act.00+α終電(バッドドリーム)
いつも、あの「夢」を見る。
今でも・・忘れられない夢を見る。
『一生、百夜を守るよ』
俺の愛した女も言ってくれなかった「言葉」。
それだけじゃない。
「あいつ」は、この世で一番大切な人だった・・。
好きな女よりも、「あいつ」を守ってやりたかった。
もう1つの世界で・・薄暗い部屋で遊んでて・・
そんな俺を・・明るい世界に出してくれた
『・・中尉』
昔は・・呼べてた名前も、今じゃ呼べない。
罪悪感が胸に染みるんだ・・
だって・・俺は・・・
『・・・・コロシテヤル』
「・・・百夜」
「!」
桜花の声で我に返る。
電車走る音が、肌で感じられる。
「悪い・・肩・・借りちまって」
「良いですよ」
静かに喋る剣客は似合わない洋服の裾を正した。
「ごめん。・・・・・・まわりの人に怪しい関係と思われたら・・・」
そっちの心配の方が大事だった。
「気にしないで下さい」
いや、気にしろよ。というツッコミは控えておく。
それより、そんな元気さえない。
吐き気がして、腹が痛い。
熱もありそうだ。
腸炎にでもかかったか?と思っている自分が情けない。
体調の悪さの原因は、他にある筈なのに。
「・・・一さんの、夢でも見ましたか?」
「・・・・ああ」
桜花は悟っている。
・・桜花にしか悟れない。
「久しぶりですね。そんな夢見るの」
車体が揺れる。
前座席には、会社帰りの社員の姿しか見えない。
社員は鬱そうな表情だった。
自分も鬱になりそうだった。
そうならないために、百夜は唯一の話し相手に口を開く。
「・・俺、さ。色んな事やってきたけど・・
中尉に「やってしまった」事だけは、やっちゃいけない事だったんだと思う。」
「・・」
「いや、他の事も悪いよ。けど・・・「あんな事」だけは・・やっちゃいけなかつた。」
「でしょうね」
少し微笑み、絶対服従のこの厳しい男の肩に身を任せた。
多分、次に夢を見る時は・・「彼女」の夢が見たかった。
自分が唯一・・愛せた少女「葵」。