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第一部 第三話


月曜日の朝、沙希は満員電車の中にいた。

黒髪のウエーブがつくる柔らかなフォームは、

匂うような女らしさを引き立てていた。

表情は明るい。たった二日で人生が変わってしまった沙希。


白いブラウスにイエローのパンツスーツは女の色香を発散させ、

まるでスーパーモデルのように女性達の目を魅了していく。


この電車に乗ってきた瞬間に沙希は女性達のあこがれの的となった。

着こなしやセンスはまるで『J・J』や『アンアン』の表紙を飾るモデルのように

軽やかで今にもステップを踏みそうだ。

その存在がかけ離れ過ぎて嫉妬の対象にもならない。


この時の沙希のインナーはというとブラジャーと揃いのタンガ、ガーターベルトと

ストッキング・・・・いづれもオフホワイトで統一していた。


女性は察する・・・・こんなファッションセンス抜群な女性は普通の下着はつけない。

高級なランジェリーは当たり前・・・・その通りだった。


背中にはブラの線が見えているのだが沙希は気にしない。

フローラルの香水が微かに匂う。

化粧は化粧水と乳液だけ、紅一つけていないが唇の赤さがルージュと同じなのだ。

くっきりした眉だけは昨日、理沙が整えてくれた。


吊革につかまって眼を閉じていた沙希だったがフと視線を感じて眼をあける。   

いつのまにか周囲には女性達が自分を守るように二重三重にも囲んでいる。

そして全ての視線が沙希にあつまっているのだ。

沙希が見返すとポッと頬を染め思わずうつむいてしまう女性や、

視線を外さない女性は残らず顔や露出している肌が紅潮し、

もじもじと身体を揺らしはじめ、どうにか吊革にぶら下がっている。


沙希はその中に見知った顔に視線をとめる。

会社の先輩でしかも机を並べて働いている佐野律子が沙希をみつめているのだ。

他の女性達と同じように顔を紅潮させている・・・・。

沙希は思わず小さな声で

「佐野さん!」

と名前を呼んだ。


佐野律子は『えっ?』という驚いた顔をしたが、

首をかしげながらも女性達をかきわけ近づいてきた。

「あのう、どなたでした?・・・」

沙希は思いがけない反応に笑い出した。鈴をころがした声・・・とはよく言ったものだ。

「ホホホ、いやだあ。佐野さんったら・・・。私です、小川です」

「えっ?小川さん?」

まだピンと来ないようだ。

首をひねりひねり一生懸命考えている。

毎日、隣同士で仕事をしているのに余りにかけ離れた雰囲気なので気がつかない。


「いやだわ。毎日、机を並べて仕事をしてるのに・・・」

という一言で律子は大きな目をさらに大きく開けて

「えっ、えっ、ええ~~あなた!!、小川くん?小川智弘くん?」

と叫んだ。


「し~、佐野さん!声が大き過ぎます」

沙希の注意も耳をかさず

「どうしたの?その格好は。女の子の姿なんかして」

と言う言葉で周囲の女性達にさざなみのように『男の人だって!』という声が

広がっていく。

女性の輪の外で聞き耳をたてていた男達の

「けっ、なんだ、おかまかあ」

「ややこしい、格好するな!」

と吐き捨てるようにいう声に女性達がいっせいに睨みつける。

その視線に居たたまれなくなった男の一部はその場からと逃げ出してしまった。


そんな周囲をよそに

「佐野さん、私名前が変わったの。これからはその名前で呼んでくれます?」

と沙希がいった。まだ戸惑いの中にいた律子だが

沙希の女言葉を違和感を覚えず自然と受け入れている自分に気づいた。


「どんな名前なの?」

「早瀬沙希です」

「ふーん、沙希かあ。どんな字をかくの?」

周囲の女性達は耳をすませて聞いている。

沙希は律子に説明した。


その時、駅が近づき電車がスピードを落としていった。  

プラットホームでドアが開くと人の波が押し出されてしまう。

沙希は律子の背中にピッタリくっついている。

ホームにでると沙希と律子は並んで歩きだした。・・・が

「あのう」

と声をかけられた。


振向くと三人の若い女性がたっており、そのうちの背の高い女性が言った。

「いきなりですみません」

「何ですか」

律子が答えた。   


「あのう、沙希さんっていわれるんですよね」

「はい、そうですが」

「本当に男の方なんですか」

「ええ、そうよ。3日前まではね。

でも本当の私に気づかせてくれる出会いがあって、

こんな風に私を変えてくれたの・・・・・おかしい?」

「いいえ」

と三人がいっせいに答えた。


「とってもキュートで素敵です」

「ぎゅっとしちゃいたいぐらい可愛いです」

「いつも、どの電車に乗られてるんですか?」

とくちぐちにいう。

「私、この方面の電車は初めてなの。いつもは反対方面からの電車だから」

よいうと

「そうですかあ・・・」

と本当にガッカリした声で肩をおとした。


「でも、わたし引っ越したから明日からも今の電車よ」

というと

「ヤッター」

と喜びの声をあげた。

沙希にはこの三人の女性の真意がわからない。


「あのう、絶対今の電車に乗ってくださいね」

「何故?」

と聞くと

「この線の電車って痴漢が多いんです」

「今の電車の前後の電車もダメです」

「私たち同じ車両に乗った女性達がお互いにガードしあっているのは

今の車両だけなんです」

という話を聞くと女性って本当に大変なんだと思う。


「沙希さん、今日危なかったんですよ」

「えっ」

と声をあげる。

「常習の男が2~3人沙希さんを狙っていたんですよ。

だから周囲の女性達に合図して沙希さんの周り囲んでガードしていたんです」

「私、全然気がつかなかったわ」

といいながらゾウっとする。男に触られるなんて考えただけで吐き気がする。

「沙希!私もそのガードした女性達の一人よ。。

沙希ってボーとしていたでしょう。ああいう時に痴漢に遭い易いのよ。ねえ」

と三人に同意を求める。 三人が頷く。


「私達、沙希さんの様子を見ていたら何故か胸がキュンとなってしまって。

そんな沙希さんを狙う痴漢が憎くて思い切り蹴ってしまいました」

「沙希さんって女優の沢口靖子に本当にそっくり!」

「私達、沙希さんのファンになってしまったんです。握手してください」

「そんなこと・・・」

といって尻込みしたが

「いいじゃない。あなた達、これから電車の中で会ったら守ってあげてね」

「はい」

といって三人と次々と握手をする。


「あのう、沙希さんってどんな方ですか」

この質問には律子が答えた。

沙希が作ったビジネスソフト”ワープスロウ”のことや

そのソフトのことで雑誌に出ることなど。

「そのソフトなら知ってます。あれ、沙希さんが作ったんですか。

ウワー、感激だわ。私達仕事がすごくやりやすくなったんですよ」

「その週刊誌だったらうちの会社が出版しているんです。今度それにサインしてください」

三人の眼が輝いている。

「いっけなーい。真沙子、遅刻しちゃうよ」

とびあがって三人の女性たちは

「すみませんでした」

とお辞儀をしてから走り出した。

「アラアラ、あの子達あんなに慌てて」

と言ってから沙希の手を取って歩きだした。

歩きながら律子は沙希にそっという。

「ねえ沙希、まだ時間があるからちょっとお茶しない?」          


                     ★


ドアを開けるとプーンとコーヒーのいい香りが身体を包みこむ。 

「佐野さん、いいお店ですね。会社の近くでこんなお店があるなんて」

「いいでしょう。仕事にいきづまった時とか疲れたときにここへ来ると

すっきりした気分になるのよ。それにコーヒーもおいしいし・・・」

「佐野さんはずっとここに来ていたんですか?」

「沙希も誘おうと思ったんだけど、先週までの沙希、誘いにくかったから・・・

でも今の沙希だったら私どこへでも連れていくわ」


律子はコーヒーを静かに飲むと思いきったように

「沙希!土曜日からの二日間に何かあったの?

もし、よかったら聞かせてくれない」

「何かって」

「思い切って言うわね。

沙希は、女の私がどう見ても違和感のない女性に変わってしまってる。

でもそんなこと100%不可能よ」

沙希は律子の言う事を黙って聞いていた。


「それに、あなた変わったわ。ううん、悪い意味ではなくていい方にね。

とても可愛くなったわ。以前の沙希・・・いいえ智弘くんとは全く別人ね。

それにその眼、女をメロメロにする女殺しの目よ」

沙希の視線は律子の眼をはずさない。

「そうそう、その眼よ。電車の中でも女達は沙希に見つめられて

何人も夢中にさせたと思う。本当のことを言うとこんな私でも、沙希に夢中になってる・・・・」


「佐野さん、こんな私だなんて。そんなこといわないで。

私、佐野さんが好きよ。大好きなの」

律子は顔をポーと赤らめた。


「男の時はこんなこと言えなかったけれど、今なら言えるわ。

佐野律子さん。私は貴女が好きです。結婚して早瀬律子になってください」

じっと律子を見つめる沙希。


「沙・・・・沙希・・・。ほ・・本当のことなの?・・・」

だが沙希はニコリともせず真剣に律子を見詰めていた。


「本当のことね・・・いいわ、今ここで返事をします。私も貴女が好きです。

返事はOKです」

ふ~と息を吐く律子、でも胸はドキドキしていた。嬉しさで飛び上がりそうになる。


「でも律子さん、私と結婚するとふつうの結婚生活は出来ないかもしれない・・・」

その一言で沙希の生活の変化を思い出す。


「訳を話してくれるわね」

その言葉で沙希は話し出した。

土曜になにがあったのか、連れていかれたスナックでの出来事。

そして、夢の中での沙希との出会いと同化・・・・

何一つ隠さずに話をした。律子はさすがに女同志の交わりに話しが及ぶと

身体をもじもじさせながら顔を真っ赤にして聞いていた。

沙希の話が終わった。


律子はたまっていた息をフーと吹き出した。

「まいったわね。朝から聞く話じゃなかったわ。

で、沙希は女の子のほうがいいの?」

沙希は頷いた。

「女性が好きだから女性になった。そうなのね」

沙希が再び頷く。

「わかった。これから私、沙希の味方よ。誰から何を言われようとも沙希の味方・・・」


「律子さん、ありがとう」

「こんなところでなかったら、私・・・沙希を押し倒してしまいそう」

「まあ、律子さんったら」

沙希はニッコリと笑う。律子に見せた・・・律子だけにみせた初めての笑顔・・・

結婚を承諾した律子にとってその笑顔は宝物となった。


「で、どうする?沙希。会社は沙希を絶対に手離しはしないわ。

だけど、いろいろと陰口を言う人って必ず出てくると思うけど・・・」

「そんなこと・・・大したことじゃないわ」


「うふふ・・・その言葉」

「えっ」

「智弘くんでは絶対に口に出来なかった言葉よ」

「そうかしら」

「その姿が本当のあなただったのよ。・・・さあ、出ましょう」

律子は伝票をもって立ち上がった。


喫茶店を出ると

「ちょっとまっててね」

といってコンビニに飛び込んだ。

沙希が表からガラス越しに見ていると下着を買っているのだ。

律子は出てくると沙希の耳元で

「私の買っているもの見えてたでしょう」

うなずくと

「私、電車の中で沙希を見た瞬間から下着が汚れてしまっていたの」

沙希は顔が赤くなったが、律子の顔の方がいっそう真っ赤に上気させている。


「沙希だから言うけどね。私・・・学生のころレイプされたんだ。

それから、男がダメになったの。というか・・・とっても恐いの。

怖いから戦闘的になってしまう・・・・学生時代、スケバンになったのもそれが原因・・・

二人っきりにでもなってしまったら、もうどうしようもないの。

他に女性がいたらそんなことないのにね。

でも智弘くんだけは違ったわ。

今から思うと沙希のその姿をどこかで知っていたのかも知れないわね。

でも智弘くんと結婚しようと思っても、私からは何も言い出せなかった。

弱虫って言われても仕方なかった」

といって沙希の腕に両腕を絡めてきた。


「だけどあなたとこうして一緒に歩く姿って、何度想像したかな。

それに今の私って、あなたの話だけでこんなに感じてしまうなんて、生まれて初めて・・・」

律子は自分の重大な秘密を暴露すると、安心したように沙希の肩に頭をくっつけて歩く。


嬉しい告白となったが沙希の心は重かった。

何とかしてあげたい・・・・何とかしなければ・・・そんな想いがぐるぐる渦巻いているのだ。

いつも明るい律子の心にこんなどす黒いものが澱んでいるとは思ってもみなかった。

・・・・・ママの顔が浮かぶ。そうだ、ママに相談して見よう。

結婚する愛しい相手のことを。


                     ★★


沙希の姿はまだ誰にも見られてはいない。

広いフロアーに各自のブースで間仕切られているこの部屋は

個人の自由な感覚でゲームやビジネスのソフトを開発できるようにされている。

それに個人を尊重するこの会社では売り出したソフトには必ず会社名と共に

作者の名前を、又グループで開発したのなら全員の名前を載せているのだ。

それは外注の者でも関係ない。この部屋の各隅にはいつでもふらっときて

作業ができるよう外注者達のためのブースも設けてある。


今やこの世界の寵児となった沙希、日本中に・・・いや世界中にその名前は知られているのだ。

でもこれからは早瀬沙希という名に書き換えられるだろう。

小川智弘というペンネームからは早瀬沙希という本名の女性作者が姿を現した、

・・・そう思われて評判となるに違いない。


沙希は自分の席で今度発売されるゲームソフトの続編を企画していた。

隣の律子の席は朝から空いたままである。

その時、沙希に電話があった。ママからだ。

「どう、沙希ちゃん。ちゃんと仕事してる?」

「ママ、どこから電話してるの」

「おうちからよ」

「ママ、別のところからすぐ電話するから切るね」

と電話を切り、会社の近くにある公衆電話に急いだ。


「あっ、ママ」

「沙希ちゃんに何かあったの?」

「いいえ、私のことじゃあないの」

といって、律子のことを話した。

「へえ、その人に結婚を申し込んで了承してもらったのね、おめでとう。

 いいわ、今晩にでもお店に連れてらっしゃい」

「いいの?」

「いいわよ。理沙ちゃんにも連絡しとくね。もしかしたら-----」

「もしかしたら?」

「私達のお仲間なのかもしれない」

「私もそんな気がするわ」

沙希は電話を切って会社に戻った。


律子は戻ってきていた。

沙希が席につくと小声で

「沙希、専務が呼んでいるわよ」

「えっ、専務が?」

沙希は驚いた。専務の顔は知っているが話をしたことはない。

社長の奥さんだが 事務関係の仕事をしているため沙希には関係のない人だ。

沙希が首をかしげていると

「心配することはないわ。私も付いて行くから」


専務室のドアをノックするとすぐにドアが開けられた。

専務秘書の岡島直子がニッコリ笑って

「どうぞ」

と言って沙希と律子を中に案内する。

専務室の中のパーテーションで区切られた応接室に案内された。

すぐに専務が入ってきた。

秘書の岡島直子が出て行こうとすると

「コーヒーを頼むわね。あっ、あなたの分も一緒にね」


沙希はソファに座ってもその不安からか律子の手をぎゅっと握り締め、

身体を律子の身体にぴったりと寄せているのだ。

こんな姿をみせる沙希の可愛らしさ、女っぽさに専務は眼を見張るが、

持って来たファイルに眼を落とした。


しばらくして顔を上げると

「早瀬沙希さん。ごめんね、まだここには小川君の履歴書しかないから・・・

今度経歴を書き換えておくからね」

といって再びファイルに目を通す。

こんな簡単に沙希のこと受け入れてくれていいのだろうか。

不安でモヤモヤしていた気持ちはそのあっけなさからまだ晴れてはくれない。


「あなたの大学の成績って、本当抜群だったのね」

と言いながらファイルを閉じた。

「律っちゃんから話しを聞いたわ」

えっと思い顔を上げた。握っていた律子の手からふっと力が抜ける。

そんな沙希の戸惑いが専務の顔に笑みをもたらした。


「実をいうと律っちゃんはね、私の義理の妹なの。そう、社長の妹になるわけよ。

でも、このことは他の社員は誰も知らないわ。

だから、ここだけの話にしてちようだいね」

「どうして私に?」

「あなたは律ちゃんの可愛い旦那様になるんでしょ」

とフフフと笑った。


そこに秘書の直子がコーヒーを持って現われた。

コーヒーを配り終わって専務の後ろの席に腰を落すと

「先ほど、律っちゃんからあなたのこと全て聞いたわ。

でも細かいことは律ちゃん自身もまだ知らないそうだから教えてね。

それにしても金曜日からの短期間でよくぞここまで・・・

ねえ、直子さん。この人が金曜日まで男だったって信じられる?」


「いいえ、そんなの思いもよらないことですわ。

私達よく女性ばかりでそんなお店に行くんですけど

そこの人ってニューハーフといわれていろんなところを手術して女になっている人が多いんです。

でも人工的につくられた・・・って感じがどうしても消えません。

それに時々わざとかどうか知りませんけど男を見せるんです。

それが面白いってこともあるんですけれど・・・・でも・・・」

「でも?」


「早瀬さんは疑いもなく女性です。私もお話を聞いていたんですが、

その私がどうみても女性そのものです。

例え今からでも実は女性だったんですと言われたら、

ああ・・・やっぱりそうだったんだって納得するでしょうね。

女性でも男っぽい人ってたくさんいますから、

早瀬さんが男っぽく振舞われても、そういう女性なんだと思ってしまうだけです」


「さすがね。やっぱり直子さんは優秀な秘書ね。その観察力って素晴らしいわ」

「えっ?・・・・ああ・・・いえ、そんな・・・・」

専務にそう誉められて上気してしまう岡島直子。

そんな様子を見ていたら自然と肩の力が抜け、固かった身体もすっかり柔らかくなっていく沙希。


「どうやら緊張感もとけたようね、早瀬さん。私も沙希ちゃんて呼んでもいいかしら」


「はい、喜んで・・・・」

そういってニッコリと微笑む沙希。


「う~ん・・・・、聞きしに勝る可愛らしさね。

どうお?直子さん。沙希ちゃんを見て・・・・あら・・・あなた顔が赤いわよ」

「うう~~・・・私、レズじゃありません。

でも、そんな私でさえ引き込まれます。ああ、もう~~・・・駄目です」

といってフロアの床に崩れ落ちてしまった。

沙希と目を合わせて見つめられた結果のようだ。

律子でさえ下着を汚すようなその強烈な魅力・・・どうやら沙希に慣れる必要がありそうだ。


フロアに女特有のぺったんこ座りでタイトスカートがはちきれんばかりの直子、

これはこれで強烈な女を匂わせているが、ここでは気にする者は誰もいない。


女性達同士で直子を助けおこして、椅子に座らした。


「沙希ちゃんのその視線って凄いものね」

と専務がいうのを

「沙希ちゃんの目って本当の女殺しですわ」

腰を抜かした直子がいうのだから実感がこもっている。


「さて・・・・」

と改めて切り出した専務、

「沙希ちゃんは女性が好きだから女性になった・・・そうね」

「はい、・・・といってもそれだけじゃありません。

でも、私がこれ以上男でいる限り人間を止めざるをえなかった。

そう思ってください。はっきりいってもう限界なんです。

私は男が大嫌いです。嫌悪します。・・・わたしの中にある男に対しても同じです」

といってからにっこりと笑い出した。


「わたし女になって本当に良かったと思います」

「そうねえ、はっきり言ってしまえば男としての智弘くんは落第生だった。

でも沙希ちゃんは今後女性達あこがれとなるでしょうね」

と予言までするのだ。


「静香姉さん、実は・・・・・」

律子は先ほどの電車の中でのことを話す。


「えっ?・・・もうファンが出来たの?・・・・凄いわねえ」

「沙希が男だったと知っても皆平気なの」

「そうよねえ、きっとそんなこと忘れるぐらい沙希ちゃんを見たことが強烈だったのよ。

見て御覧なさい、明日はその電車の中、女性で溢れているわよ」


専務の言うことに顔を見合わせる二人だったが

「そうかもしれない、私だったら親しい人に沙希を合わせたいもの」

律子の言う言葉に明日の車内の様子が頭に浮かんでくる沙希だ。


「ところで沙希ちゃん、これ忠告として聞いてね」

「はい、なんでしょうか?」

「今、沙希ちゃんは女に生まれ変わったばかりで喜んでいるけれど

女って嫌な面が一杯あるのよ。それは判ってる?」


「はい、でもそんなこと私が男だったことを思えば何でもないことです」

「そうね、沙希ちゃんの強みはそこにあるかもしれないわね。

よし、わかったわ。私は女として・・・会社の専務として

早瀬沙希さん・・・あなたを応援すると共にバックアップします。

もちろん、妹である律ちゃんの可愛い旦那さんとしてもね・・・ウフフフ・・・」


「専務!私たち女子社員たちも沙希ちゃんの味方ですわ」

「えっ?直子さん達が?・・・でもそんなこと直子さん一存で言ってもいいの?」


「実は私、入社したときから小川さんに注目していたんです。

なんて男姿の似合わない男性なんだろうって・・・・

でもその後小川さんって、この会社には絶対に必要な人材ってわかりましたでしょ。

だから私だけでなく他の女子社員達も小川さんを注目していました。

けれどその性格って本当、見ているだけで嫌になるんです」


「それでどうしたの?」


「だから私たち女子社員が集まって小川さんを根本から代えようと

相談しあったんです」


「どう相談されたんですか?」

律子には初耳だった。なんか仲間はずれにされたようで面白くない。

それが判ったのか、直子は律子を見て笑いながら

「うふふふ、律子さんが小川さんを想ってるって、皆が知っていましたから

律子さんを仲間に入れるわけにはいかなかったんです。ごめんなさい・・・」


「えっ?判っていたの?・・・」

「だってあからさまでしたもの。小川さんが帰ってから小川さんのブースの中を

一生懸命掃除しているのを皆知っていたし、他にもいろいろありますでしょ」

そんなこと何も知らない沙希は驚いて律子の顔を見る。


「おほほほ、女に成りたての沙希ちゃんはともかく、律ちゃん!

あなたは女としての自覚が少し足りないようね」

と笑う静香専務。


「もう・・・静香姉さんまで・・・・」

とぷっと膨れる。

しばしの笑いの時間・・・・・・


「直子さん、話を続けて」

「はい、だから去年の社員旅行がいいチャンスだったんです。

私たち女子社員が全員とはいかず、私とあと4名が有志となって計画を進めました」


「その計画って私には判ったけど、そのまま話をしてくれる?」

「はい、小川さんの声ってもうそのままでしたから

あとは外見を女の子に変身させようって計画をしていたんです。

身体検査のデーターから下着やお洋服を揃えたんですよ。

そしたら小川さんは出張でアメリカに行ってしまわれて・・・」


「そこで直子さん達の計画がつぶれてしまったわけね。ねえ、その下着やお洋服はどうしたの?」

直子はいたずらっぽく笑いながら

「いつか機会を狙って実行しょうと、女子の更衣室に置いてあります」


「じゃあ、その4人の女子社員を呼んでらっしゃい。無論職場の上司に許可を得てからね。

私が呼んでいるからといえば文句は出ないでしょう。

それとここに呼ばれる訳は話さないでね。少し驚かせてあげましょ。

勿論、更衣室に置いてある荷物も忘れないで持ってきてね」

直子は急いで出て行った。


「さて・・・」

と改めて沙希に向き直る静香。

「あとで社長に会って報告しなければいけないんだけれど、

先に私から話して置いてもいいかしら」


「それは・・・・」

と言いかけた律子の手をギュッと握り締めて押し留めた沙希。

「専務のお申し出・・・本当に嬉しいです。

でもこうして女性に生まれ変わったことは私自身が報告すべきことであり、

また律子さんとの結婚は私自身が社長にお願いすべきことです。

ただ、専務には見守っていてくださいと言うしかありません」


「ふ~む・・・・さしづめアメリカでは『ブラボー』って歓声を上げる場面よね。

沙希ちゃんの今の言葉、小川智弘くんではとてもじゃないけど言えないわ。

・・・・本当にあなたって素晴らしく変わったわ」


「私も吃驚よ、沙希。女性という性に変わっただけでなく、

人としても変わったわ・・・・素敵よ」

といって沙希の肩に寄りかかる律子。


「あらあら・・・ご馳走様!でも律ちゃん、ここが会社だということを忘れないでね」

と専務が言って足を組みなおしたとき『コンコン』とドアがノックされ

専務の返事と共にドアが開いて直子を先頭に女子社員が4名部屋に入ってきた。


「直子さん、ドアの鍵をかけていてね。

さああなた達、空いている席に腰をかけてちょうだい」

4人の女子社員が椅子に座りながらも視線を留めるのは律子がギュッと手を握る沙希に対してだ。


不信そうな顔で見つめる女達。

その視線に対してニッコリと笑顔で答える沙希・・・・でもそこまでだった。

沙希の視線に平静でいられるわけがない。

頬を真っ赤にする女子社員達・・・椅子に座っているので腰を抜かすことはないが

その視線が怪しい・・・魂が宙を彷徨っているようだ。


「あら・・・この子達も沙希ちゃんの魔力のえじきなのね」

「えじきだなんて・・・・」

「私だって愛しい旦那様のことを強く想っていなければ危うかったのよ」

「でも、私そんなこと少しも意識していません」

「意識されたら大変なことよ。ねえ、律ちゃんは何ともないの?」


「えっ?私ですか?」

といいながら身体を回して沙希を見る。

すると律子の目が潤みだし、焦点も定まらなくなって沙希の膝に倒れこんだ。

「律子さん・・・・律子さん・・・・」

身体をゆすって律子の気を取り戻そうとする沙希。

そうするうちに沙希の腕の中で薄っすらと目を開けるがまだ焦点は定まらない。


けれど、もう一度身体をゆすると律子はハッと目を開け、

飛びつくように沙希の首にすがりつき、沙希の口にむしゃぶりついた。


いきなりのキスに驚く沙希だが律子の必死な様子に、

やがてゆっくりと目を閉じ身体を硬く抱き締める。


でも直ぐに沙希の首にかじりついていた律子の両手が離れてダラリと垂れ下がり、

沙希にキスしていた律子の顔も仰向きに倒れこんだ。

又失神?・・・・と思ったが、今度はパッチリと目が開き勢い良く立ち上がった。


「どうして?・・・・どうしてなの?・・・・」

「律ちゃん!・・・落ち着いて!・・・

・・・あなたが沙希ちゃんの目を見たかと思うと失神してしまうし、

目覚めたかと思うと今度はいきなり沙希ちゃんにキスでしょ。

それもすぐに失神して・・・いくらも間をおかずに元気良く飛び起きたわ。

どうしてなの?と聞きたいのは私たちのほうなの」

静香専務に同調するように直子とようやく目覚めた4人の女子社員も頷いている。


「私・・・・」

と言いながら沙希の隣に座りなおし、その手を再び固く握り

そして今度はもっと沙希との密着度をUPさせる律子。

「沙希の目を見たら身体中が熱くなり、まるで宙に浮いた感じだったわ。

その浮遊感の中で見る沙希に夢中で抱きついていったのも覚えている。

そして沙希とのキスの時、その唇を通して沙希の身体から凄いエネルギーが

流れ込んできたんです。それこそ疲れなんか吹っ飛ぶほどのエネルギーが・・・」


「じゃあ今、律ちゃんが沙希ちゃんを見ても何ともない?」

「はい、なんか免疫が出来たみたいで・・嫌でなかったら皆さんも試してみたら?」


「いいの?律ちゃん。あなたの婚約者なのよ」

「ええ、でも沙希からプロポーズを受けたとき言われているの。

普通の結婚生活を送れないかも知れないよって。見た目でも普通の旦那様と違うでしょ」

と笑うが、どことなく寂しさが混ざっているのだ。

だから、静香は何も言わず沙希に目で合図をした。


沙希も律子の心が判る。だから黙って立ち上がり腰掛ける静香に対して

身体を屈めるように口を近づけてキスをした。

少ししてガクッと椅子の背にもたれこむ静香・・・。

沙希は次々とキスをしていき皆に元気を与えていった。


あきれるほど元気になる女性達、なんかエネルギーで満ち溢れている。


「さあ、これでここにいる皆が沙希ちゃんを見てもどうもならないからね」

といってから

「皆には判ったわね。ここにいる早瀬沙希という女性が誰かって・・・」


「はい、・・これって信じられないことですけれど、あの小川智弘くんですね」

「正解よ、でもその男の名前はもう忘れてね。

こうして早瀬沙希って女性に生まれ変わったんだからね」


「判りました。でも自分の目を疑うってこと本当にあったんですね。

・・・あのう、沙希ちゃんって呼ばしてもらってもいいのかしら」

沙希が頷くと

「沙希ちゃんが先週の金曜日まで男性だってこと私たち知っています。

それにこういう方面に全然興味もなかったことも知っています。

それが・・・たった3日ですよ・・・たった3日で完璧な女性になるなんて・・・」


「それを知っても、どうっていうことないでしょ。

3日前でも過去は過去だわ。これから先、皆が沙希ちゃんの味方になって

どうバックアップして行くかが大切でしょ」


「そうでした・・・だったら女子社員達のことは私たちに任せてください」

「ただ、一つだけお願いがあります」

「お願いって?」

「さっきみたいなキス、毎日してもらってもいいですか?」

「あら、あなた達にも彼氏がいるでしょうに・・・」

「いいえ。沙希ちゃんのキスは全く別物です」

「仕方ないわね。律ちゃんはどお?」


そう振られても今更嫌とは言えないし、

沙希もあれよあれよと話が決められていくのを呆然とみているだけで

二人して顔を見合わせるだけだ。


「じゃあ、決定ね。もっとも律ちゃんが否やと言っても公私の公で決定させたけどね」

「そんなあ・・・・」

「黙ってなさい!あなたは公私の私で沙希ちゃんを独り占めできるでしょ。

少しは会社に貢献なさい。それに最初は律ちゃんが言い出したことだからね」

といわれて何も言い返せなくなる。


「ねえ、さっき直子さんに聞いたんだけど去年の社員旅行の前に 面白い計画をしていたのね」

「はい、でも沙希ちゃんがアメリカに行ってしまって中止になったんです」

「あのまま沙希ちゃんが社員旅行に行っていたらもっと早く・・・」


「いいえ、それはないと思います。私は自分が女性になるってこと、

少しも思ったことがありませんし、もしかして無理やりそういうことをされたら

女性になるのが嫌になっていたかもしれません」


「じゃあ、沙希ちゃん!その時と今との違いは何?」

直子が聞く。


「はい・・・実は・・・・」

と夢の中であった女性の話をした。


「その女性が早瀬沙希さんだったんです。彼女は私のために自ら命を縮め、

私のために修行をしていたんです。

いいえ、これは決して夢物語ではありません。

彼女が私と同化しなければそんなに早く女性としての生活が出来たかどうか・・・

それに私には”早瀬沙希”の女性としての生まれてから記憶があるんですよ」


「ふ~・・・さっきから沙希ちゃんの不思議な力を見せ付けられたから、

今の話を聞いても何の抵抗もなく受け入れられるわ」

「専務!私だって同じです・・・」

「私だって・・・・」

女性達全員が改めて沙希を見つめて・・・そして、頷くのだ。


沙希の力を信じた・・・沙希の言葉を信じた。そして何より沙希の優しさを愛したのだ。


「じゃあ、沙希ちゃんに着せようと思ったお洋服を見せて頂戴!」


女子社員達が袋から出してきてテーブルに並べたのはドレスと下着だ。

「まあ、可愛いドレスね」


「あのう、専務。制服も着せてもよろしいですか?」

「そうね。沙希ちゃんのファッションショーも悪くないわね」

と言って制服を取りに行かせた。


「専務このドレスせっかく用意していたのですから 一度手を通してほしいんです」

「そうね、私も見てみたいな」

といたずらっぽく笑った。

結局、恥ずかしいから見ないでという沙希に対して、

女の子は更衣室で平気で下着姿になるのだし、ここには女性しかいないのだから

と目の前で着替えをするように強要するのだ。


それに『J・J』や『アンアン』の表紙のモデルなみのファッションセンス・・・

沙希ちゃんの着こなし方を見ていたいの・・・という皆の意見が通った。


少しウオーキングさせると、

白いブラウスにイエローのパンツスーツという衣装の沙希の姿が

まるでスーパーモデルのように女性達の目を魅了していく。


ドレスに着替えるためにパンツスーツを脱ぐ沙希・・・・

この時の沙希のインナーは、ブラジャーと揃いのタンガ、ガーターベルトと

ストッキング・・・・いづれもオフホワイトで統一していたのだ。


「まあ、可愛い・・・」

「ガーターベルトをしているのね。私なんか一度もしたことがないのに」

「私も。・・・・今度買いにいこうか」

沙希の姿を見ながらそんな話しをしている。


律子が手伝ってドレスを着せた。

自然に流していた長髪を後ろで束ってUPにする。

こうするといわば何の変哲もない赤いロングドレスが映える

沙希の歩く姿がまるで社交界の高貴な令嬢のように見える。


「ワアー、素敵!あんな安物のドレスなのに」

「お洋服の安い高いはどうやら関係ないみたいね。ようするに着る人次第ということかも・・・」

直子がいうのを笑って聞いていた専務が

小さなファッションショーを終えて律子の隣に座った沙希を見て

「沙希ちゃんあなた、お化粧していないの?」

「えっ?・・・はい。化粧水と乳液だけですけど」


「なんですって!・・・ノーメイクでその顔!・・・・」

「それって違反だわ!」


「はあ・・・すいません!」

訳も判らず怒られて、謝ってしまう沙希。

「おほほほ・・・いいのよ、沙希ちゃん。謝らなくて。

この人たちはあなたの事が羨ましいだけなのよ」


「ええ、そうですわ。私、沙希ちゃんに嫉妬してますよ~」

「こうなったら沙希ちゃんにバッチリ化粧してもらいますからね」

「わかったわ、直子さん。メイクお願いね」

「はい、沙希ちゃんのメイク、まかせてください」


岡島直子は素人ながら専務秘書として、

Time(時)、Place(場所)、Occaasion(場合)・・・TPOを心がけた

装いとメイクで業界でも有名なのである。


レッドというよりピンクに近い赤の口紅を塗り終わって

「さあ、これで終わり・・・モデルがいいせいかしら我ながら驚く仕上がりよ」

と言って椅子を回転させ、皆に沙希の顔を見せる。


もう呆然である。たしかに素顔の沙希も女らしく可愛かった。

しかし、メイクをした沙希・・・・この女っぷり・・・尋常ではなかった。

このドレスで舞台にたったら観客はどんな反応を示すのか。

律子の話でもうすでにファンが出来たというのもわかる。


バタン!と椅子の倒れる音がした。

振りかえると一人の女子社員が倒れながらも視線は沙希から離さないでいた。

「きれい、・・・・沢口靖子にそっくり・・・」

と清純派女優の名前を言う。

なるほどこうしてメイクをしてみると頷けるそっくりぶりだ。

でも沙希はその女優よりも、もっともっと引き付ける何かを持っていた。


静香専務はかすれた声で言った。

「さあ、もうお昼まで時間がないわ。ドレスを脱いで制服に着替えなさい」 

沙希はいそいでドレスを脱いで制服に着替えた。

白いブラウスに水色のベストと同色のタイトのミ二スカートだった。

あつらえたように身体にフィットした。

「今日は目立たないようにその制服でいなさい。でも沙希ちゃんは何を着ても駄目ね」

「えっ?・・・」

「その目立つこと・・・」

と言って笑う専務。沙希を抱き寄せ軽く唇にキスをする。


「あっ、専務だけずるい」

「私も・・・」

といって次々とキスをしていく女子社員達。

こうなったら私も・・・と律子までが加わるのだから笑ってしまう。

でも律子のキスだけが時間が長かった・・・のはあたりまえか。

さきほどすでにキスをしているのだから失神することはなかった。


専務はニコニコして見ていたが、

「これが当社の女性だけの特権よ。無論、秘密でもあるわ。

男性社員には絶対に内緒よ。勿論、私も社長には言わないわ」

皆は笑った。


「私達女性は沙希ちゃんの味方よ。他の女子社員にも言っておくのよ」

「今の秘密の行事は女子社員皆に言っていいんですよね」

「勿論よ、当社の女性にわけへだてはだめ。でも、沙希ちゃんの仕事中は禁止よ」

と専務が皆に言い渡した。


「もう一つ。沙希ちゃんがいじめられたら守ってあげるのよ。

沙希ちゃんがこの会社で働きやすくするのは判るわね。

それって皆のお給料にも跳ね返ってくることなんだからね」

ハーイと大きな返事が聞こえた。

沙希が口を出すこともなくいろんなことが決まっていく。


「専務。沙希ちゃんのヘアースタイルはどうしましょうか」

「そうねえ、素人目にも今のヘヤースタイルと黒い色は重たい気がするのよ。

美容室で少しカットしてもらって栗色位に染めてもいいんじゃないの?

律ちゃん、美容室を紹介するからそこの先生に相談してみてくれる?」


「さあ、あなたたちは職場に戻りなさい。沙希ちゃんと律ちゃんは私といっしょに社長室にね」


沙希はビクっとして少し身構える。

その様子をみて律子が

「大丈夫よ、私がついているわ」

「私もいるわよ」

専務も声をかけるが、

「あっ、直子さん」

といって隅のほうで何やら話しをしていた。

「じゃあ、頼むわね」

といってから専務室を出て奥の社長室に向かった。


                     ★★★


沙希は身体を固くしてソファに座っていた。

少し汗ばんだ手は律子が変わらずにギュッと握っていてくれる。

社長秘書の大崎恵がお茶を持ってきた。チラチラと沙希の顔を見ているのだ。

不信そうな顔をしている。恵とはこの社長室で幾度ともなく顔を合わせているから。

専務は社長の机の所で話しをしている。驚いたような顔をして沙希をみていた。


社長と専務がソファに座る。沙希は俯いていたが、社長の鋭い視線が身体中につきささっていた。

社長は何も言わない。沈黙に我慢しきれなく顔をあげた。

社長の顔が一瞬驚きに変わる。


「君が律子の結婚の相手なのか」

「はい」

「でも律子は女だよ」

「はい、判っています。それでも許して欲しいんです」

「そんなこと言われても、日本の法律では女同士の結婚は認められて居ないだよ」

「私には律子さんしかいないんです。どうか許してください」

強硬な沙希の態度に弱り果てた社長がとったのは、

「おっと・・・君の名前を教えてくれないか」

「早瀬沙希と申します」

「年は?」

「25歳です」

「で、何の仕事をしているんだ」

「はい、ソフトの開発をしています」

「ほう、同業じゃないか」


はっきり言って律子はもう顔が上げられなくなっていた。

だって・・・もう可笑しくって可笑しくって・・・

でも沙希のことに気づかない兄のうかつさよりも沙希って凄いと思ってしまう。

こんなポーカーフェースをされれば誰も勝てっこない


「沙希ちゃん!もう止めましょ。あなたって段々手に負えなくなるわ」

といって専務が笑いながら止めに入った。

それまで無表情だった沙希がニッコリと微笑むと急に部屋の中が明るくなる。

「おおう~」

とそんな沙希に思わず声を上げてしまう社長。


社長の言葉にそばに控えていた大崎恵が

「えっ」

と声を上げた。

「大崎君。どうしたんだ?」

どうやら大崎恵にも沙希の正体がわかったらしい。


「いいわよ、恵さん。その鈍感な人に沙希ちゃんの正体を教えてあげて」

「おいおい、正体って一体なんだ。それに鈍感な人って・・・」

そんな声をあげる社長のそばで大崎恵が

「社長!そこの早瀬沙希さんって・・・・あの小川智弘くんですよ」

「何を馬鹿な・・・この女性があの小川君だって?・・・・・

ええ~・・・・まさか・・・・本当なのか」


「驚きましたわ。私は最初沙希さんを見たときは

今回の企画のモデルの方かなっと思っていたんです・・・・それが」

「でも酷いよ、こんなの俺に判るわけがない。でも小川君にこんな趣味があったなんてね」

その言葉に沙希はキッとした顔で、

「すみません。お言葉を返すようですが私は趣味でしているのではありません。

女性として生まれ変わったんですから----」

沙希の眼に涙が溢れる。


「兄さん。沙希ちゃんをいじめたら私、許さないわよ」

と律子が鋭くせめ寄る。

「そうよ、あなたの言い方はよくないわ。ねえ、恵さん」

「はい、私もそう思います」

女性陣に攻め寄られて社長もたじたじだ。

律子が社長を睨みながら沙希にハンカチを渡した。

「スマン、スマン。でも驚いたなあ」

「何度も驚くのね」

と律子のきつい一言。


「違う、違う。今言ったのはこれが同じ人間なのかっという驚きなんだ」

社長の顔を沙希はジッと見つめる。

「ほら、その視線」

社長の言うことは沙希には判らない。

「僕は社員一人一人の性格や趣味を把握しているつもりだ。

確かに小川君は天才だ。小川君の開発したあのソフト一つで

会社はこの先も飛躍的に伸び続けるだろう。

でも、僕は小川君の態度とか性格とかが嫌で嫌でたまらなかった。

話もろくに出来ないし、何を考えているか判らないお宅的な性格なんて最低だった。

今、君は僕の前で涙を流し、律子との結婚の申し込みも堂々と一人でおこなった。

これが同じ人間だったなんて驚きで一杯なんだ」

沙希は社長の言葉をジット聞いた・・・・その通りだったからだ。


「君は外見が変わったのもそうだが性格も変わったようだね」

「はい、私はこれから心のままに生きていきます」

「いいだろう。僕は君を認めるよ。君に止められたら我が社の損失は大きすぎるし、

今の君ならもっともっといい仕事をするに違いないからね」

と笑った。


「一つ聞きたいが君は男が好きなのか」

「まあ、あなた何ということを」

沙希は首を横に振った。

「私、男が大嫌いなんです。そして女性が大好きなんです。

女好きと言ってもいいですよ。そして女性の私自身も大好きです・・・・

ナルシストですよね、これって・・・・」

社長はハキハキとものを言う沙希に感心したように首を振ってから

「それで専務はどうする気なんだ?」

「いろいろと考えたの。でも、このまま何もせずに自然のままでいいと思ったわ」

「ほう、どうしてなんだ?」

「私達女性達はみんな沙希ちゃんの味方よ。ねえ、大崎さん」

大崎恵はニッコリとしてうなずく。

「あとは男性社員だけ。最大の難関だった社長に堂々と言い合える沙希ちゃんなら

変な小細工はいらないわ」

「それでいいのかね」

と沙希の顔を見て言う。


「私はかまいません。こそこそしたくありませんし、

それに女として仕事で男の人に負けたくありません」

「それは頼もしい」

と社長は笑う。


「今言っておくけど律子との結婚はOKだからね」

といってから 

「律子!おめでとう。想いがかなったね」

兄の優しい言葉と義姉の微笑みに思わず涙を流し、

沙希がバックからオフホワイトのハンカチを出し、律子の涙を拭く光景は心温まるものであった。


                    ★★★★


沙希と律子が社長室を出たのがもうすでに12時を過ぎていたこともあり

その足で食事に出かけ、部屋に戻ってきたのが13時きっかりだった。

偶然にも誰に会うこともなく沙希は仕事に没頭していった。


突然肩を叩かれ、はっとして振り返った沙希、そこには律子がニコニコ笑いながら立っていた。


「相変わらずの仕事人間ね、女性になっても変わらないって素晴らしいわ」

「どうしたの?律子さん。そんなことを言うために仕事の邪魔をしたんではないでしょ」

「何を言ってるの、沙希!もう5時を過ぎているわよ」

「えっ?・・・もう、そんな時間なの?・・・でも、もう少し残業を・・・・」


「駄目よ!・・・今日は残業は駄目!今、会議室にはもう女子社員が全員集まって、

沙希が来るのを待ってるの」

「えっ?会議室に?・・・」

「そうよ、それにさっき言われた美容室には予約をいれてあるし・・・」

「あっ!私も律子さんを連れて行くところがあるんだ」

「私をどこに連れて行ってくれるの?」

「私の家族のところよ」

ええ~~と驚く律子、肝心なことを今まで言わないなんて・・・

何だか今から少し心臓がドキドキとしだした。


良く考えればこの後予定が詰まっている二人だ。

足早に化粧室でメイクを直し、会議室へとかけて行く。


「じゃあ、少し経ったら呼ぶからここで待っていてね」

と言って律子がドアを開けて中に入る。

とたんに歓声と拍手が起こった。もう律子の結婚の話が広まっているのだ。


律子は照れくさそうに・・・だが堂々と

「私の大好きな、そして可愛い旦那様になる人を紹介します」

と言って部屋の外にいた沙希を招きいれた。


固く握り合った手・・・身長165cmの律子に比べて少し低く、

160cmそこそこだろうか・・・・

でも事務系の制服に身を包んだスタイルって・・・そしてメイクをしたその顔・・・・


律子の結婚の発表だとしか聞かされていなかった女子社員達、

社長の妹だとは知らされていないが姻戚関係にあるのは全員が知っており、

又、そんなことは関係なく普段の面倒見が良く姉御肌の律子が

誰からも愛されているのはこうして女子社員全員が集まったのでも良く判る。


内容を良く知っている4人の女子社員と専務秘書の岡島直子、

社長秘書の大崎恵、そして専務の佐野静香がニコニコ笑って見ているのだ。


まさか・・・律子さんの結婚する相手が女性?・・・・

そんなあ・・・どう見ても女性に真違いない、不信なところなんてない。

それにこの女の人ってトップモデルか女優さんみたい・・・・

なんか見ているだけでクラクラちゃう・・・

ああ~~もう駄目!・・・と机に倒れこむ女子社員達が会議室のあちこちでも見られた。

よく知っていたはずの大崎恵もとうとう魔力に魅入られてしまった。

知っていたと言っても沙希の魔眼のことは知らなかったからあたりまえだろう。


「仕方ないわね」

と立ち上がったのは専務の静香だ。

静香は二人の横に立つと

「皆、聞いてくれる?」

と言ってから

「佐野律子さん・・・・律ちゃんの横に立つのが、律ちゃんにプロポーズをして

了承をもらった早瀬沙希さんです。

沙希ちゃんの目を見ないでお話を聞いてくれる?

目を見たら沙希ちゃんの魔力に魅入られてしまうわよ。

でも魔力というとまるで魔法使いみたいで嫌ね。

こう言った方がいいかも・・・今各業界で活躍している女性達が持っているもの、

カリスマ性といったほうがいいでしょうね。

あとで沙希ちゃんのそのカリスマ性に魅入られて倒れこまないよう処置をしてあげるけど、

それは女性だけの秘密ね。

これは私の推理だけど、沙希ちゃんから凄い元気をもらえるのは

沙希ちゃん自身が大の男嫌いなのと女性として生まれれ変わったことが原因だと思うの」


「ええ~~・・・」

と何人もが立ち上がり、両手で口を押さえたりして専務の言葉による混乱が

会議室に充満しているのだ。

その空気を読んだ専務は直ぐに沙希に言う。


「沙希ちゃん!挨拶なさい」

と言われて沙希は頭を下げてから口を開いた。


「早瀬沙希といいます。今日佐野律子さんにプロポーズをしてOKをもらいました。

その時は本当に飛び上がるほどの嬉しさでした。

先週までの性格破綻者のような私だったら、勿論プロポーズなんてできなかったし、

律子さんも受けてくれなかったでしょうね」

女性達の中では律子が今迄、誰が一番好きだったのか思い出し、

「ほ・・・ほんとうなの?・・・あなたが・・・小川・・・小川智弘くん?・・・」

「ええ!~~~」

まだ何も気づかなかった女子社員達が悲鳴のような叫び声をあげる。


沙希がコクンと首を縦に振ると会議室が蜂をつついたような騒ぎとなった。


律子は律子で今の沙希の仕草の可愛らしさに胸がドキンと高鳴って

思わず抱き締めたくなっていた。


こんな中でさすがだったのは専務だ。年の功と言っても良いが

社会的な地位によりその責任を担ってきたせいなのか

この場の空気を読み取り、誰よりも冷静な沙希に

この場の雰囲気に終止符をうつ為に下駄を預けた。


専務の視線を受けて口を開く沙希、


「私が・・・・」

というとあれほど騒がしかった会議室の中がピタッと収まってしまう。

さきほど専務がカリスマ性といったがなるほど納得がいく言葉だった。


「私が女性と生まれ変わった今から思っても、

先週までの男だった自分は本当に最低の人間でした。

男が大嫌いと言う自分がそんな男だったことを思うと唾棄したくなります。

よくぞこんな人間を今迄雇ってくださったと、

会社にも同僚として我慢して頂いた皆さんにも感謝しています」


「でも・・・でも、そんなことを聞いた今でも信じられない。

男性が女性になるってそれはたいへんなことよ。

女性が男っぽくふるまってもそれは女性だわ。

でも女性になりたかった男性が女性になったとしても、

少しでも男が出ればそれは男なの。良く見積もってもても人工的な女性ね。

でも、沙希ちゃんは・・・・私も沙希ちゃんって呼んでもいい?」


「はい、喜んで!」

といいながらも急に恥ずかしくなりポッ赤くなって下を見る。


「それよ、それ!・・・そんな仕草、どう見てもどう考えても女性なの。

生まれながら女性をやってきた私が言うのだから間違いないわよ。ねえ、皆!」


沙希は少し迷っていたようだが

「私がこれから話すことは自分でも不思議って思うんです。

だから、信じる信じないは皆さんの判断に任せます」

と思い切ったようにあの夢での女性との出会いを話し出した。


自分に持つ力に負けないため、

自ら命を絶って修行に励んだ女性の名が早瀬沙希・・・・

夢の中でその女性と同化し、女性としての記憶と統べを持って目覚めたこと、

そして、鏡を見せられ女性となった自分が夢の中の女性と酷似していたこと、

を打ち明けたのだ。


シーンと静まり返る会議室・・・・でも

「私、今の話・・・信じるわ。だって・・・これ悪口じゃないわよ。

あのいわばパソコンお宅で不器用な小川君が突然沙希ちゃんみたいな完璧な女性に

変身するってことのほうが辻褄が合わないもの。

たとえ、夢と言われても今のお話の方が納得できるわ」


「なんか変な話だけどミキちゃんの意見に賛成!」

「私も!・・・」

「私だって・・・」

と次々と声が上がった。


「私、これからもこの会社で女として働いてもいいんでしょうか?」

沙希が言うと

「当たり前じゃないの。沙希ちゃんは女性よ。女性として働いて何が悪いものですか」

「いろいろ言うとしたら男だわよね。あいつら偏見の塊みたいだもんね」

「ひどいこというわね、あなた」

「あははは・・・和代にはここに恋人がいるものね」

「だからといって、あいつが沙希ちゃんの事悪く言ったらひっぱたいてやるわ」

「おお怖っ!」

くすくすと笑いが洩れやがて大きな笑いの渦となった。


笑いが収まったとき、一人の制服を着た女子社員が言う。

「これ、専務さんが聞いているから話にくいんだけど・・・」

「話ていいわよ、別に会社で隠し事なんてないから」

専務が笑いながら言った。


「じゃあ、言わせてもらいます。

これ社内の人が聞いたらがっくりする人がいるかもしれないけれど、

会社って皆の力で守り立てて発展させていくわけでしょ。

でも、うちの場合少し違うの。私、事務職で会社の利益を

数字で判断出来る立場だから会社の状態って直ぐわかるのよ。

会社が設立された当時からいえば社長と専務の情熱だけで持っていたわ。

社長の資産で食い繋いでいたようなものよ。

でも沙希ちゃんが入社してから・・・

特にあのビジネスソフト”ワープスロウ”を発売してから会社の状態が変わったわ。

社長の食いつぶしていた資産を取り戻し、こんな自社ビルも手に入れられた。

いいえ、まだまだ伸びつづけているのよ」


「何か実感できる・・・凄い!」


「ただし、よ・・・沙希ちゃんの分を引いてしまえば少しは良くなったけど

利益があるかないかの最悪の状態・・・これが現実なの。

だから、この会社で暮らしを立てていく以上、沙希ちゃんに辞められたら困るの。

・・・・ごめんね、沙希ちゃん。せっかくの婚約のお祝いなのに私、欲得でお話しているわ」


「ううん、いいの。誰だって生活を安定させ向上させたいっていうのあたりまえよ。

でも、安心して。私辞めないわ、どんなこと言われても負けないもの。

だって、今までの事を思えば天国のようなものなんだから」

そう言ってニッコリ笑うと又、机に倒れこむ女子社員があちらこちら・・・。


「もう、しょうがないわね。あれほど沙希ちゃんの目を見ては駄目って言ったのに」

「専務!沙希ちゃんがあんな可愛いこというんですもの、つい目を見てしまうのは仕方ないですわ」

そう直子が言う。隣の2回も倒れてしまった大崎恵をかばってのことだ。


「それじゃあ、沙希ちゃん。恵さんからお願いね」

沙希は頷くと、律子の顔を見てから前列左の机に倒れこんだ大崎恵の顔を上げて

キスをした。

「あっ!」

と言う声があちこちから上がる。


急に力が抜けた恵が元気に立ち上がったのは10も数えないうちだ。

「ど・・・どうして?・・・沙希ちゃんから凄いエネルギーが身体に流れてきたの。

今はって?・・・・うん、物凄い元気よ。それに沙希ちゃんの目を見てもなんともないわ」


その声で一斉に専務を見る女性達。


「これは、当社の女性だけの特権だと思って頂戴。そして女性だけの秘密よ。

1日1回沙希ちゃんから元気をもらうの。

ただのキスって考えては駄目よ。栄養を補給する感謝の元・・・

どうお、恵さん。元気だけ?お肌の調子は?」


「あら、・・・・ほんとうです。ファンデーションの上からだけど

お肌がしっとりしているのがわかります」


皆の目がキラキラと輝きだした。


「沙希ちゃん、順番にお願い・・・・」

沙希が次々とキスをしていくのを横目に専務は

「こんな凄い沙希ちゃんの力を律ちゃんの独り占めをさせないよう

『公私の公』という立場を沙希ちゃんにのんでもらったんですよ」


「じゃあ、このキスは?」

「そうよ、女性に元気になってもらって一生懸命仕事をしてもらうという

専務の立場から沙希ちゃんの公務としました」


『ウワ~』という声が歓声にかわる。


全員が沙希のキスを受け元気になったのはそれからしばらくしてからだ。

免疫効果で改めて沙希の顔をジット見つめる女性達・・・・。


「きれいだわ・・・」        

「もう、うっとりしちゃう・・・・」

「私、沢口靖子さんに似ているって改めて思っちゃった」


そんな言葉を口に出す女子社員達、会議室での集まりも終了し女子更衣室に行くまでも

「沙希ちゃん、一緒に帰ろうよ」        

と女子社員達から誘いを受けるが

「ごめん、今日は約束があるの、許して」        

と両手をあわせて断ると

「あ~あ、そんな沙希ちゃんを見てると何だか胸がキュンとしちゃうわ」

と言って許してくれる。


律子に連れられて初めて入る女子の更衣室、

沙希のロッカーも決められていて、朝着てきた洋服もそのロッカーに入っている。        


驚いたことに専務秘書の岡島直子と社長秘書の大崎恵が待っていて、

「はい、これ」

と紙袋を渡された。

「女性としての誕生祝いだそうよ。これは専務から」

「これは社長から」

二人の秘書から渡された紙袋の中身・・・・

通勤用のスーツ、ワンピースが入っていた。バックやアクセサリーもあった。

「律子さんこれ・・・・」

「頂いておきなさい。後でお礼をいえばいいわ」

「着てきたら見せてね」

と言って二人が出て行く。


残ったのは沙希と律子だけ。沙希はプレゼントのワンピースに腕を通した。ピッタリだった。        

朝はパンツスーツ、帰りはワンピース・・・

女性の生活での変化がなんだか実感できるのだ。

女性としての喜びはそれだけでない。

こうして律子と腕を組んで歩いているとその温かさ柔らかさ・・・・・

その律子に『沙希』って呼び捨てにされる嬉しさ・・・・・


そんなことを心に思いながら歩いた沙希。

「さあ、ここだわ」

と律子の声に立ち止まって総硝子張りのファッションビルを見上げた。

女性としてこういう場所は初めてだったので思わず律子に腕を絡ます沙希。

そんな沙希に

「だいじょうぶだよ」

と小さな声をかけてドアに進む。


中に入るとなるほど女性の専門店ばかりのビルである。

化粧品の香りや明るい照明に飾り立てた洋服の数々の色が目に飛び込んでくる。


正面にある上りのエスカレーターに乗る二人・・・・

じっと前を見詰める沙希の耳に

「あら、あの人・・・」

「ほらほら、女優の・・・・」

とかいう声が飛び込んできた。

思わず振り返ると大勢の人が立ち止まって沙希を見ているのだ。


「ねえ、律子さん。何か変・・・・」

「どうしたの?・・・」

「うん、大勢の人が私を見ているような気がするのよ」

「沙希!気がするんじゃなくて見られているの!」

「えっ?」

「気が付かなかったの?」

「気が付かないって?」

「あんたが、会社を出てからどれだけ注目されていたか」

「ええ~~」

「皆立ち止まったり振り返ったりしながら見ていたの知らないの?

特に交差点では大勢の人に囲まれたじゃない」

「ええ・・・でもあの時怖かったから目を閉じていたの」

「もう、しょうがない人ね」

律子は自分の可愛い婚約者がこうして注目されることに心中複雑だったが

何もかも自分に頼りきって歩く沙希を見ていると嬉しくなって自慢したくなるから現金なものだ。


「ここだわ」

と美容室のドアを開けて中に入る二人。

「いらっしゃいませ!」

と元気な声がフロアのあちこちから聞こえる。


「いらっしゃいませ」

と出てきたまだ若い美容部員、律子と沙希を交互に見るが

沙希を見てあらっと言う顔をするがすぐにその顔が紅潮してくる。

やはりこの子も・・・と思って沙希の前に出るようにして沙希を身体の後に隠した。


「佐野静香の紹介で予約を入れた早瀬沙希ですが・・・」

というと

「あっ!先生の御予約の方ですね、そこにお掛けになってお待ちください」

といって奥に歩いていくがフラフラしているようだ。


「あ~あ、あの子も沙希に魅入られちゃったわね」

「でも、私・・・・」

「そうよ、別に沙希が悪いんじゃない。

あなたの持つ力・・・まだ見ぬ力が無意識に表に出ようとしているのよ。

カリスマという力がね」

「どうしたら・・・・いいのかしら」

「今はまだ五里夢中ね、だからジタバタせずに沙希は沙希らしくしてればいいのよ。

そうすれば自然と道は開けてくる。私はそう思うわ」

「ありがとう、律子さん。・・・なんだかそれを聞いて楽になった感じがするわ」


「おまたせしました。私が当店のオーナー千堂ミチルです、

早瀬沙希様は?」

「あっ、私です」

と立ち上がった沙希。

「こちらです」

と歩きかけた千堂オーナーに

「あのう・・・」

と声をかける律子。


「なにか?」

と問い掛けるオーナーに

「私そばにいてよろしいか?」

一瞬、『えっ?』という顔をするがすぐに

「どうぞ」

といってニッコリと笑って案内をするのだ。


一番奥の席に座った沙希に手の空いている美容師達がこぞってタオルや

美容器具を準備する様子が何故か壮観だ。その横に用意された椅子に座る律子。

いつもなら雑誌を読んだりするのだが、こうして沙希を見ているだけで

あきないし時間がかかっても平気だった。


「さて、どうしますか?」

とオーナーに聞かれて困っている沙希に

「先生、この子最近女にやっと目覚めたんです。

毛先が少し乱れているのと、色が黒いから重たく感じるということを

解消していただければ、先生におまかせしますから

この子に最も合ったヘアースタイルにしてください」


「おほほほ、面白い方ですねえ」

「でも先生!今律子さんが言ったこと本当なんです。

ワンピースを着るのも、お化粧をするのも今日が初めてなんです」


「それ、本当なの?」

「はい」

「わかった、そんなことを聞いたら私の腕が黙っちゃいないわ。

あなたを跳びっきりの美人・・・といってもそのままであなたは超ど級の美人だけど、

もっともっと質をあげてあげるわ」

といって腕まくりをする。

ここの美容師は女の子ばかりのせいなのか

オーナーの厳しい声に甲高い声の返事が飛び交っている。

オーナーは沙希の髪をカットしながらもどこに目をつけているのか

技術的な注意が飛ぶので美容師達は気が抜けない。


緊張感を持ってきびきび動く美容師を見ていると

なにかこちらも背筋が伸びる気がしてくるから不思議だ。


律子はその合間をぬって、疑問に思うことをオーナーに聞いてみた。

「先生!少し聞いてもよろしいでしょうか?」

「なんでしょう」

穏やかな声が返ってくる。


「沙希の目を見ればどんな女性でも魅入られてしまうのに、

先生はどうして平静にいられるんですか?」


「そうですねえ、慣れているっていえばいいかしら」

「慣れている?」

「名前は言えないけれど、私の姉が女優をしているんです」

「だからって・・・・」

「そうですねえ、女優でもピンからキリまでいろんな人がいるけど

姉はピンの中でもトップなんです」

「だったら・・・・」

「いいえ、やっぱり言えませんわ。だって姉の七光りって嫌じゃないですか」


「そ・・・そうですね・・・・というか・・・」

まだ納得が出来ず首を振る律子。


「とにかく、その姉と早瀬さんの目がそっくりなんです。だから、慣れているんですよ」


「ふ~ん、そんなことがあるんですねえ」

「ありますわ、でも・・・今も姉のメイクに私が刈り出されますけれど

実を言うと姉と同じ目を持った女優さんってまだ会ったことがないんです。

姉以外ではこの早瀬さんが初めなんですよ。ねえ、早瀬さんってどういう方なんですか?」


「えっ!どういう方って・・・沙希はコンピューターソフトの開発者なんです」


「コンピューターの?・・・なにか凄い!」

「たいしたことないです」

一言そう言って否定する沙希。


その時、『ピーピー』という電子音が

「沙希!携帯が鳴っているよ」


「律子さん、バックをあけてとってくださいな」

と携帯を渡された沙希、

「私、携帯って好きじゃないからなるたけ使わないようにしているのに・・・

誰なのかしら・・・・」

と電話に出る。

「もしもし?・・・・」

不信そうな顔が一度に晴れる。


「なんだ理沙姉・・・・」

と言う声にピクッと反応するオーナー・・・しばらくハサミを止めて鏡の中の沙希を見つめる。


「うん、ごめん。遅くなって・・・・そう律子さんと一緒だよ・・・

違うよ、会社の専務さん達に言われて美容室に来ているの。

・・・・・えっ?どこかって?・・・・あのファッションビルよ・・・

ええ、オーナー先生にしてもらっているわ。・・・・

ええ!~~電話を変われって?・・・・ちょっと理沙姉!・・・

初めてなのに失礼だわよそんなこと・・・・えっ?初めてではないの?

・・・・じゃあ・・・・」

と言って電話をオーナーに差出し

「すいません、電話を変わっていただけますか」

首をかしげながら沙希はそう言った。


「もしもし・・・・やっぱり理沙ちゃん。・・・・・

ええ、そんなこと忘れるものですか、私にとって姪よ。・・・・

ええ・・・言っている意味がよくわからないわ・・・・

妹?・・・・本当にあの沙希ちゃんの・・・・・

そんなこと信じられないわ・・・・・迎えにくるって?・・・・

わかった。・・・私もこんな気持ちで家にかえれない・・・・」

そういって黙って携帯電話を沙希にかえす。

でもその手がブルブル震えているのを沙希も律子も見逃さなかった。


それからはハサミを持つ右手が震えて止まらなく左手で身体に押し付けていた。

「杏奈!・・・・」

と呼ぶオーナー、やってきたのは最初に応対したあの美容師だ。

まだ左手で右手を身体に押し付けたまま・・・青白い顔のオーナーが

「紹介します。私の次女です。長女はパリで修行中なので

彼女が私がいないときのカバーをしてくれています」

と紹介するが再び杏奈は沙希の目を見たことによって顔を赤くして

ふらふらとしている。


「駄目だわ、完全に沙希に魅了されているわ。このままでは失神ね。

オーナー少し荒療治してもいいですか」

「荒療治?それって・・・」

「いいえ、別に身体を傷つけようというんじゃないんです。沙希!いいわよ」

というと沙希はフラフラしている杏奈の手を取って引き寄せ抱きついて

唇を合わせる。いきなりだったので他の美容部員達も呆然と見ているだけだ。

「あっ!」

と声をあげたのはオーナー、肝心の杏奈は目を真ん丸く開けて驚いた表情だったが

いきなり白目をむいて失神したのだ。


娘の方に行こうとするオーナーを押し留めて

「効果はすぐわかります」

という律子。


沙希に抱き締められていた杏奈ガ

「ええ~~!・・・」

という大きな声を上げて飛び起きたのは直ぐだった。

「嘘!・・・・こんな・・・・」

「どうしたの?杏奈!」

「キスをするこの人から凄いパワーが私の身体に流れ込んできたの。

私・・・今、元気一杯よ。それに今ではこの人を見ても何ともないわ」


娘の言うことに言葉も出ないオーナー。

「これが沙希の力なの。自分の目の魔力を打ち消し、癒しを与えるのよ。

沙希!ここにいる皆さんを癒してあげなさい」

そういう律子が

「杏奈さん、それから続きをお願いしますね」

とお願いすることになる。


「ねえ、ママ!・・・・いいえ、オーナー・・・

このお客さん・・いいえ、早瀬沙希さんのこと私にまかせて頂けないでしょうか」

「杏奈!・・・唯々諾々と私の指示に従ってきたあなたがそんな事をいうなんて・・

早瀬さんのことがそんなに気にかかるの?」

「はい、何故だか私・・・この沙希さんの先行きを見たくなったの。

だから、今日限りここを辞めて沙希さん個人のファッションコーディネーターになる」


沙希の癒しのキスはすべて終っていた。

元気になった美容部員達が店をクローズにしてカーテンを引き、皆沙希の周りに集まってきている。


「でも、早瀬さんはいっても普通のOLでしょ。あなたを一人雇うなんてできっこないわよ」

「私、お給料なんていらないわ」

「だって・・・杏奈」

「心配いりませんわ、先生。OLと言っても沙希は特別なの」

こんな話をしながらも決して手を止めない杏奈。

カットも終わり、カーラーを巻いて毛染めの準備にかかっている。


「沙希は今、世界で最も有名な女性よ。

でもそれは男名で発売されているから早瀬沙希っていう名前はまだ誰も知らないけれど、

もうすぐ週刊誌で発表されるから、そのうち本名のほうが有名になるわよ」


「沙希さんって一体何をされているんですか?

いちおう先ほどコンピューターソフトの開発者って聞こえていましたけれど」

と杏奈が聞く。


「2年経った今でも世界で売れつづけているビジネスソフト”ワープスロウ”の

開発者なの」


「ええ~~」

と悲鳴が上がる。


これが本当なら”世界で最も有名な女性”という意味がわかるのだ。

一人の美容部員が小走りでノートパソコンをもってきた。

「これ、お店のパソコンなんですけれど最近調子が悪くて・・・

勿論ワープスロウがはいっていますけれど・・・見ていただけますか?」


「いいわよ」

とパソコンを起動させる。


パソコンが調子が悪いというのは本当だろう・・・でも沙希が本物かどうかを見たいに違いない。

そんなことちっとも気にしない沙希。

髪を触られながらもパソコンのキーを叩きつづける。


「これでいいわ」

「えっもう直ったのですか」

「ええ、かなりのファイルとレジストリが壊れていたから修復ソフトを入れて直しておいたわ。

駄目よパソコンをほうっておいては。

1週間に1度でも修復ソフトを起動してパソコンの治療をしなくては」

といって修復ソフトの使い方を教える。

杏奈はそんな沙希の髪に毛染め液をかけてカバーをする。これで時間を待つだけだ。


目を閉じて時を待つ沙希。

先ほどの喧騒が嘘のような店内・・・皆の視線は沙希に集まっている。

先ほどのパソコンの修理を見ていてもその手早さ・・・

何もないところから修復ソフトを作り出す能力・・・本物だった。


その沙希の目が開いたとき沙希はオーナーに話し掛けた。

「ねえ、先生・・・いいえ、ミチル叔母様、

私の心の奥に仕舞いこまれた記憶を思い出しました。

あれは5歳のとき・・・叔母様が遠いところに旅立つ前日だったはずです。


叔母様は薄いピンクのワンピースとつばの広い真っ白なお帽子を被っていなさったわ。

私と一緒にお庭で遊んだあと、私にキスをしてから抱き締めてこう言われました。

『沙希ちゃん、叔母さんこれから長い間、遠いところへ行くけど決して忘れないでね。

叔母さん一生懸命勉強するから沙希ちゃんがお嫁に行くとき

叔母さんが誰にも負けない綺麗な花嫁さんにしてあげる。寂しいけれどそれまで待っていてね』

そう言って、白いハンカチを振りながらお庭から姿を消されたわ。

私、いつまでも手を振っていた」

そういって沙希は口をつぐむ。


「やっぱりあなたは沙希ちゃん」

「えっ?ママどういうこと?」

「沙希ちゃんはあなたのいとこよ」

「でも亡くなったって聞かされたけれど」


「そうよ、沙希は一度死んだの。そしてこうして生まれ変わってくれたわ。伝説の御子としてね」

「あっ!理沙姉」

「沙希!半日逢わなくても寂しかったわ。・・・・あなたが律子ね」

「理沙・・・さん?」

「律子、タメだから呼び捨てでいいわよ」

「じゃあ、理沙、今日は呼んでくれてありがとう」

「お礼いうのはこっちだよ。よく沙希のプロポーズをうけてくれたね。

ママも肩の荷を下ろしてホッとしているよ」

「ホッとする?」

「これからは律子も大変だけどね・・・平安期から1000年以上たった

我早瀬一族に現れた伝説の御子・・・その御子の妻となる律子は日本中に散らばる女達の長となるの」


「ちょっと待ってよ女達って?・・・女だけ?・・・」

「そう、血を流しつづける男達の戦いをやめさすよう

時の帝の三女、早瀬の沙希姫様に女しか生めない術を施したのが陰陽師の安倍晴明様・・・

それから我一族に女しか産めない・・・・女の悲劇が始まったの。

その証拠に私も沙希も父が違うし、ママたちも長女と次女は父が一緒だけれど、

それから8女まで全て父親が違うの」


「それと沙希のこと伝説の御子って言ったでしょ」

「ええ、言ったわよ。男女両方の性を持つ者のことよ」

「ということは沙希って・・・・」

「あら、まだ何も聞いていなかったの?・・・そうよ、沙希は両方の性をもっているの」

「律子さん、私のこと化け物と思ったら婚約解消してもいいわよ」


「化け物だって!・・・誰がそんなこというのよ。沙希そんな言葉で自分を蔑むのを止めなさい。

私・・・嬉しいの。あなたが男性の身体だけで

今後メスを入れなければならないと可哀想でやりきれなかったの。

でも・・・女性の身体を持っているのだったらとても嬉しいのよ。

そしてこれ、お願いというより私の命令・・・・律子さんだなんて他人行儀な呼び方は止めて。

理沙と同じように律姉と呼ぶこと、いいわね」


「律姉!・・・」

「よろしい!」

「おやおや、今から恐妻教育ですか・・・やれやれ・・・

ということです。ミチル叔母様、何か聞くことは?」


「理沙ちゃん!沙希ちゃんは本当に男性だったの?」

「ええ、身体はさっき言ったとおりだけどそれを別にして

先週の金曜までは男性として生活していたわ。

女になりたいとかそんな気持ちは全くのゼロだったわね」

「最低の男でした」

と沙希が言い添える。


「そんなあ、金曜日からいってもたった3日よ。

そんな日にちでどうやってここまで完璧な女性になれるってのよ」

誰が聞いてもそこでひっかってしまうのはあたりまえだろう。


今は理沙が夢の話から説明してくれるから聞いているだけでいいのだが。


「そんなことがあったの・・・普通聞いただけでは信じられないけど

さっきの沙希ちゃんの5歳のときの思い出は二人だけしか知らないわ。

それがいちいち符合するの」


「それじゃあ、ママ・・・・」

「ええ、この沙希ちゃんは私の姪の沙希ちゃんよ。間違いないわ」


「じゃあ、この方が伝説の御子さまなんですね」

美容部員達が口々に声をあげる。


「沙希ちゃん!この人達全員が早瀬の里の女の子達なの」

「えっ?そうなんだ・・・・」

その時『ピッ・・・ピッ・・・』とタイマーの音がした。 自然と身体が動くのは美容師達だ。


色の染まり具合を見てからカーラーを外していく杏奈、

手伝うのは美容部員全員だ。皆嬉しそうに手伝っている。

外したカーラーを受け取るのも順番に並んで受け取ったりしているのだ。


「でも、沙希!そのワンピースよく似合っているじゃない」

「うん、これ会社の専務がプレゼントしてくれたの。

まだまだあるけど持ち切れないからロッカーに置いてきたのよ」

「そう、良かったじゃない」

「律姉ってね、うちの社長の妹だったの」

「律子が?・・・・」

「そうたいした会社じゃないわ、だって沙希の力で急成長しただけだから」

「ふ~ん、やっぱり沙希って凄い才能なんだ」

「凄い才能?・・・理沙、そんなところで沙希を語れないわ。

コンピューターの天才と言っていいわ。

同じ職場で働いているからその異能ぶりはよくわかるのよ」


「でもそれだけかしら」

「えっ?」

「私、それ以外でも沙希の才能が開花する場所があるような気がするの」

「沙希の才能?」

「なんだか私もそんな気がする。

理沙ちゃん、律ちゃん、こんな仕事をしているとね

輝いている人や輝きを失っていく人がようわかるのよ。

なるほどねと思うことが多々あるわ。ほとんどが傲慢になって輝きを無くしていくわね。

でも沙希ちゃんを見ているとこの美貌と内面の輝き・・・

人を取り込んでしまうカリスマ性というのかしら・・・・これからが楽しみだわ」


セットをしてからメイクをする杏奈。

さすがプロだ。やはり素人の岡島直子のメイクとは雲泥の差だ


会社を出るときこれ以上はと思っていた沙希の美しさ・・・


椅子を下りた沙希、・・・その姿は全く別人だった。

いうにいわれぬその美しさ、輝きは何倍にも膨れ上がっていた。


「あのう、写真とってもよろしいか?」

「あんた達!・・」

「いいのよ、叔母様」

といって皆でわいわいと写真をとる沙希。

見ているだけで沙希の内面の優しさが伝わってくる。

ああ~・・どうかこの優しさをこのままにと願わずにはいられないミチルだった。


美容部員達の見送りにニッコリと笑って手を振る沙希。


結局、ママのお店に着いたのは夜遅くなってからだった。

ママのお店のこと?それは語るまい。

ただ皆の祝福を受ける二人にファンファーレが鳴ったことは確かだ。


そして、沙希の部屋での睦み事は律子に女としての自信を持たせ、

可愛い旦那様への愛情が満ち溢れていくのだ。

子供が授かったと実感したこともあり、

可愛い旦那様のまだ中学生みたいな肉体が女性へと変化する楽しみは

妻となった律子の楽しみとなった。


可愛い旦那様をその腕にしっかりと抱き締め眠りについていく。

その二人の夢は果たして・・・・・。



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