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落ちこぼれ二世の逆襲  作者: 竜胆千歳
第一章 働く事は難しい
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人生相談も守備範囲

ラジオが始まって、恋バナを交えながら、番組を進行させる。まあ夜のラジオという事もあって、飛鳥さんが複雑な顔をする事もあった。

「ラジオネーム毎日三振さんから『ヤリ○○ナッちゃんこんばんは、今日は仲の良くて話題の飛鳥ちゃんが来ていますが、普段2人でどんな話をするんですか?』……ウチは海一筋ですからね! そっちの方向にははっちゃけてないんですよ!」

「毎回こんな感じでお便りが来るなんて……えろう苦労してるなぁ」

「原因は兄さんの発言ですよ、まあ台風みたいな両親の血を完全に受け継いでいますからね、ウチも兄さんも」

「た、確かに小夜ちゃんの旦那さんは寡黙なのに、もの凄いもんなぁ」

義姉さんの結婚式にも出席してるから、飛鳥さんも兄さんと面識がある。そこで初対面で兄さんは飛鳥さんに「……そんなに好きなら早く付き合えば?」と、もの凄い事を言ったのだ。それ以来飛鳥さんは兄さんの事を、悪い人では無いが油断出来ない人と、緊張しながら会っているという……。

「兄さん爆弾はともかく、飛鳥さんとは恋バナとか、何気無い会話とか……あっ! この前は、虎太郎おじさんの物まねを似てるかどうか判断してもらってました」

「でも、大体白虎さんの物まねは誰がやってもどこか似とるんやけどなぁ」

「……」

嫌いな人には気づかれないように悪口を言うけど、仲が良い人には、遠慮なく言って来るのが飛鳥さんの個性だ。ただ、遠慮なく言う相手の中に、両親がいないのはちょっと心配だけど……。弟さんフォローよろしくお願いします。

「えーこんな感じで、遠慮なくぶった斬られる事もありますけど、尊敬できるお姉ちゃんって感じです──次はラジオネームラブ知さん『ビ○チナッちゃん、飛鳥さんこんばんは。ズバリ飛鳥さんに質問です、例のカレとは結婚する気があるんでしょうか、それとも遊びですか?』という内容ですけどね。何度も言いますけどウチはそんな尻軽ではありません、浮気したら海にどんなお仕置きされるか……」

「千榎ちゃん、大丈夫!?」

あれはヤバい、おそらくウチの精神を木っ端微塵にして海のお人形になる位の事はする……あああああ! 怖い! 海をそんな事で怒らせたく無いよぉぉ!!

「千榎ちゃん!」

……ハッ! すいません、取り乱しちゃいました。ここはちょっとボケをかましてみよう。

「健ヤカナル時モ病メル時モ新郎ノ側ニイル事を誓イマスカ?」

「いきなり片言の神父になっとるんけど!?」

ウチのボケにもすかさず反応してくれて、本当にありがたい。それで返答を促すと、飛鳥さんは照れ笑いしながら、はっきり答えた。

「付き合っている以上は真剣や、遊びでなんかやっとったら相手に失礼やからな」

「先人の反動が来てますね……」

親が遊んでいると子が同じになるか、それともバランスを取ろうとして、真逆に行くかどちらかだけど、飛鳥さんの場合は真逆コースに行ったようだ。まあ極端に行っている気もするけれど。

「それよりも、さっき言ってた白虎さんの物まねをして欲しいんやけど」

そうですか! じゃあ、誰がやっても大体似てる白虎さんの真似行きますね。

「お前、その程度しかやらないのか? それだったなら、俺は売り出せないけどな」

「あっはっはー! 小夜ちゃんモロにそれを言われとったなぁ」

「飛鳥さんは言われなかったんですか?」

「そこまで言われなかったけど、その代わり小夜ちゃんや玲央の頑張り見てたら、負けたくなかったなぁ、あんだけボロクソに言われても頑張っているんやから、気を抜いてたらあかんと思って」

……前に言ってた虎太郎おじさんの考えは、間違ってなかったという事か。ジェネラル・サックのメンバーはくせ者が多いけど、ちゃんと見てあげて信頼される……そう考えたらつくづく凄い人だと思う。

「ええっと、次の投稿は厨二病歴8年さん『変態ナッちゃん、クール飛鳥さんこんばんは。私は彼氏と付き合って半年経ちますが、未だにキス止まりです。お二人は彼氏持ちや婚約状態ですけど、キス以上までどうやって進みましたか?』えーと、変態という事に関しては完璧に否定出来ないのが悔しいんですけど」

「認めちゃうんか!?」

まあサドマゾなんて変わってますしね、これ以上言うと怒られそうなんで、内容とかについてはご想像に任せます。

「──まあそれよりも相談に戻しますけど、これは確かに難しいですよね、自分からねだりにくい、かといって彼氏が積極的に来てくれる訳でもない。まあウチは付き合ってからかなり経ってだったんですけど、4年くらいかな。お互い責任を取れる年齢になってから踏み込もうって決めてましたから良かったんですけど、余程の信頼関係出来てないと厳しいですからね。おまけに目の前には健全な男子に対してずっと待てとしているお姉さんがいますし」

「……誰の事やろ?」

「はい、とぼけないでウチの目を見て白状して下さいね」

「……うちも話さないといかへんの?」

むしろまとめて解決するつもりで来させたんですよ、飛鳥さん……覚悟して下さい!

「楽屋で話しましたけど、無理にしなくても良いです。けど、相手の事が好きなら、少しずつでも努力しないと。あの人は良い人ですから、頑張りはきっと無駄にならないです」

「……せやけど怖い、仮に上手く行ったとしても、うちも見捨てられるんじゃないかって、あの人たちみたいに他人同然の家族になるんちゃうかって」

「大丈夫でしょ」

「えっ」

ウチのあっけらかんとした答えに、飛鳥さんは間抜けな顔をしてぽかんととしている。もっと優しくすると思ったのかなぁ?

「だって、あの人をしっかり観察してると、普段から良い人オーラしか出てませんし、怒るって言っても手を上げる事は無かったですよ。それに友達ネットワークで、飛鳥さんのお父さんやお母さんの人となりを調べても彼氏さんとは真逆ですし、別に大丈夫でしょ」

「でも……」

「とりあえず、彼氏に全くさせないから本番前まではするにステップアップしてみる! あの人可哀想過ぎるよ」

いつもと違う雰囲気に、ガラス越しのスタッフさんも真剣に聴いている。特に若いADさんは、男女問わず仕事を忘れてる感じもあるけど……後で一緒に謝っておこう。

「優しさに甘え過ぎてもダメです、愛されたら愛さないと。そうしてお互いに信頼しあって、同じ方向を見つめるんです」

「千榎ちゃん……」

10代で知ったような口を聞いちゃったけど、さすがに5年以上付き合っていると、ただ相手の顔を見つめるだけじゃダメだと思う時がある。時々愛が凄まじ過ぎてヤバいと感じるし、逢えない日が多いからすれ違わないか不安にもなる。婚約状態だからとはいえ、油断してたら取り返しがつかない可能性だってある、火種はあるんだから。

「それに、なにも縄を使えとか上級テクをしろとかそんな事じゃない、相手を喜ばせる事が大事、夜の方だけじゃなくて、普段のいちゃいちゃでも、相手を想っているのを伝えて、安心してもらわないとね。だから、仕事が終わったらぜひ言ってみて下さい」

気がつけばとっても語ってしまったけど、大丈夫だろうか……とりあえず、リスナーの質問に答えよう。

「ごめんなさい、厨二病歴8年さん。参考にならないかもしれませんが、半年になると別れる可能性も高くなる1つの山場です。思い切って、大事な話があるからと伝えてみてはどうでしょうか? そこで自分からありのままに話して、相手と今の場所を確認するのは大事な事です。大切にしてるからかもしれない、病気やコンプレックスが隠れてるかも。あるいは酷い理由かもしれませんが、好きな人だから、後悔やすれ違いとか悲しい理由で別れるのはきついですし、その辺気を引き締めて頑張ってください」

リスナーさんの相談がメインじゃなくなっちゃったのが申し訳ないけど、とにかく飛鳥さんの相談が出来て良かった。

その後も滞りなく進行し、放送が終了してスタジオから出る途中、隼人君から労われた。

「お疲れ様、ビッちゃん」

「そんな下ネタを言うなら、もう海の説教行き確定だね」

「申し訳ありませんでした、千榎お嬢様」

ためらいなく人の急所を殴れる隼人君でも、海の説教は恐ろしいと感じる様だ。ウチも一回ふざけて、海のイラストに落書きをしたのが原因でお説教をもらったけど……あれはキツい、殴られるとかは全くないけど、自然に土下座したくなる位には2度と説教されたくないと、心に刻み込まれた。

「海くんってアヤと仲が良いみたいやけど、そんなに凄いん?」

「食いつく犬は吠えつかぬって言葉はしっくりくるのは、出会った中では海が1番ですね、舐めているととんでも無いしっぺ返し食らいますよ」

「分かりやすく、能ある鷹は爪を隠すって言わないのは何で?」

鷹って言うよりも犬系男子だからと言うと、あぁーとすごぶる納得した顔を見せた。

「確かに犬だね……色んな意味で」

「忠犬であり、狂犬の匂いもするしなぁ」

飛鳥さんの例えは言い得て妙だと、思わず笑ってしまった。尽くし系でもあると同時に、かつてはヤのつく職業の人に対して、平然と見下す程残酷になる彼氏だ。その目を見た時は、恐怖で一瞬記憶が無くなった。

ちなみにその人は後日逮捕されたが、廃人になっていて、マトモな調書が取れなかったとニュースで報道されていた。滅多な事で怒らないけど、本気で怒らせたらヤバい人種であるのは間違いない。

そんな話をしながらエレベーターを降りると、ウワサの彼が丁寧なお辞儀をして出迎えてくれた。

「飛鳥さん千榎お疲れ。迎えに来た」

スーツを着こなし、凛とした雰囲気を醸し出している1つ違いの友人は、やはりモテるものだ。それに、言葉使いはぶっきらぼうながら、荷物を自然に持ってくれる辺り、なかなかの好青年、親の才能をいかんなく発揮しているし、良さも受け継いでいる。ただ、ドッグフードを時々おやつにする味覚バカなのが気がかりだけど……。

「宙君お疲れ様……例のブツはちゃんとある?」

「ああ、ただ、開封後は早めに食べてくれ」

「じゃあ、送ってくれるかな、宙お兄ちゃん?」

「もちろん、隼人君も一緒だ。君を置いて帰ったら、虎太郎おじ様と母様に叱られるからな」

「やったー!」

「あまり積極的じゃないんやけど、良いんやろうか……」

飛鳥さんがボヤいているけど、ほぼほぼネタだから大丈夫、全くの嘘では無いのはあるけれど。

立ち話もなんなので、ミニバンを着けてある所まで行き、乗せてもらったが隼人君が清々しい程に空気を読まない行動を取った。

「僕助手席ー!」

「ちょ、空気を読んで!」

「えー!」

なにが「えー!」なんだろう、普通恋人の隣に座らせてあげるものだろうに。

「仕方ない、飛鳥さん後ろで良い?」

「まぁお子様に席を譲ってもええわ」

カーテンのついた2列目の席に女子陣が座って、男子は前に乗った。出発してある程度スタジオから離れるとカーテンを引いて、3列目にある大型の箱を開けた。

「ぷはぁー、飛鳥お帰り」

「ただいま、玲央。最近箱男がすっかり板についてきたなぁ」

「飛鳥の為ならえろうないし、見つかったらせっかく宗磨君がカモフラージュしとるのに意味ないじゃんよ」

ちょっと方言多めなこの人は、飛鳥さんの本当の恋人、櫻井玲央さくらいれおさん。飛鳥さんと同じジェネラル・サックのベーシストで目下ウチのライバル……と本人は言っているが、ウチの方が総合的には上なので、ウチとしては好敵手という感じでもない……フォローしておくけど、虎太郎おじさんの門下生だから凄いよ。

「いつまでこの茶番を続けるの?」

「なかなか言うね隼人君……でも、もう婚約しましたよね?」

「えっ」

「えっ」

「えっ!」

「えっ、そうやった?」

「人生の一大イベントだよ!」

冗談だとしても、割と本気のトーンですっとぼけられたら焦りますよ。おまけに飛鳥さん演技が上手いんだから……。

「冗談やって、11月の頭にライブツアーが終わって、その後シェアハウスに帰ってホッとしてテレビ観てたら、結婚して下さいって指輪はめられてなぁ」

ロマンチックでは無いけど、この手のプロポーズはかなりサプライズ感が強い。日常生活の中で非日常がやってくるのだから。玲央さんなかなかやるぅー!

「いつかはプロポーズしたいと思ってたんだって、だけどムード作ったらお互い緊張するじゃんね、だから不意打ちでやった方が良いじゃん?」

お互い照れながら、甘々ムードを醸し出している。クールビューティーと精悍な顔立ちのイケメンがデレデレしてると、余計に砂糖感がハンパない。

「入籍と結婚式は?」

「4月1日にネタバラシを兼ねて会見して、5月に披露宴と式を挙げる予定や」

「「「おめでとうー!!」」」

師走になって、お祝いしながら車が夜道を走って行く。今日は帰ったらジュースで乾杯だ!

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