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落ちこぼれ二世の逆襲  作者: 竜胆千歳
第一章 働く事は難しい
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愛情は容量を守って

久しぶりにスッキリ寝た感じのする朝を迎えた、一瞬部屋が広くて驚くけど、一昨日報道陣からミーさんを守るため、ざくろちゃんの持っている別宅に仮に借りたんだった。狭い東京で空気も読まず、広い枯山水がある庭に和風の屋敷。……結局同棲してるのがバレそうな存在感だ。

「そう言えば、昨日の夜から記憶が曖昧なんだけど……」

やけにスッキリしてるけど、寝間着は着て……ない! あれ、ベッドから出たら危ない感じになってる。昨日ちゃんと着たのは覚えているのに!

「ま゛待って……もうムリ……!」

隣を見ると苦しそうにしてるのに、どこか嬉しそうなな表情を浮かべた千榎が寝言を言っていた。はてさて、どんな夢を見てるのやら……。

「千榎、起きて! ……って!?」

しまった、布団を剥がすと自分のポロリを数少ない読者さんに……と思ったら千榎も危ない!?

「はっ……!? 」

詳しく描写すると、怒られそうなので黙っておくけど、とりあえず、千榎が目を覚ましたら3秒位間があった後、こっちを見て挨拶を交わした。

「おはよう、海」

「おはよう千榎、昨日何があったの?」

「あれだけやって全く覚えてないなんて……」

千榎が打たれちゃいけない所で打たれて、呆然としているピッチャーと同じ、哀愁漂う表情をしていた。

「だから何があったの?」

「えーと、酒癖がワイルドなのに酔いが覚めると全く覚えてない人と一緒に酒を飲んだ気分だよ……」

「……うーん、お酒は全く飲まないし飲めないから、酔っ払った先輩の介抱するし多少は分かるけど、質問に答えてないよ?」

「……大魔王降臨してたって言っても、全く身に覚え無いんだろうなぁ」

今度は大事な試合でノックアウトされた投手を見る監督さんみたいな、怒りと諦めが混ざった複雑な顔をしていた。……例えが全部野球なのは、僕がキツい審判をやる位野球狂だからです、ゴメンね。

「……とりあえず久々にスッキリ出来たから、良かったのかな?」

「ウチは全身筋肉痛でボロボロだけどね!」

「本当に昨日何があったの!?」

「ウチの口から言えるかぁ!!」

そんなワーワー言っている中、コンコンとノックがして慌てて千榎を隠すと、大家さんが入ってきた。

「あら、ゆっくり眠れましたか?」

「半裸の男子を見て、普通に接する女子って……体育会系のマネジ?」

「人の裸体で騒ぐ者は、社長候補として期待すらされませんから」

「どんな教育を受けたのかな……」

ざくろちゃんだったので、千榎もベッドからひょこっと顔を出して会話に参加する。

「……千榎お姉様、ぜひくびれを、くびれを作るコツを!!」

「ひゃあ!?」

「さっきの発言どこいったのかな!?」

千榎にダイブし、彼氏がいるというのに体を弄るってそれでも令嬢のする事?

「睡眠はバッチリです、運動もしています。なのに、なのになんで歳がそこまで変わらないのにここまで差があるんですか!」

「ちょ、あっ……う、海助けて!」

「はいはい、ざくろちゃん、落ち着いてー」

ざくろちゃんを千榎から引き離す事に成功すると、余程コンプレックスなのか結構粘って質問してくる。

「なんのサプリを使えば、あんな推定Fカップ以上の巨乳になるんですか!」

「なんのサプリも飲んで無いよ、むしろサプリはリスク高いよ!」

などと朝っぱらから、アパートだったら隣から壁ドンされるレベルの騒々しさで女子2人が言い合っている。ちなみにホルモンのバランスやら、栄養が届いてないやら睡眠不足やらなどの理由で胸の大きさは変わるらしいよ。まあ、胸が大きいから千榎が好きになった訳でなく、例えダイエットなどでささやかになったとしても、千榎の事が好きなんだけどね。

「男は胸が大きいから好きになるんでしょう、だから私はモテモテになりたいんですっ!」

「海、男としての意見を忌憚なく言って!」

「忌憚なく、ね……とりあえず、千榎を好きになったきっかけは胸が大きいからじゃないし、僕が言っても説得力があるかは分からないけど……好きになった子がタイプって言うのも大きな意見の1つである事は間違いないね。タイプだから好きか、好きだからタイプになるかは人それぞれだけど。ざくろちゃんの場合は武器があるからそれを磨けば良いんだと思うんだけどなぁ?」

「わ、私の武器って!?」

「着物が似合う上品さ、これは一朝一夕に出来るものじゃ無い。ルックスも可愛らしいし、会話をしてても落ち着いていて聞き上手、探せば色々出てくるから、心配しなくても大丈夫。ちゃんとした男性が来るだろうし、最悪、あっち系の人から凄い人を探せば……」

「ボスの姪と知って求婚するお方がどれだけいるか……」

「そんな甲斐性無い人と結婚しても、どの道上手く行かないと思うけどね」

さっきツッコまなかったけど、結婚を前提にした付き合いをする前提みたいだけど、その辺からしてしっかりしてるなあ、ザ大和撫子ってキャッチコピーを入れても、なんの違和感も無い子だ。

「ちなみに、結婚するならどんな人が良いの?」

「口が堅くて、私の裏事情を知っても大丈夫な人、出来れば容姿は平均位は欲しいですわ」

「1つだけめっちゃハードルが高い!」

口が堅い人はある程度いるし、ルックスはそこまで求めないなら結構範囲は広いけど、世界の裏組織をほとんど牛耳る伯父さんがいるから、大抵の一般男子は腰を抜かすんじゃないだろうか……。

「やっぱり、胸が大きい方が……」

「違うから! 自分の胸じゃなくて相手の度胸の問題だから!」

千榎の言う事に首を縦に振った、胸は胸でも意味が全く違う。

でも、こうやって体の悩みで恋愛相談をするなんて、ざくろちゃんも思春期真っ只中だとちょっと安心した。背負っているものが常人には考えつかない大きなものだ、プレッシャーになってないか心配してたけど、こうやってワーワー言っている内はまだ大丈夫だろう。

「じゃあ、ある程度納得してもらったところで、着替えとかしたいから一旦部屋から出て行ってくれないかな」

「本当にある程度ですけど、そういう事なら一旦退散しますわ──あと、ある程度のお片づけはあなた達でやった方が良いと思います」

ざくろちゃんがやけにニヤニヤしながら部屋を出て行ったところで、お片づけというフレーズが気になったので辺りを見渡したら、みるみるうちに顔が熱くなっていった。ヤバい、この惨状をざくろちゃんに見せちゃったんだ……!?

「本当に昨日何やってたんだろ!?」

「……仕方ないから手伝ってあげるよ、後でゴスロリ人形になってね」

「お……お願いします……」

女装でしかもゴスロリ……だけど、それ位の事はしてそうだから、甘んじて受け入れます千榎様。



☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「お姫様、お手をお貸ししましょうか?」

「ち、千榎……」

部屋を片付けて、約束通り銀色のウイッグに、ゴスロリファッションに身を包んだ僕は、思わずドレスの裾を掴んだ。こ、こんな格好で今日1日デートだなんて……。

「ダメですよお姫様、わたくしはタツヤです。お間違えない様に」

そういう千榎は燕尾服に長い髪を服の中に隠し、サラシにスポーツブラをつけて胸を目立たせなくした上、お腹に詰め物を入れた格好をしていた。オマケに声域が広いのを利用して、男性かと間違うバリトンボイスを出す。本当に文武両道で嫉妬しちゃいそうだけど、その分やたらめったらトラブルに巻き込まれている辺り、嫉妬の度合いはすぐに下がっていく。入れ替われと言われても上手くやっていく自信はかけらどころか砂つぶ程もない。

「お願いだから部屋の中だけじゃ……」

「おや、お姫様は約束を守られないので?」

千榎の目がつり上がり、ムチをビンッと伸ばしていた。

「い、いえ! 出かけましょう、なかなか休日が揃わないんですもの」

これ以上抵抗しようとすると、下手すると骨が折れる堅いムチで何度もシバかれそうだ。口調もお嬢様風にしよう、なるべく喋らず、声を出す時も高めにしてバレない様にしないと。

「おや残念。反抗したら、ムチでシバこうと思ったのですが」

「ひ、ひどい……」

これはまさにドS執事と、イジメられてるお嬢様の光景だ。……でも性別は真逆なんだよね、千榎の男装はともかく、僕の女装は誰得?

「おはようございます、中上様、石井様」

「服とシーツを取り替えに来ましたー!」

現れたのは、ザ・デフォルメのメイド服に身を包んだ、千榎と同じ歳位の元気な子と、丁寧に腰を折ったお辞儀でテキパキ腕を動かす、僕より少し大人な子。確か吉川里奈よしかわりな真奈まな姉妹。ざくろちゃんのお母さんが、犬や猫を拾ってくる感じで人を拾ってくるお方で、路頭に迷いそうになっていたのを拾ったのがきっかけで働いている。多少の事なら動じないのと、ざくろちゃんに同年代の友達をとの事で裏稼業から強奪……もとい、迎え入れた波乱万丈な姉妹である。

「千榎様、とってもカッコイイです!」

「真奈さん、この格好の時はタツヤと呼んで下さい」

キラキラした笑顔を見せると、完全に骨抜きにされた感じの妹さん。そこに姉の里奈さんが軽くローキックをかまして注意する。

「真奈、見惚れても良いけど手は動かして」

「はぁい……」

「ところで千榎様、後でこのお姿を保存してもよろしいですか? もちろん、ネットに繋がない媒体ですので、流れる心配はありません!」

……うん、お姉さんの方も骨抜きだった! 2人共隠れアニオタで、千榎の出演作品のファンでもあるからだろうけど、それ以前に千榎の魅力に陥落状態だ。

「中上様も男性なのにワタクシよりお綺麗で……」

「すてきなレディーになるには、どうすればなれるんですか?」

「僕に対してする質問じゃ無いよね!?」

それならざくろちゃんとか千榎とか、良い手本が選り取り見取りじゃないか……。

「真奈さん、レディーとは見た目もそうだけど、気品が大事なんだよ? 例えるなら杏おば様、あの人より品のある女性は全国でも滅多にお目にかかれないよ」

「でもアタシ達はそこまでおばさんじゃありませんから!」

「今すぐおばさん発言を撤回しないと、本気でマズイよ!!」

杏おば様も表向きは大企業の社長夫人だけど、裏では世界を股にかけた裏組織の幹部だ。怒らせると身内を巻き込んでヤバい事になるけど、真奈さんのハートって玉鋼クラスの強さをお持ちの様だ、あるいは底なしのバカ野郎か……。

「大丈夫です、奥の手がありますから!」

「奥の手とは?」

すると真奈さんは膝をつき、正座をし、手をついて頭を下げた。

「こうやって土下座すれば、大抵の事は許してもらえます!」

「……妹がこんなのですいません」

「ああ……うん、そうだね」

千榎と目が合い、僕と同じ様な考えをしている様な気がした。ああ、この子はバカなんだと。

「まあ、この子は後で説教するとして、ワタクシは掃除してもろもろのゴミを回収しておきます。洗濯物は真奈が持って行きますので、ここのカゴに入れておいて下さい」

「ありがとうございます、里奈さん」

ゴミはあらかた集めてあるし、服もカゴにまとめて入れたので、2人のメイドさんの仕事はとてもスムーズに終わった。

「朝食は作っておいたので、いつでも来てください」

「一緒に食べましょうね!」

「それはオフにしなさい!」

息ピッタリの姉妹漫才をしているメイド姉妹が部屋から出て行った後、千榎は僕にある提案をした。

「お姫様、後でセッションをしていただけませんか?」

「リズム隊のですか?」

「ええ、わたくしのベースとお姫様のドラムで」

「タツヤからしたら、ワタシの腕前では釣り合わないんじゃないかしら?」

「いえ、サビを落としたらお姫様の腕前はプロでも指折りです。たまにはこうやって腕を慣らしてみては?」

これって、僕が引退した時の事を考えてる……?

「でも、ワタシはプロなんて考えてませんよ」

「あわよくばという事は考えていますが、ダメでも楽しくやりたいのが本来の考えですよ」

にっこりと笑った笑顔にとろけそうになってしまう程の凛々しさと可愛さに、思わず抱きついてしまう。

「お、お姫様!?」

「こんなダメな男の娘でも、これからも側においてね」

「はい、お望みなら地獄まで」

朝からラブラブな幸せを噛み締めて、僕たちは朝食を取りに部屋を出た。

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