第一部 第二話
沙希はパッチリと目を覚ました。・・・・なんだかすがすがしい寝起きだ。
沙希にとって性も人生も変わってしまった初日の朝、
幸せに囲まれている・・・と実感ができる。
今まで心と身体に澱んでいたものがスッキリと取り払われて妙に身体が軽い。
起き上がって
「ウーン」
と伸びをしていると、ドアがノックされ
「どうぞ」
というと理沙がはいってきた。
昨日のバッチリ化粧を決めた姿は格好良く宝塚も男役のようできれい・・・
と思っていたが、こうしてスッピンの姿を見てしまうと
5歳くらいは若返り、とても愛らしいのだ。
(ああ・・・この人が私の姉さんなんだ)と思うとなんだか嬉しくなってしまう。
そんなこと沙希が思っているとはつゆ知らず
「沙希、おはよう。起きていたのね」
「理沙姉、おはよう」
と自然な言葉で朝の挨拶が終わる。
「そうしていると本当に沙希なのよね」
と言いながらベットに腰をおろした。
「ねえ、夕べのこと覚えてる?」
理沙は沙希の顔をじっと見て二ャッと笑った。
「イヤッ、馬鹿っ!」
と枕を投げつけた。
顔が真っ赤になっているのが自分でもわかる。
沙希の人生で生まれて初めて女性と交わったのだ。
それも女としてだが、最後にはきっちりと男の機能を果たしている。
それをからかう理沙に
「ホントにもう理沙姉って意地悪で・・・・」
「意地悪で・・・何?」
「う~~ん、・・・・大好きな姉さんよ」
といって飛びつきキスを仕掛けた。
でもまだねんねの沙希にとっては理沙にはかなう筈もない。
逆に組み敷かれてしまって身動きが出来なくなってしまう。
沙希の身体の上になった理沙が
「ねえ、沙希。ママが朝御飯って呼んでいるよ」
「判った、すぐ行くから・・・・ねえ、理沙姉・・・そんなことしていたら
私・・・動けない」
身体の下の沙希は何故か子供っぽく、そして素晴らしく可愛い・・・。
平静を装ってはいたが、もう我慢が出来ない・・・
思わず沙希の身体をガッと押え、その唇に吸い付いていった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
本人達は夢中でそんなに時間はたっていないとは思っていたのだが
沙希を呼びに行ったきり理沙がなかなか降りてこないのを不審におもったママが
二人を呼びにあがってきて目撃したものは・・・・・。
「う~ん・・・いけない子達ね。ママに黙ってそんなことするなんて・・・
駄目だわ、こんなの目にしてしまっては・・ねえ、ママも仲間に入れて~・・・」
いそいで着ていたものを全て脱ぎさったママが二人の中に飛び込んでいった。
三人の幸せのひと時がこうして過ぎていく。
・・・沙希の上になっていたママが崩れるように沙希の横に転がり落ちて
荒い息を吐いたのは一体、どれくらい時間がたっていたのか
今日が土曜日の休日でほんとうに良かった・・・・・。
ベットに横たわった三人の荒い息からメスの匂いを発散させ、
部屋中に甘い香りが漂よっていく。
ママや理沙の視線がつい沙希のうえに注がれてしまう。
昨日よりも今日・・・その状態がひどくなっていくのはどういう訳か?
沙希を見ていると何だか乙女のように胸を躍らせてしまう。
沙希の眼は深い泉のよう、視線を当てればつい引き込まれてしまうのだ。
(この子って女を夢中にさせてしまう。・・・そういうフェロモンを持っているわ。
それは私達一族にとって良いことなのか・・・悪い事なのか。
だけどわたしは沙希を守る。絶対に・・・もう二度と放しはしない)
ママも理沙もそう誓うのだ。
★
下着姿の三人の甘くけだるい時間は沙希の、
「ママ!・・お腹がすいた・・・」
という言葉で現実感を取り戻した。
性欲が充足した今は食欲のほうが切実な問題となる。
その証拠に『ググ~』っと沙希のお腹が鳴り出した。
「あらっ・・・・ふふふ・・・お腹がなるほど力を使い果たした・・・ということかしら」
「もう・・・・理沙姉ったら、・・・・・」
とぷ~と膨れる沙希。
「そうですよ、理沙ちゃん。沙希ちゃんをからかってはいけないわ。
私達二人の為に沙希ちゃんは充二分にがんばってくれたのだから・・・・」
「私、沙希のこと・・・からかってなんかいないわよ。
こうしていても時間が経てば経つほど沙希のことが大好きになっていく自分が
何だかいとおしくなってきちゃってね」
という理沙に
「理沙姉・・・・・」
といって指をからませ、『チュッ』と軽くその唇にキスをした。
「ほんとう・・・昔に戻ったようでママはとっても嬉しい。・・・・
あっ、もうこんな時間・・・朝食っていう時間でもなくなってしまったわ。
どうする?何か作る?・・・」
というママの声に
「ママ・・・わたし操叔母様のところへ行きたい。
久しぶりに逢いたいし、大好きなオムライスを食べたい!」
「沙希!・・・どうして操叔母様のことを?・・・・」
びっくりした声をあげる理沙に沙希が
「あら・・・・どうしてかしら?・・・自然と口についちゃった・・・」
しばらく考えこんでいた理沙が
「沙希!少し教えてほしいことはあるの」
「なあに?・・・理沙姉・・・」
「実は少しだけ・・・・ほんの少しだけど昨日から違和感があるの?」
「違和感?・・・・」
「ええ・・・・じゃあ、ちょっと聞くわよ。
沙希の身体のことは別にしてよ。精神的に女性になりたかった?・・・」
「えっ?・・男時代のこと?・・・・あんまり思い出したくはないんだけど・・・
仕方ないわ、理沙姉が聞く事だから・・・・う~ん・・・って考えることもないかあ
・・・ううん、全然思いもしなかった。
段々身体が変わってきたのも知っていたけど・・少づつし胸が出てきたことは
嫌で嫌で仕方がなかった。
・・・でも、今から思うとそれも女に変わっていこうとするこの身体に
反発していたのね」
「そんな沙希が・・・たった半日で・・こんな短い時間で女性に変わってしまった。
それも完璧によ。前に小さい頃から女になりたかったニューハーフが
性転換した直後に取材したんだけど、なんかちぐはぐだったわ。
女になりたかったはずなのに男の地が出ていて見ていられなかった。
でも沙希は違う・・・・あれよあれよと女性に変わって、
もう誰もがあんたが男だったなんて考えもしないわ。
私でさえそんなこともう思いもしない」
「う~ん・・・・じゃあ、あれかなあ・・・」
「あれって?」
「昨日ね、ママのお店で気を失っていたとき、夢の中で・・・・・
そのときはまだ何もわからなかったから・・・・
とてもきれいな若い女性に出会った・・・というのだけ覚えているの。
とにかくその女性が私を待っていたわ。
いえ、待ちつづけていたって言っていた・・・
その人が私にはなかった女性としての記憶を与えてくれるって・・・
そして、私と同化するといって私の身体の中に消えてしまったわ。
・・・・・いいえ、今思うとあれは絶対夢ではなかった。
・・・だって私には・・・女の子としての記憶があるんですもの」
「何ですって!」
驚いた二人がベットの上で飛び起きた!
なんだかおかしいと思っていた。・・・・でもこんなことがあるなんて・・・・。
「そうでもなければ、いくら私でもこうしてすぐに女性にはなれっこないわね」
そういう沙希にベットから降りて机の引出しをあけて何かを取り出した理沙。
「沙希!あなたメガネは?」
「えっ?・・・あら、理沙姉に言われるまで気がつかなかったわ・・・
どうして?・・・・どうしてメガネがなくても良く見えるの?・・・」
「沙希!・・・亡くなった沙希はね目がとてもよかったの。
確か2.0あったと思うわ」
「それが・・・一体・・・」
どうしたの?・・・と、小首をかしげる沙希の目の前に、
机から出して背後に隠し持っていた1枚の写真をかざす。
「あっ!・・・この人・・・・・・」
といって理沙の手から写真を取り上げた沙希はその写真をじっと見つめる。
「そうよ・・・この人よ・・・・」
と叫んで理沙とママの顔をみつめた。
「この人が・・・・・・沙希・・・さん?・・・・」
そういわれて頷く二人をじっと見つめてから
再び写真に目を移し食い入るように写真の女性を見る。
そして・・泣き笑いという表情になり涙が頬を伝わりだした。
その涙を黙って拭うのがママだ。
立ってその様子を見ていた理沙が
「沙希!・・・あんた女になってからの自分の姿、夕べからみていないでしょ」
「えっ?・・・ええ・・・何だか見るの恐くて・・・」
まだ、潤んでいる眼を理沙にむける。
この子が昨日まで男だったなんて誰も信じないだろうし、
昨日からの変化をその目で見続けているママや理沙だって
100%自分の目を信じられないでいるのだ。
「さあ、沙希いらっしゃい。女は鏡を見るのが大好きなのよ。
鏡で表情を勉強するし、毎日のメイクも鏡がなければ出来ないわ」
といってベットに座り込んでいた沙希を大きなドレッサーの前に連れていく。
「あっ!・・・・・」
といってドレッサーの前で立ちすくんでしまった沙希。
「こ・・・これが私?・・・・」
そこには夢の中で出会った少女が立っていたのだ。
なんだか慈しむように鏡の中の自分をじっと見始めた沙希を後ろから
ママと理沙が後ろから昨日よりも女らしい線になった肩に手を置く。
「どうお?沙希ちゃん」
ママの優しい声に沙希は鏡を見ながら
「私・・・この身体大事にする・・・決してママや理沙姉を泣かすようなことはしないわ。
・・・今、ここで約束します」
「ありがとう、沙希ちゃん。その言葉亡くなったあの子が聞けば喜ぶわ」
「いいえ、ママ。早瀬沙希は私なのよ。この身体には沙希さんの心が
同化しているんだからね。その証拠に・・・」
といって話し出したのが、沙希が5歳のとき忙しい仕事の合間をぬって
理沙と沙希をハイキングに連れていってくれたときだ。
お昼が終わった後、運悪くママがゴミを少し行ったゴミ捨て場に棄てに行った間、
ちょこまかと動き回る妹の沙希をシートの上で見守っていた理沙が
お腹が一杯になったことからついウトウトと居眠りをしてしまった。
ほんの1分ぐらいだったと思うが目が覚めたときにはその辺りを走り回っていた
沙希の姿が見えない。慌てて飛び起きた理沙が脱いでいた靴も履かずに走り出した。
「沙希!・・・沙希!・・・」
大きな声で叫びながら駆けずり回る。5歳違いの大事な妹だ。
運悪くというかママが他のハイキングの人達と同じ場所で食事するのを
嫌ったので回りには誰もいない。
そのうち池の中に黄色いものを見つけた理沙・・・
その色はいつも目に付くようにとママが沙希に着せていた服の色だ。
躊躇なく理沙は池に飛び込んで沈んでいた沙希を引っ張り上げた。
運が悪かった中で運がよかったのは、
理沙がスイミングを習いに行っていて優秀な選手だったこと。
その頃に走ってきたママが総合病院の婦長をしていたことだ。
我が子二人を池からひっぱりあげ、仮死状態だった沙希に手当てをほどこす。
その間に理沙は濡れた服にも構わずに近くの店屋にとびこんで
救急車を呼んでもらった。
母と姉の連携で命が助かった沙希・・・その頃のことを話す沙希に
二人は顔をあわせてから沙希の背中に顔をくっつけて泣き出した。
でもその泣き声はすぐにやんだ。それはそうだ、死んだと思った娘が・・
妹が・・ こうして手の中に現実にいるのだから・・・・。
鏡に映る下着だけの三人・・・この様子をもし他の者が見たとしても
このうちの1人が昨夜まで男で・・なおかつ今も男の機能をもつ
女性である事を例え知ったとしても信じることは出来ないだろう。
★★
お風呂でさっぱりと汗を流した三人、
特に沙希はママが用意した亡くなった沙希が買って一度も手をとおしていない
インナーとアウターを感慨深げに身につけていく。
淡い色が好きだった沙希が買っていたものは
パープルのブラジャーにパープルのTバックショーツ、
そして、パープルのガーターベルトとストッキング。
全てパープルで統一していた。
アウターは白いブラウスと水色のミ二のタイトスカートというように、活動的にまとめてみた。
お化粧は眉はそろえたが口紅だけにとどめる。それだけで充分だった。
ヘヤーは肩まで伸びた長髪をママがセットしてくれた。
前髪を切りカチューシャをはめる。どうみても10代の少女だ。
「まあ・・・沙希!見違えたわ」
そんなことを言った理沙はTシャツとジーンズのラフなかっこうだ。
「今日は沙希がメインだからね。私は目立だたないようにしたわ」
といいながらも、十二分に理沙の美しさを主張していた。
ママは塾女らしく黒いワンピースだが女の色香がプンプンと匂う。
理沙の車で約20分、レストランに着いた。ここが叔母である操の店だ。
お店に入ると昼時のこと満員だったが店の奥から
「いらっしゃい、お部屋とっといたから」
とママとよく似た女性がニコヤカにでてきた。
しかし、沙希の顔を見てハッとして足をとめる。
ママはその女性の手を取って
「お部屋でゆっくりとお話するわ」
女性は気をとりなおしたのか、ママに手をとられたまま部屋に案内した。
「操さん、あなたにお話があるの。ちょっといいでしょ」
三人がイスに座るとママがこう言った。
「お食事のあとでお話があるけどいい?・・・」
操がうなずくと
「少し待っててね」
と言って立ち上がって部屋を出て行く。
「操叔母様・・・驚くかなあ」
沙希がいうと
「そりゃそうよ、さっきの反応見たでしょ。まるで幽霊にあったみたい」
「でも、あんまり驚かさないようにしましょうね。
そうでないと操、あんまり気が強いほうではないから」
そこへ操が自分で4人分のお茶を持って部屋に入ってきた。
お茶を配りながらもその視線は沙希に注がれ続ける。
「これでゆっくりと、お話が聞けるわ」
といって座るが視線は変わらず沙希に向いたままだ。
「お話はママがするから挨拶はあとでね」
とママが沙希に言ってから、隣りに座った操のほうに向き直る。
「これってどういうこと?・・・姉さん」
「今お話するわ」
とママは昨日からの出来事をこと細かく話しだした。
沙希が智弘という男だと聞くと呆然として沙希の顔を穴があくほど見る。
でも、沙希という女の子になっていくさまや三人の交わりの
話に入ると生唾を飲み込みしだいに顔が紅潮し始めた。
ママの話が終わっても、紅潮していた顔色は元には戻らない。
「真理姉さんって、ひどい」
「エっ?」
「だって、こんな話を昼間から聞かせるなんて」
「どうしてなの?」
顔を赤らめながら操はママの手を取って自分の黒いフレアースカートの中に
その手を差し入れる。
「操、あなた・・・・」
「最近私、品行方正なの。姉さんひとっつも呼んでくれないから・・・。
その上、私は姉さんみたいに結婚もしていないし子供もいないわ。
こんな私でも子供が欲しいと思うことが最近多いのよ。
とっても寂しくなって仕方がないんだから・・・・」
「だって、操は死んだ雅彦さんに・・・・」
「ううん、婚約してから私を残してあっというまに逝ってしまったあの人には
もう長年充分につくしてきたと思うわ。御両親ももうすでにこの世にいないし・・
最近思うのよ、こんなことしてきた私って悪女じゃないかって・・・
だって女性しか愛せない私が子孫を残すのが目的だけで彼に近づいたのよ。
いくら彼が亡くなったってそんな不純な目的を持つ私を許されるわけないじゃない」
そういってテーブルに突っ伏した。
大きな声をあげて泣くわけじゃないが、声を押えて嗚咽をしている。
女性の悲しさが沙希の心に迫ってきてたまらなく立ち上がった。
ママと理沙は黙って見ている。
操が座る椅子に手をかけると膝まづく。
そして、操の肩に手を置いてこちらを向かそうとする。
『ビクッ』と身体を震わせた操だが嫌々をしてテーブルから顔を上げようとはしない。
だが女性になったとはいえ昨日まで男をやっていたのだ、
非力とはいえ今の操を振向かすぐらいは簡単だった。
操の黒いロングスカートの脚の間に無理やりグッと身をおいた沙希、
だが操は俯いて顔をあげようとはしない。
今の沙希は本能のまま、女性として心の想うまま行動している。
両手で操の顔をもちあげ、営業用のファンデーションも構わず
両目から溢れる涙をペロペロと舐め上げる。
吃驚した操が自ら顔をあげるとその唇に唇を合わせていった。
操の見開いた目が沙希の行動に驚きを物語っていたが、やがて静かに眼を閉じる。
こんな短時間だが操が変わっていく。柔らかい表情になり沙希を受け入れたのだ。
実をいうとママの妹で沙希を認めさすのが一番難関だったのが操だった。
気が弱いくせに一本芯が通っていて、姉妹の中で一番頑固だったし、
死んだ沙希を一番可愛がっていたのも操だった。
その操が沙希のキスを受け入れているのだ。
ママと理沙はニッコリと笑いあっていた。
唇を離した沙希は操の唇から滴り落ちそうな二人の唾液を
ぺろっと舐めるとニッコリと笑った。
その引き込まれそうな笑顔に操はクラクラする。
これが初恋?・・・生まれて初めての胸の高まりは操を一瞬に変えた。
沙希が元男ということはもう頭にはない。
沙希がいさえすればこれから生きていける・・・操の愛がそこに生まれたのだ。
「操叔母様・・・」
と操の手を握る沙希。
そんな行為に操は・・・もう・・・胸が『ドキドキ』と高鳴るし、
頭の中がボウっとしてしまって、沙希の言うなりだ。
「は・・・・はい・・・」
理沙はそんな操を見ていられなくなってトイレに立ってしまった。
ママも出て行こうかどうしようか迷ってしまうぐらいの操の姿、
これではまるで高校生の女の子だ。
「操叔母様、私の好物だったおいしいオムライスを食べたい」
「えっ?・・・いいわよ、そんなこと・・・。
あれはここでのメニューには入ってないの。でも頼まれればいつも私がつくっているのよ。
沙希ちゃんのためならうんと腕をふるうわよ」
「わあ~、嬉しい。それでこのあと私達、お洋服や下着を買いに行くんだけど
叔母様はどうする?」
沙希はレストランのことを考え遠慮がちにいった。
でも、このまま操をひとりにしてはおくことは沙希にはできなかった。
そこにママが助け舟を出した。
「操さん、レストランはマネージャーさんにまかせておいていいんでしょ。
このあとお洋服とランジェリーを買いに行くの。
靴も買いたいし、小物類も・・・。だって沙希ちゃんが持っていたものってもう古いから・・・。
最近のファッションのものが欲しいんだけど
頼りになるのは理沙ちゃんだけ、沙希ちゃんも私もこの方面は全然だめなの。
そこへいくと操さんはファッション関係のお友達も多いし、
いつもお客様を見ているから目が肥えているでしょ。
ねえ、お買い物手伝ってくれる?そのあとうちに泊まればいいわ」
パッと眼を輝かす操。真理が言いたい事を察したのだ。
このまま皆と買い物に行って姉の真理のうちに行って食事をして、
そして・・・・そのあとの時間は至福の時となる。
すっと立ち上がった操
「私、沙希ちゃんに腕をよりをこめておいしいオムライスを作ってくるわ」
と部屋を出て行った。だがすぐに戻ってきて
「姉さん達のは私と一緒でいいわね」
こちらの返事を待たずに再び姿を消した。
「ふふふ・・・現金な操さん・・・」
ママが言ったが
「良かった。叔母様が元気になって・・・・」
沙希がほっとしたようにいう。
「沙希は本当に優しいんだから・・・・
でも私には操おばさんの様子、いつもと変わらないように見えたけど」
「ううん、理沙姉、叔母様は平静を保っていたけど心の中は空っぽだったわ。
何の目的もなくただ生きているだけ。そんな操叔母様見るのなんて私は嫌よ!
だから本当の生きる目的が見つかるまで操叔母様には私のために生きて貰うの。
だから今夜からうんと愛してあげたいわ」
その外見の幼さとは別人の沙希だ。熟成した女の色香が匂い漂ってきて
理沙やママでさえもドキっとしてしまう。
ここがレストランでなければ沙希に抱きついてしまっていた。
それだけ沙希の女性としての魅力には我を忘れてしまいそう・・・。
運ばれてきた料理・・・どれも素晴らしかった。
沙希の好物のオムライスは頬が落ちそうになるほど美味しかった。
さすがに操が腕によりをかけてつくったものだ。
四人は楽しく語らいながら食事の時間を過ごした。
デザートのコーヒー・・・これもまた喫茶店で出されるどのコーヒーよりも美味しいのだ。
さすがに操が厳選したコーヒー豆だ。
その時ママが
「ねえ、沙希ちゃん。明日の月曜日からお仕事でしょ」
沙希はうなづく。
「あなたの職場がどんなところか知らないけれど沙希ちゃん、
昨日までのように働ける?・・・あなたはもう女性よ。
男としてのあなたはもうこの世にいないわ。どうするつもり?」
沙希はニッコリと笑う。
「ママ、心配しないで。私・・・今のお仕事が大好きなの。
でも、もし私のようなものいらないって言われたら私ひとりでもやるわ」
「ママ、大丈夫よ。来週に私の書いた記事の雑誌が発売されるわ。
内容は、今世界中で買われて続けているビジネスソフト”ワープスロウ”
作ったコンピューターの天才・早瀬沙希とはこんな人・・・・ってね」
「えっ?」
「まあ・・・」
二人の姉妹はお互い顔を見合わせていたが
質問しょうとして声を出すが、お互いタイミングが合ってしまい言葉が続かない。
でもやっとママが理沙に聞く。
「じゃあ・・・沙希ちゃんは?・・・」
「ママ達は知らないかもしれないけれど、沙希はこの業界・・・いいえ、
日本中・・・世界中で今、もっとも有名な女の子よ。
もっとも小川智弘の名前で出しているけど、
本名早瀬沙希という女の子って私がばらしてしまったら、
この先どうなるやら・・・・ね」
「嫌だなあ、理沙姉。取材とかそんなの続くわけ?」
「さあ、それは判らないわ。
でも確か沙希のところの社長が海外からインタビューの依頼があるっていっていたわよ」
「もう・・・・」
「心配ないって・・・智弘くんなら駄目だけど沙希ならどんなことがあっても大丈夫よ」
「あっ・・・なんか理沙姉に私、ひどい言われ方してる」
「ひどくはないわよ。だって可愛い沙希が世界に名前を売るのよ。応援したいじゃない」
「理沙姉・・・・・」
「ふ~」
と椅子に腰を落としたママ。
「沙希ちゃんってそんなに有名な人だったの。ママちっとも知らなかっった」
なんだかガックリするママに
「ううん、ママ。・・・仕事でいくら有名になったってそれだけのことよ。
でも私には家族が出来た・・それがとっても大事で嬉しいの」
「でも小川の家の人は?」
「私には家族って呼ばれるものないんです。
大学入学時に唯一肉親だった母に『もういいでしょ』っていわれて捨てられたのです」
「捨てられた?」
ママも理沙も操も驚いて身体をのりだしてしまう。
なんて肉親の情に薄いのか・・・ママは泣き出しそうになり慌ててバックからハンカチを取り出した。
「泣かないで、ママ・・・私は母には捨てられたけれどママが出来たのよ。
飛び上がるほどうれしいわ」
操は客観的にこの場面を見ていたつもりだったが、そうはいかない。
沙希の優しさにふれ、沙希に対する恋心が倍増してしまった。
「ママ!お買い物のあとでいいけど私の住んでいたアパートに行きたいんだけど」
「そうよねえ、一日でも早く契約を解消するほうがいいわね」
★★★
居間で四人はくつろいでいた。コーヒーを飲みながら
「今日は大変だったわねえ」
「ごめんなさい、私のためにたくさんの買い物をしてもらって」
「何をいってるの。沙希の持っているもの、古いものばかりじゃない。
流行おくれもいいところよ。そんなの着られるわけないじゃない」
「女性って本当に大変だわ」
ふ~と息を吐くとソファの背もたれに寄りかかった。
「でも、全部捨ててしまったわね。着るもの・・・」
「うん、必要ないから。あんなゴワゴワして野暮ったいもの二度と着たくもない」
「持ってかえってきたのは結局仕事で使うパソコンと書籍類だけ
引越しはあっというまに終わってしまったわね」
と操がいうと
「引越しは簡単だけど挨拶回りは大変だったわ・・・ねえ、沙希ちゃん」
「ええ、なんか私のこと疑ったりしたお隣りさんがいたりして・・・」
「それに管理人の奥さん。沙希ちゃんをみてビックリしていたじゃない」
「なんか私のこと興味があったみたい」
「帰りがけにいやらしい目をしながら沙希ちゃんをジッとみていたわ」
「それは知らなかった。でも、帰るときに必要以上に長い時間、握手をしていたのはそれね」
「あの隣の若いOLさんも沙希を熱い視線で見ていたわよ。お隣に挨拶に行った時、
お部屋に引っ張り込もうとしてた」
「フーン、そんなことがあったの。私、持って帰るものを整理していたから知らなかったわ。
沙希ちゃんダメよ。いろんな女に手をだしては・・・」
「沙希にじっと見つめられたら、女はメロメロになっちゃうからね」
「でもそれは沙希ちゃんの魅力でもあるけど、少し危険!」
「操叔母様。男のものはどうしたの?」
「ゴミ捨て場のゴミの中に捨ててきたわ」
夕食の後もこうして沙希の話でもりあがっていく。
しかし、話が段々とぎれがちになり妖しい雰囲気が漂いだした。
誰からするともなしに抱き合いキスになる。
でもママの
「四人でお風呂に入りましょう」
といったのを境に皆、着ていたものをその場で脱ぎ去った。
広いお風呂の洗い場でのこと、その後のベットでの甘い時間、
静かに・・・・そして甘く時が過ぎていく。
操が沙希に飛びついて
「私にも、子種をちょうだい」
と言ったのをママも理沙も見ていた。・・・・・・・・・・・・・・・・・
明日からは沙希にとっての試練の日々がはじまる。