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シェーラザードのご主人様

作者: 紫夏


 僕の遣い魔は、美しい銀色の毛並みを持った狼だ。

 遣い魔というのは、人間とパートナー関係にある魔獣のことだ。

 魔獣は、生物学上は魔物の一種だけど、魔物とは違って理性があるし、そもそも住む場所が違うから判別は容易だ。僕は魔物を見たことがないから詳しくは分からないけど、外見からでも判別できるらしい。

 ──あぁ、話を元に戻そう。

 僕の遣い魔の名前はシェーラザード。物心付いたときにはもう側にいてくれてたから、年齢は僕よりも上なんじゃないかな? あいにく、魔獣は外見から年齢を判断できないから断定はできないけど。

 それと、魔獣は賢さの度合いによっていつまで生きることができるかが変わってくるらしい。少なくとも、普通の動物の数倍は長生きするのだとか。

 賢さによって寿命が変わる理由は、彼らが持っている魔力が影響するからだそうだ。賢いほど──つまり、内包する魔力量が多いほど、長生きする傾向にあるらしい。


「──それにしても、暇だ…」


 三日前くらいに魔力の暴走が起こって倒れたっきり、部屋から出ることが叶わない。

 まぁ、よくあることなんだけど。

 「魔力量が多い人にはよくある副作用だ」と医師から聞いた。

 そういう家計に生まれてしまったのが運の尽きなんだろう。…奇形として生まれていないだけ、まだマシかな。


 ──ともかく、この部屋に幽閉されてから三日が経っている。

 食事を運ぶ時も徹底して接触を避けられているから、この三日間一度も人との会話をしていない。…一般的に、僕の魔力に当てられたら最悪の場合死ぬから、妥当な対処法だと思うけどね。

 そう考えると、シェーラザードは相当な魔力を有しているんだろう。少なくとも僕に匹敵するくらいは。……もしそうでなければ、長い時間この僕と同じ空間にいれるはず無いのだから。


「シェーラザード」


 大きなベッドの上、僕の隣で寄り添うようにして眠っている彼女の名を呼ぶ。

 起こすつもりはないから、小声でだけど。


 ──好きだよ。

 もしシェーラザードが人間の女の子だったら、即告白する自信がある。


 毛並みの艶やかさは元より、ふさふさとした尻尾も柔らかな肉球も彼女の魅力を高めている要因の一つだと思う。瞳は僕と同じ紫色だし!

 動物の顔の良し悪しは分からないけど、それでもシェーラは本当に美人だと思う。外に出したら危険そうだから本音をいうとあまり出したくないんだけど、彼女の自由を制限するのもどうかとは思うからそれはしない。


 数年後には、王都にある学園に入ることになっている。これも直接対話したんじゃなく、文書として知らされたことなんだけど。

 ともかくそこに行く時には、シェーラを連れて行こうと思う。

 あの学園には魔獣を連れて行っても良いという決まりになっているらしいし。それに、あの学園に対する外部からの干渉はほぼ不可能だから、シェーラもこんなところに閉じ込められる心配もないし、自由に過ごせると思うんだ。


「にしても、熟睡してるね本当…」

「……くぅ…」

「…え、何今の寝言可愛い可愛すぎるシェーラほんと天使っ」

「……くー」

「シェーラ可愛いっ……!(シェーラが外に出たときには僕が守ろう。そのために魔力があるんだし!)」


 シェーラが可愛すぎて身悶え、思わず抱きついてしまった。


「うぅー……?」


 それで起きてしまった彼女が、小さく唸る。

 気持ちよく寝ていたところを起こされて不満らしく、寝ぼけ眼で辺りを見回し、目をぱちぱちと開閉した。

 やがて頭が働いてきたのか、ぎゅーっと抱きしめる僕に視線を寄越した。睡眠を妨げた原因を悟ったらしい。さすがシェーラは聡い子だ。

 その一瞬尻尾の動きが停滞して、瞬間後にまたパタリとベッドを叩いた。


「くぅん…」


 どうしたの?と言わんばかりの心配げな顔で此方を見つめてくる彼女にノックアウトされる。


「(起こされたのに怒らないどころか心配してくれるだなんて……!)

 何でもないよ、シェーラ。起こしてごめんね」

「ぅオン」


 それでも尚心配そうに見上げる瞳にやられて、そのままベッドに倒れ込む。

 こんな時、そんな事をしてもまだ余裕のあるベッドで良かったと思う。切実に。


「ぐるる……おんっ!」


 必然的に拘束を解かれた彼女は、倒れ込んだ僕の顔をのぞき込んできた。しきりに声を上げ、僕の顔を舐めてくる。頭を擦り付けるように体へとすり寄って……


「(最高…!)」


 無意識に上がりそうな口許を押さえつつシェーラの頭を撫でると、可愛い彼女は納得してないながらもひとまず落ち着いてくれたようだ。

 ──この世界には僕とシェーラさえいればいいとすら思えてくる。

 さすがにそれじゃあいけないだろうかと思いつつ、僕はシェーラへと「大好きだよ」と囁いたのだった。








────────────


◇その後(会話のみ)◆



『(後ろに倒れ込んだ!?) …ねぇ、本当に大丈夫?』

「……大丈夫だよシェーラ」

『(やせ我慢? やせ我慢なの?) まだ病み上がりなんだから大人しく寝てれば良いのに……(不満げ』

「心配してくれてるの? ありがとう、シェーラ。君はやっぱり優しいね」



 なぜか会話が成立しているという不思議。

 でも微妙に斜め上にずれてる。





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