てればとても良い曲が出来そう。

「というわけで海公、カウント」

「うん、行くよ」

シンバルカウントで始まった曲は、時雨君のギターでロケットスタートを決めた。不気味で激しいリフに、ベースの重低音と豪雨ばりの手数の多いドラムの中から、宗介君の声が一気に突き抜ける。このバンドは千榎のバンドとは全く違うけど、輝きは負けず劣らず光を放っている。

練習が終わった後、宗介君がみんなに感想を求めてきた。

「どうじゃ、このメンバーでやってく自信があるんじゃが」

「結成しても問題ないでしょう、この音楽とこの場所は居心地が良いので」

「無論、この皆の者とやっていきたい」

「僕はみんながやりたいのなら、ついていきたい。みんなが描く色がさらに良くなっていくのを近くで見ていきたいし、そのお手伝いをさせてもらえないかな?」

みんなでやっていく事に決まり、片付けながら結構大事な話を始めた。

「バンド名をどうします?」

「保科バンドとかはどうじゃ?」

「悪いが、それは格好がつかない」

そういえば、千榎とのバンドも名前がまだ決まってないんだよね。ライブに出る頃にはちゃんと決めようって話だけど……とりあえず、宗介君に命名してもらうのは止めてもらおう。

「ウルトラマリンブルーとか?」

「曲名ならともかく、バンド名としてどうなんでしょうね」

「じゃあ時雨殿はどのような案が?」

「RAPEとかどうでしょう」

「間違いなく苦情が来そうだね」

「英語で菜の花という意味で名付けたのですが」

「どの道野郎だけしかいないバンドで、菜の花はメルヘン過ぎてアウトじゃ」

seedrapeとかの方がまだ菜の花と伝わるけど、このバンドの曲調で菜の花は可愛すぎる。せめて椿とかアマリリスならまだ、組み合わせ次第で何とかなるだろうけど。

「はぁ名前決まらないね、バンドは凄いのに……」

「何を今更、プロにも引けを取らない表現力と実力がありますよ」

「でも、それを証明しないと注目してもらえないよね……」

すると、直倫君が手を打って何か閃いた表情を浮かべて1つの案を出した。

「このバンドの凄さを証明していく、というならコンバットプルーフというのはどうか?」

戦闘証明コンバットプルーフですか、確かに雄々しくてカッコいいですね」

「音の響き的にコンバットプルフはどうかな、その方が日本人的にも言いやすいし」

良かった、最終的にマトモな案が出て……保科バンドはちょっと嫌だった、ジェネラル・サックの時もそうだったけど、僕も大概ネーミングセンスは無いかも……。

「それじゃあ、こんバンドはコンバットプルフで決定じゃ!」

全員納得した所で、片付けも終了して、里奈ちゃんに鍵を返すのとお礼を言いに行った。

「ありがとう、里奈ちゃん」

「いえいえ、こちらこそ時雨さんをよろしくお願いします」

「……人の妻と話すにしては、距離が近くないでしょうか?」

鍵を返すのに3メートルも離れて返さないしね……こんなルックス良いのに、結構ヤキモチ焼きなんだね。せっかくだから、里奈ちゃんに旦那さん(正確には婚約者)の好きな所を教えてもらおう。

「えっ……そうですねー……」

もしかして無いのかな、そうしたらどうしよう。本人いるのに火種を撒いちゃったかも、時雨君、ゴメン……。

「口が悪いのに、さり気なくフォローや、気遣いができる所でしょうか。ルックスも良いですし、何より意外かもしれませんが、一緒にいて居心地が良いと思える男性です」

良かった、ちゃんとあったよ。それにしても居心地が良いというのは凄いね、好みが分かれそうな性格だから、その言葉が出るというのは余程ウマが合うのだろう。

「この後仕事を一緒にやった後、デートに行くんです」

「良かったね、お仕事頑張ってね、時雨君もお幸せに」

「その言葉、一応素直に受け取っておきます」

一言余計なのは、里奈ちゃんに免じて無かった事にしよう。それにしても、時雨君は、過去に何かあったんだろうね、そんな屈折した受け答えしか出来なくなるような何かが。

 他所のカップルの仲睦まじさに、少しだけ嫉妬しつつ、僕も千榎の愛情チャージをするために、急いで帰っていった。

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