第二部 第一話 第二部 始
里での生活の1週間、充分な休養と癒しの湯に入り続けたことによって
女性達は怪我の後遺症や持病がすっかり消えて、
特に年を取った女性達は10も20も若返ったように元気になったし、
若い女性は若い女性なりに持っていた持病や特に仕事で厚化粧する舞妓や芸妓は
肌荒れ悩んでいたのにそれもすっかり良くなっていた。
「ありがとう、小沙希ちゃん。うち腰痛で舞いを舞う事が辛くなっとったんどす。
このままでは正座することも出来へんようになる。
そやから大好きな芸妓を止めなあかんようになるって
この間からお母ちゃんに相談しとったんどす」
でもいまではホラっと屈伸をする花江。
お母ちゃんと手を取り合って喜んだといった。
そのお母ちゃんも娘のような女子高生達に囲まれて、
菊枝を殺されたという悪夢のような出来事も癒しの湯に入る事によって、
心の中もリフレッシュされたと言っている。
癌というあと半年の命と宣告されていた有佐ひとえは、
最初こそ娘のケイや女医の澪に付き添われて癒しの湯に入っていたが今では一人で湯に通っている。
真理や操によって料理好きということで厨房に仕事を与えられたと言って非常に喜んでいる。
澪によればもうすっかり病巣である癌組織は消え、
あとは長い間寝たきりであったため、リハビリが必要なだけだ。
ケイは沙希の姉となったが、母を救ってくれたという大恩を感じているので
他の姉達とは違う意識で沙希に接している。
そして、千堂ミチル・杏奈親子や勤める美容部員達はその強力なパーマ液や毛染めで肌荒れがあり、
立ち仕事からくる腰の痛みや関節の痛みからも開放されて
沙希の姿をみると飛び掛ってその嬉しさをあらわしたのだ。
癒しの湯は澪によって分析された。
今までみたこともないウイルスが湯の中にたくさん含まれているというのだ。
そのウイルスは実験の結果、人間の体組織に入り込み、
悪性となった組織を吸収してしまい、組織ばかりでなく、悪性ウイルスも吸収するというのだ。
この湯のウイルスは1週間は身体に生き続けそして体組織に吸収されてしまう。
澪はいろんな検査をやってみた。結界外でのウイルスの働きも正常だったし
水道水の継ぎ足しもウイルスの働きには関係なかった。
全て検査し終わった結果、京都井上家の隣りの地下につくる診療施設に
治療の一環として温泉を作り、この湯を運び入れる事に決めた。
こうして、1週間の休暇が終わる前日の夜、
沙希は変わらず高校のパソコン教室でソフトをつくっていた。
相変わらず仕事人間だ。その沙希を呼び出したのがまゆみ社長・・・。
レストランに入っていくと、まゆみ社長、順子、律子、吉こと吉備洋子、
瑞穂と杏奈という早乙女薫事務所の女性達と
薫、圧絵、ひづるの女優陣、そしてどういうわけか静香が加わっていた。
「沙希・・・いえ、あきあ、そこに座って」
と薫の横の椅子を示した。
「ごめんね、沙希ちゃん。仕事の邪魔をして」
うまく沙希とあきあを使い分けているまゆみがいう。
まずは沙希として本来のソフト開発をしていたのを中断させたわびを言った。
「いいえ、そんなこと・・・・でも、どうしたのですか?みんな揃って・・・」
と聞く沙希に
「これで全員が揃ったから、早乙女薫事務所のこれからのスケジュールを伝えます。
まずは全員で貞子お婆様を送りがてら京都の撮影所へ向かうというスケジュールが
全面的に変更になりました」
女優達全員が『えっ?』という顔でまゆみ社長をみる。
「ごめんなさい。でも今日になって小野監督から電話が入って、
小野監督の友人であるジョージ・ルーク監督が来日されたの。
それというのも義理の弟さんにあたるスコット・アルダという人から
あのテレビの録画を見せられて、日野あきあという存在に俄然興味を持ったらしいの。
それからあきあの情報を集めてから、急ぎ昨日来日されたのよ。
以前から知人であった小野監督があきあを主演にして映画を製作したことも
情報として得ていたのね。だから来日してから小野監督に連絡したのよ」
「スコットさんって・・・あの人ね」
というあきあに
「そう、あのNASAの研究員の人よ」
という静香。
「ジョージ・ルーク監督は、来日した時アメリカのいろんな映画関係者も連れて来たの。
日本の巨匠が久々に撮る映画ということで来日した人もかなりいるらしいけれど。
小野監督も京都での編集作業も終わっていたので急きょ日にちを変更して
明日映画の試写会を開く事になったのよ。
ルーク監督があきあ達に会いたいということもあるけれど
芸能記者や映画の評論家達、そして選ばれた一般の人たちが見にくるので
舞台挨拶をしなければならないことになったの」
と一気にまくしたてるように言った。
「試写会はどこでするの?」
と薫が聞く。
「新宿ミラノ座よ」
「ミラノ座?・・・だって、そこは1288席もあるのよ」
「たった1日ぐらいで席は埋まるとは思えないけど」
「そうね。それにアメリカからの映画関係者に空席は見せられないし・・・」
「ふふふ、心配いらないわ。昨日急いでテレビで試写会のことを放送したらしいわ。
その間約5分、あっという間に席が埋まってしまったそうよ」
「凄い!」
と嬉しそうにはしゃぐひづる。
「でもなんだかドキドキするわ」
とあきあ。
「何言ってるのよ。銀行強盗相手に何も動じないあきあが何をいまさら」
と誰も相手にしない。
「そうだ、あきあ。あなた今東京が・・・いえ日本中どうなっているか知ってる?」
「えっ?」
「般若童子様のキャラクター人形が大流行だし、賞金も出てるわよ。
『般若童子は誰なのかか見つけた人に賞金200万円』って」
「やだなあ、まるで賞金首だわ」
というあきあの言葉に皆『プッ』と噴出す。
「それと、もう一つ。あきあ主演の連続ドラマが決まったわ」
「連続ドラマ?」
「そうよ、テレビ局はVテレビよ。プロデューサーやスタッフも、
初めての人たちばかりだけれど脚本はあの谷さん。
だっていつもいつも同じ人達という訳にはいかないものね」
「私達は?」
「本当は武者修行のためにあきあだけのほうがいいんだけれどあまり知らない人達ばかりだと、
現場でトラブってしまうことを考えれば、
女優陣だけでも何もかも知っているほうがいいと思ったの」
「やった~~」
と聞いていた薫やひづるそして圧絵までもが嬉しそうに手を叩く。
「どんなドラマなんですか?」
とあきあだけが心配そうに聞く。
「そうねえ、一言で言えば『セーラー服美少女戦士』かな?」
「セーラー服美少女戦士?」
と声を合わせて叫ぶ女優達。
「そう、主人公はある女子高に通う高校2年生、星聖奈というの。
星家は代々女性が悪霊を退治する退魔師なの。
でも聖奈だけは鬼ッコだったのよ。
悪霊を退治する巫女としての能力がなかったけれど、でもあるきっかけによって力が目覚めたの。
その聖奈が学園生活の中でおこる不思議な事件を解決していくという設定なの。
普段は何の術も使えないけれどある呪文を唱える事によって変身するわけ。
変身後にあきあをそのまま使うといろんな支障が出るでしょ。
だから、変身後は天城ひづる。あなたが天聖ルナとなるのよ」
「ええ~~、やった~、やった~~」
と椅子から飛び降りて走り回る。
「こらっ!ひづる!やかましい!」
と怒る律子。ひづるの教育係だから遠慮なく叱る。
「は~い」
と謝るひづる。でも表情は満面の笑顔だ。
「それで、私は?」
「薫は学校の教師。聖奈の担任だけどその体質からか悪霊や怨霊の的になるの。
だからいつも危機に陥るけれど天聖ルナに助けられるのよ。
でもいつもいつも天聖ルナが強いとは限らない。弱点があるのよ。
聖奈の時はなんでもないけれど天聖ルナに変身するとたちまち弱点となるわけ」
「その弱点って?」
「まだ、判らないわ。今、谷さんが頭をしぼっているところよ。
・・・・それでルナがあわやっていうところで薫扮する江口京香の身体から
ある力が放射されるけれど本人は全く気づいていないってところかな」
「ふ~ん、面白いじゃない。でもこのドラマ下手をすると
お子様向け番組になってしまうわよ」
「そのためにあきあの力が必要なのよ。
だって下手な特撮とかCGなんてその感たるものでしょ。
だから谷さんは本物が欲しいって言ってるのよ。
脚本は谷さんが書いているけど、小野監督もかなりアドバイスをしているわ」
「私は・・・私の役は?」
「圧絵さんは聖奈の祖母の役よ。聖奈の両親は飛行機事故で死亡し祖母の手で育てられているの。
喫茶店『スター』・・・安直な名前だけど、それが星春江の自宅兼店となるの。
ガラッパチで男まさりのお婆ちゃん。それが圧絵さんよ」
「へえ、中々面白そうね」
「あとは女子高でしょ。廃校となった学校の校舎を使うらしいけれど
友達役や先生役・・・かなりの俳優やアイドルも出るみたいよ」
「なんだか楽しそうね」
と沙希。
「小野監督ったら、そんな俳優やアイドル達まで明日の試写会に呼んでいるのよ。
あきあを知ってもらうためだって。勿論プロデューサーやスタッフ達もよ」
「何か、大変なことになりそうな予感・・・」
という順子に相槌をうつマネージャー達。
★
名残惜しそうにバスの窓から手を振る貞子他、京都に帰る女達。
無論、運転手は里の女性だ。
澪や看護士達も一緒に帰るのでにぎやかなバスの中、
でもいづれも沙希達の見送りに涙を浮かべている。
バスを小さくなるまで見送った沙希達、でも自分達もゆっくりは出来ない。
まゆみや順子の車に分乗して女優やマネージャーは新宿ミラノ座に向かう。
飛鳥叔母やママ達に見送られるが、今夜にはみんな東京に帰っている。
交通渋滞に巻き込まれ、ミラノ座についたのはギリギリ5分前。
慌てて劇場に入るとすでに車の中で着替えやメイクを終えていた女優達を見て
ほっとする支配人や劇場関係者。
女性に案内され場内に入るあきあ達・・・でも目の前の光景には足を止めてしまう。
壁のようになっている立ち見の客の後ろ姿に驚いたからである。
ドアが開くのを知って振向いた客の一部から
「あっ!日野あきあだ!」
「早乙女薫だよ」
という声でそれが波のように周囲に広がっていく。
早乙女事務所のマネージャー達が女優達をガードし、
立ち見客を掻き分けて、やっとスクリーンが見える位置まできた。
「お~い!」
と前の方の席から一人の背の高い男性が立って手を振っている。
小野監督だった。
皆に注視される中、あきあ達は小野監督の横に用意された席に落ち着く。
「後で他の方は紹介するが、ジョージ・ルーク監督を先に紹介しておくよ」
とあきあ達に紹介の労をとる。あきあの初対面の挨拶を聞いて
「おう、ミスあきあ。あなたの英語は完璧だ。ハリウッドにきてもそのまま充分に働けるよ」
というルーク監督の厚い手があきあの手を固く握る。
「では、ただいまより『妖・平安京 雪の章』の上映を開始します。
なお上映後、出演されている俳優の方々の舞台挨拶がございます」
と司会者からの言葉が終わると後ろに控えていた女性が同じ事を
英語で伝える。かなりの人数が目に付くアメリカからの客のためだ。
こうして映画が始まった。
遠い宇宙、無限大に広がる星々。
一気に突きっきるように宇宙空間の中を移動していく。
目の前の小さな星。しかし、その青く光るこの星の美しさは宇宙広しといえど皆無といえる。
静かに回るその星・・・地球。
その青い地球に落ちていくように大地に近付く。
そこは東洋の小さな島国、その中心。
碁盤の目のような都市、名づけて平安京。
今度は平安京を眼下にゆっくりと周囲を回り出す。
北の玄武・・大きな甲羅の亀が首を伸ばし相手に噛み付くような姿。
闇の中の平安京に白く輝くその姿が現われ消える。
東では青龍がとぐろを巻き叫び、南では孔雀が羽を広げて威嚇する。
そして西では白い虎が吼えているのだ。
平安京を回り続け、それが丸く光る月になり、・・・・・・
そして、手入れがしていないある屋敷の廊下からその月を見上げる少女の姿と景色がかわった。
まるで庭から虫の音が聞こえてきそうな情景である。
少女は男のような狩衣姿でその懐から横笛を取り出し吹きだした。
この荒れ果てた庭に流れる笛の音に小さな蛍の光が踊っている。
後ろで一人の男が酒を飲みながら笛の音を聞いているのだ。
男の名は時の帝につかえる陰陽師安倍晴明、少女は弟子の安倍あきあ。
こうして物語がはじまった。
泰然自若としている安倍晴明にも朝廷内の貴族達の確執はどうにもならぬ。
他の陰陽師との術比べ、京にはびこる怨霊、鬼との戦い。
映画は進んでいく。あきあの陰の気から生まれた弟のあきあ、
姉にとってかわろうと卑劣な策略が渦巻く。
そしてあのロケでの戦いとなった。
「キャア」
と叫ぶ観客達、その迫力には映画関係者も目を丸くしている。
一度ロケのフィルムを見ているあきあ達にしても
こうして編集され効果音と音楽で彩られたフィルムを見ると一層迫力を増した映像に驚きを隠せない。
そして雪の章のクライマックスとなるあきあと雪夜叉との戦いは
最後に親子の哀しい別れと場面が変わる。
瑞光とともに天に上っていく母の姿に娘の叫びが重なり観客達の嗚咽は館内に広がっていく。
上映が終わり一瞬静まりかえった館内が
ジョージ・ルーク監督が一人立ち上がって拍手をすることにより、
スタンディング・オべレーションが始まってしまった。
観客達の盛大な拍手が館内を興奮の坩堝に押し上げていく。
「あきあ、立ってお辞儀をするのよ」
という薫のささやきに慌てて立ち上がるあきあ、
あきあにならって出演者全員が立ち上がり360°順番にお辞儀をくりかえす。
「キャアー、素敵!」
という女性達に負けない男性の声援、そして
「ブラボー」
という外人の声も聞こえ、さすがのあきあも上気した頬が真っ赤に染まっている。
そして司会者に呼ばれ舞台に上がる出演者や映画関係者、
小野監督の次にマイクを向けられ、最初の一言をいうのにはさすがに緊張していたが
場内にいる律子や瑞穂達の笑顔に励まされ、スムースに挨拶を終えた。
アメリカからの客にも見事な英語のスピーチで締めくくったのには
芸能記者達も驚きは隠せなかった。
日野あきあにはやはり目が離せない。それが今日の記者達の印象である。
早乙女事務所のマネージャー達が注目していたのは、
これからあきあとともにドラマに出演する俳優達とスタッフ達だ。
何故かキツイ目であきあを睨みつけるアイドルや他の観客と同じく興奮する出演者や
スタッフ達、冷静だったのはプロデューサーと演出家だ。
でも冷静だというのは外見だけで、硬く握った両手が震えていたのを見て取った、
まゆみ社長はニンマリと笑うのだった。
試写会が終わり、近くのホテルの宴会場で開いたパーティの中であきあは困り果てていた。
ジョージ・ルーク監督にハリウッドで昔から暖めていた作品に出てくれと懇願されていたのだ。
今のところスケジュールの空きはない。
女優業のほかにソフトの開発もあるのだ。アメリカに行って作品を取る余裕はない。
そういうと、スケジュールがあくまで待っていると押し切られ、
まゆみ社長と相談の結果、来年の夏ということでOKをした。それでもルーク監督は大喜びだ。
まゆみ社長があきあの連続テレビドラマの出演のことをいうと
「オ~」
といって自分のマネージャーと何事か相談していたが、
その撮影はいつからかと聞いてくる。1週間後だというと
「OK、そのころには又、日本に来ます」
とあきあにすっかり惚れ込んでしまったらしい。
「薫姉さん、困ったわ」
「いいじゃないの。身内からハリウッド女優が出るのよ。しっかり演技・・・
というより映画作りのお手伝いしてらっしゃい」
という。どうせあきあが映画撮影にすべてからむのだと信じて疑わない。
「いいなあ、あきあ姉さん。わたしも一緒に行きたいわ。付き人でいいから連れて行って」
というひづるに
「そうねえ、今から見聞を広げるのもいいかも・・・でも律姉の許可を得てからよ」
うわ~い、やったあ~と走り回るひづる。
「あ~あ、あきあもひづるに弱いんだから」
という順子に
「だって、律姉も瑞姉もどうせ私についてくるでしょ。
家庭教師の律姉がいなかったら、ひづるちゃんどうしようもないもの」
と笑っていう。
「お~い!あきあくん」
と呼ぶ小野監督。
「ルークに説き伏せられたらしいね」
「ええ、でも来年のことですよ」
「ああ、でもそれが終わったらこちらで第二章が待っているからね」
「もう決まったんですか?」
「今日の客の反応を見れば判るじゃないか。まあ楽しみに待っているからね。
あっと、そうそう。お~い、景山!」
と呼び寄せたのはテレビドラマの演出家だった。
「あきあくん、こいつとは同じ釜の飯を食った仲間なんだ。
今度の連ドラが決まったとき、俺に日野あきあとはどんな女優なんだと聞くから
その目でみれば良くわかるよ・・と言っといたよ。
君の秘密は直接目で見る必要があるからね」
と笑う。
演出家・景山三郎は
「秘密?ってなんだ?」
「いいから、いいから、直ぐわかるって。なにしろ日野あきあが行くところ事件だらけだからなあ」
「事件?」
なんだそれはと一層不審な表情になる。
「監督!」
とあきあが睨むと
「あっ悪い悪い。事件があきあくんを追い回すんだっけ」
「監督。同じことですよう」
あきあは仕方がないとあきらめているのに小野監督が追い込んでいるのだ。
パーティも終盤を向かえて一人帰り二人帰り、アメリカ人もルーク監督だけになり
今度ドラマをやる共演者達も少なくなったころ、
「キャア」
という叫び声が・・・あのあきあを睨みつけていたアイドルが窓の外を指差し叫んでいるのだ。
道を隔てた隣のビルの屋上、女性らしき人影がフェンスをよじ登っている。
自殺をしようというのか
「すぐに警察だ」
という声でばたばたと駆け出す足音、
しかし、あきあは素早く九字を切る。
「『臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前』」
そんなあきあの姿を驚きの目で見るテレビの関係者。
「あきあくん、これ!」
といって小野監督に渡されたものは布に包まれたあるもの。
開けてみると般若面。
「あっ!」
という声であきあと般若面を見る、まだ何も知らないテレビのスタッフ達、
「あきあくんの行くところ事件ありってね。準備していて正解だね」
「あきあちゃん、がんばって!」
「あきあ姉さん、あの人を助けてあげて」
という姉や妹達にうなずくと
呪文をかけてドレスから般若童子の衣装にいれかえる。
「あっ!」
と再び叫び声が・・・・。
横でルーク監督が呆然と見詰める中、面を被ると
「薫姉さん、小野監督。後をお願いします」
といって窓から飛び出していった。
「日野あきあが『般若童子』?」
呆然とする景山、そしてスタッフ達。ルーク監督は何が何やらわかりかねている。
「そうだよ。我々が京都で撮影しているときにおこった事件は全てあの日野あきあが
解決したんだよ」
「では、映画の特撮は?」
「全て本物さ」
「テレビも?」
「そうだよ」
ルーク監督に通訳が興奮しながらも説明しているので段々と飲み込めてくる。
あの若い女優は普通の女優ではないのか。先ほど見た映画の内容が頭の中に浮かびあがってきた。
ホテルでみんなが鈴なりのように窓から眺めている中、
ようやく地上で気がついた人がいて大騒ぎになっている。
パトカーもきたし救急車も到着したが高層のビルなので手の施しようがない。
ビルの女性は何の躊躇もなしに飛び降りてしまった。
高層ビルとはいえ数十秒で地面に激突する・・・と思ったら女性の身体が急に
スピードを落としてついには4階あたりで宙に浮いている。
それを見上げて呆然とする野次馬や駆けつけた警官や救急隊員。
その時
「あっ、あれ・・・あれ・・・」
と空に向かって指差す野次馬。
そこには手を広げて足から降りてくる・・・・あっ、あれは・・
「般若童子だ!」
と再び大騒ぎになった。
ホテルの中ではスタッフが持っていたビデオカメラで撮影している。
初めて見るものにとって驚きで言葉がでない。
でも良く知るものにとってはもう慣れたものである。
「あきあ姉さん。こんどはどんな記者会見をするのかなあ」
とひづるなどは楽しみでわくわくしている。
般若童子は4階で浮く女性を抱きかかえるとゆっくりと地上に降りてくる。
その頃にはパトカーも10台以上に増え、報道陣も待ち構えている。
地上に降り立った般若童子に対して睨みつけるように怒鳴ったのは当の女性。
「どうして・・・どうして・・助けたのよう。死んで楽になりたかったのに!」
「馬鹿者!」
と怒鳴る般若童子。
「無知たるもの、恐るべきかな。・・・お主は知らんらしいな。
自ら死を選んだ者の行く末は無限地獄ということを」
「無限地獄?」
「そうだ、地獄で無限に続く苦しみと痛み。
首を切られ腹を裂かれても何度でも地獄で生き返るのじゃ。
それが無限に続くのが無限地獄じゃ。
楽になるために死を選ぶとは愚かな行為であり、無知なだけじゃ。
それでも死にたかったら、一人どこかで朽ちるがよい。他の人間に迷惑をかけるな」
突き放した言い方には、女性は言い返せずにブルブルと震えているだけだ。
般若童子が頷くと救急隊員と警官が女性を連れて行く。
「さ・・・いえ、般若童子殿。本日は本当にご苦労さまでした」
というのはお馴染みになった間警視。
頷くだけで去ろうとした般若童子だが報道陣に取り囲まれてしまった。
(これこれ・・・)とわくわくする間警視。
どんな受け答えをするのかそばでじっと聞き耳をたてる。
「般若童子、今日は逃がしませんよ。きっちりと答えてください」
「何を答えよと申すのじゃ」
「あなたの正体、それにこんな都合よく現れたのはなぜなのか」
「我正体は神のみぞ知る・・・じゃ。それに我がここに来たのは散歩じゃ」
「散歩?」
『プッ』と噴出す間警視。
「そうじゃ、妹にまだ食事はできぬ、それに腹一杯に食べたかったら散歩をしろといわれてのう
妹に腹を立てられたら我は食事ができぬ。
我はその方面はからっきしじゃから。だから散歩に出たのじゃ。
するとどうであろう、地上は何やら大騒ぎでのう。
我もそのう・・野次・・・えっ?野次喜多・・・違うのう・・野次牛?」
「それをいうなら野次馬でしょう」
「そうそう・・・それじゃ。どうも我は寺子屋での書の点数は低うていかんかった」
と報道陣の質問をかわす。
こっそりと紛れ込んでいたのは小野監督にいわれて録音しているスタッフだ。
それを知ってか知らずか
「どうもいかん・・・」
「えっ?どうしたんですか?」
「ほれこのとおり、腹が減りすぎて体が浮き上がってしまう」
と身体が浮き上がっていく。
「あっ」
と捕まえる暇もなく3mも宙に浮いている。
「じゃあ、諸君、我は食事にかえるとしよう。さらばじゃ」
といって飛び上がってしまい、フッと消えるのはいつものことだ。
人の目を逃れてやっとホテルのパーティ会場にあきあが戻ったのはそれから10分後だった。
何やら楽しそうに皆が笑っている。
「どうしたの?」
「ああ、あきあ。お帰り」
というまゆみ社長も涙をためて笑っている。
「どうしたのよう」
と少しすねたようにいうと
「だって、あんたと記者連中の会話っていつも面白いんだもの」
「あっ!」
「わしがスタッフにたのんで録音してもらったのさ」
「そんなに面白い?」
と逆に周囲の皆に聞くあきあ。
頷くのはあのアイドルも一緒だ。
「やっぱり身内だなあ。この記者会見のやり方って薫君にそっくりだ。
人を食ってその上ユーモアがある」
「至らない姉のがうつってしまったのでしょう」
というあきあの後頭部に『ボコッ』という拳骨での一発!
「痛あ~い!・・・薫姉さん、何をするの!」
「この石頭!見てよ。こんなに手が腫れちゃったわよ」
「はいはい、姉妹漫才はそこまで」
ニヤニヤするのは二人を良く知っている映画関係者。
初めて見るテレビ関係者はそんな二人をあっけに取られてみている。
それに早乙女薫に妹なんていたっけ?
「ああ、それはね。お姉さんって言わないと仕事中でも全力で笑わすって
言われているから・・・本当はあきあ姉さんにとって叔母さんなんだって」
と正直にいうひづる。
「こら!ひづる。何を正直に答えてるのよ」
と今度はひづるを追い回す。
その時、ドアがノックされ入ってきたのが飛鳥日和子警視正に飛鳥京警部、
飛鳥泉警部、そして有佐ケイ巡査と犬飼洋子刑事もいる。そして松島奈緒警視も。
「これ、薫!何をしているの!」
と叱られシュンとなったが
「京!、泉!薫姉さん怖かったよう」
といって京と泉に
「誰が京じゃ」
「誰が泉じゃ」
といって頬を捻られているひづるを見て少し溜飲を下げた薫だった。
この闖入者を見て俄然おとなしくなった早乙女薫の様子に驚いているテレビ関係者。
小野監督が親しそうに挨拶をしてから、まゆみが皆に紹介をする。
全員が警察関係者ということに驚くし、全員があきあの血縁ということに
改めてびっくりしたというのが本音だ。
「沙希ちゃん。又やったんだって?」
「あっ、間さんに聞いたのね」
「沙希ちゃん、警視総監がよろしくって」
「長谷部の叔父様が?」
「ええ、市民の命を救ってくれてありがとうって」
あきあは警視総監とも顔なじみなのか・・・つくづく凄い少女だと思ってしまう。
「それでね、沙希ちゃん」
と日和子が少し声をおとして
「あなたに会いたがっている人がいるの」
「わたしに?」
「さあ、入ってらっしゃい」
そう言われておずおずと入ってきたのはさっき助けた女性だった。
「あのう・・・」
と周囲を見渡す女性。
「この人何も話してくれないのよ。名前さえも・・・」
「でもやっと般若童子には話すといってくれたの」
「般若童子様は?」
「この子がその正体よ」
「えっ?でもこの人は・・・・」
「叔母様、いいわよ。わたしが話してみる。さあここに腰をかけて」
と椅子をすすめて女性が座ると自分も対面に椅子を用意して座る。
みんなもどうなるかと興味深かげに周りを囲むのだ。
あきあはその女性を一瞬みてから、
「司ゆりあさん。いい名前だわ」
という。
「えっ!」
と飛び上がる女性・・・ゆりあ。
「今は無職の22歳ね。彼氏はなし。う~ん、お姉さんが亡くなって3ヶ月・・・ですね。
ゆりあさんは大好きだったお姉さんがどうして亡くなったのかを調べていたのね」
と優しくいう。
「調査もうまくいかないし、そのため仕事をやめざるを得なかった。
生活費も無くなり何もかも嫌になって死のうとした。そうでしょ」
驚きのあまり目を大きく開けて・・・ただコクンと頷くだけだ。
「どうだ、景山」
「凄い!凄すぎる・・・何故だろう彼女から目がはなせない」
小野監督と演出家・景山三郎の会話だ。
景山はもう夢中であきあのことを見逃すまいと必死で見詰めている。
ルーク監督もそうだ。通訳を介しながらも一心にあきあを見守る。
「ゆりあさん。あなたはそんな調査には向いてはいなかった。
とあきらめてはいかがですか?」
「いいえ」
といってゆりあは思い切り首をふった。
「しかたないですねえ。ではお姉さんに直接聞きなさい」
「えっ?」
「あなたのお姉さんに聞けばいいんですよ」
「どのようにして?」
「ほらそこに・・・」
とゆりあの背後を指差す。
慌てて立ち上がったゆりあ、周囲を見渡すが何も見えない、
脅しだと思い座りなおしあきあを睨みつけた。
「見えないでしょう。そうだわよね。・・・律姉!」
と呼ばれた律子。近くにある観葉植物の葉を一枚ちぎってあきあに渡す。
あきあはその葉にむかって呪文をかけてからゆりあに葉を渡し、
目をこすってごらんなさいとジェスチャーで教えた。
ゆりあは葉で目をこすり周囲を見回してから
「あっ」
と声をあげた。
「お姉さん」
抱きつきに行こうとするが魂と肉体とでは触れ合えないのだ。
一人がひらひらと舞い落ちた葉を拾い目をこすってからそばにいる者に葉をわたす。
いきなりガタガタと震えだすもの。写真をとろうとして構えるもの、
いろんな人がいてもおかしくはない。
さすがに小野監督・・映画関係者・・平然としているのは京都での経験のおかげか。
ゆりあの姉はさびしそうに立っていた。何か話そうとするが声が聞こえない。
これも菊奴のときと同じだ。あきあの呪文で声が聞こえるようになった。
「ごめんね・・・ごめんね・・・ゆりあ。お姉さんをゆるしてね。
とうとう、あなたをひとりぼっちにしてしまったわ。
あんなに思いつめて自殺しようだなんて・・とめられなかったお姉さんを許してね」
そういうとしょんぼりと肩を落としてしまう。
「祥子さんだわよね」
あきあがそう言うと
「はい、先ほどは妹を助けていただいてありがとうございます」
「祥子さん、あなたがどうして死んだのか教えてくれる?」
祥子はあきあの顔をじっとみてから話だした。
「私って本当に駄目な人間なんです。酔っ払ったあげく車に引かれて死ぬなんて」
「えっ?嘘!」
とゆりあが驚いたように叫ぶ。
「どうしたの?ゆりあ」
「だって姉さん!おかしいわよ。姉さんが死んだ原因は交通事故なんかじゃないもの」
「そんなことないわよ、私見たんだから。
車道の上で血の海の中にうつ伏せで死んでいる自分を見ていたんだから・・・」
「私はその後のことを言っているの」
「えっ?」
「どうもおかしいわね、祥子さん。あなたの意識の底に眠る記憶を読ませてくれる?」
「記憶を読む?・・・そんなこと出来るのですか?」
「ええ、じゃあいいわね」
とあきあは手をあげて
「オン・バザラ・アラタンノウ・オン・タラク・ソワカ」
と真言を唱える。
あきあはしばらくその形で目を閉じていた。・・・そして
「ふ~」
と息を吐き出してから目をあける。
「わかったわ、ゆりあさん。祥子さんが交通事故死だと思っていた訳が。
自分が死んだことを知ったショックから、祥子さんはあなたが今はめている
その指輪に魂を封じてしまったの・・・・いいえ、率直にいえば指輪に逃げ込んだのね。
その指輪から抜け出たのは今日、ゆりあさんがビルから飛び降りた瞬間よ。
飛び降りたゆりあさんのショックの波動を受けて指輪から飛び出したというのが真相よ」
「姉さん!」
「ごめんなさい!」
「ふふふ・・・笑っちゃいますよね。そういえば姉さんってドラマであっても
人が死ぬ場面は恐がって目を閉じていたっけ・・・・自分の遺体だものね。
どこかに逃げ込むって今から思えばわかることよね」
「ゆりあさん、そのお姉さんの気の弱さ、それが怨霊の餌食なってしまった原因なの」
「えっ!怨霊?」
「ひづるちゃん。ヤタさんを貸してくれる?」
「ヤタさんを?」
何に使うのっとも聞かず
「ヤタさん・・・ヤタさん・・・出てきて!」
というと
「カァー」
という泣き声で黒いカラスが突然あらわれた。
「なに?」
「なんなの?あれ!」
「カラスだよね」
若い女優達がザワザワと声をあげている。
彼女達の間にはさまれた飛龍高志が説明する。
なんでもよく知っている、ということでいつのまにか
飛龍高志のまわりに移動してきて解説をねだっているのだ。
「あれはあきあがつくった式神だよ」
「式神?」
「そうだよ。京都の結界が危なくなったとき、あきあが出した式神なんだ。
京都から熊野古道まで10分あまりで清い水を汲んでこさせるために生み出したそうなんだ」
「でも、どうして天城ひづるが?」
「ひづるはね、何故だか式神に好かれるらしいんだ。
だからあきあがひづるにヤタカラス・・つまりヤタさんを預けたんだよ。
ひづるは他に胡蝶という蝶の式神も身につけているんだ。胡蝶はあの安倍晴明に譲られたそうだよ」
「凄い!・・・何だか判らないけど日野あきあと共演できるって
こんなことも目撃できるんだわ・・凄い幸運!」
会った時つっけんどんな話し方で嫌な奴だなあと思っていたあのアイドル、
こんな短い間に可愛く変貌しているのだ。
やはり日野あきあは凄い!嫁さんが噂を聞き現場にきたがって仕方が無いのだ。
いつも駄目だと叱っているが、こんなのを見ると許してやろうかと思う飛龍高志だった。
「ヤタさん、お手伝いしてね」
というと、ちょこちょことあきあの元に歩いていって
その腕に頭をこすりつけている。まるで猫のようだ。
その様子が可愛いと女優陣に騒がれている。
あとで彼女達がヤタさんをつけ上がらせねば良いと思う律子だった。
あきあはヤタさんに向かって真言を唱える
「オン・アブラウンケン」
と3度唱えた。
とヤタさんの目から飛び出した映像が、空間に映し出される。
全員が息を呑んで見守る。
それはどこかの風景だった。
何故か映し出される情景がコツコツという足音と共にゆれている。
「これは、祥子さんが殺される何分か前からの記憶です。
魂に刻みこまれた記憶はご本人が記憶が無いと言われても実は無くなってはいないのです。
でも・・・・かなり酔っ払っているようですねえ」
その言葉に笑う全員、祥子は身を縮めていた。
実をいうとこの頃にはもう酔いのため全然記憶がなかったのだ。
「姉さんたら」
とゆりあも恥ずかしくて、姉の祥子を睨む。
どうやら、石段を上がっているようだ。
そして石段の上でその石段に倒れこむように腰をおとす。
すると如々に周囲の景色が白く濁ってきた。霧が出てきたのだ。
その時、後ろから
『カツカツ』という音がする。
振向きながら立ち上がって階段から中に入り祥子が見たものは
後方からの明るい光が霧をスクリーンにして影絵のようになったそれは・・・
足踏みし『カツカツ』という蹄の音をさせた馬の上には
折れた矢が2本その鎧につきさした姿の武者が乗っていたのだ。
そして、その顔は・・・・・・無い!・・・・馬に乗った首なしの鎧武者だ!
「キャア」
と悲鳴があがる。しかし、度胸のいいのも女優の条件、皆恐いものみたさに
顔でかくした両手の指の隙間からこの情景をみつめているのだ。
この祥子の記憶もかすみがかかってここでとぎれた。
「ここまでは祥子さんの記憶です。でもこれからは魂に刻まれた記憶です。
気の弱い方は見ないほうがいいでしょう」
とあきあが注意をするが、そういわれると見たくなるのが世の常。
みんなしっかりと目をあけているのだ。
「オン・アブラウンケン」
と再び真言を唱えるあきあ。
倒れている記憶だから馬からおりて見下ろす鎧武者。
すると首がないのに声が聞こえる。
「我は目覚めた。我の首の復活には力が足りぬ。
女!おぬしは我の贄じゃ。その温かい血潮を浴びようぞ」
といって首なし武者は片手で祥子の頭をつかみ吊り下げた。
「贄じゃ・・・贄じゃ・・・」
首がなくても、喜びの表情が伺えるその言葉!いきなり片手が踊り祥子の胸に・・・
「ギャッ!」
といって画面が揺れると赤い血が鎧に浴びせ掛けられた。
祥子の口からと開けられた胸から、おびただしい血しぶきが鎧を真赤に染めていく。
そして、鎧武者の手に祥子の心臓が・・・・ここで完全に画像が途切れた。
慌ててトイレに走るもの、胸をさするもの。
みんな一様にその異常な殺人に青い顔をしている。
平気だったのが警察関係の6名とあきあだけだ。
一番反応が激しかったのが当の本人、幽霊となっていた祥子だった。
逃げ出そうとしたために、あきあが祥子だけを結界で縛りつけた。
「これが、祥子さんの殺人劇の一部始終です。この場所はもう判る人がおられますよね」
「平将門の首塚」
と手をあげて言ったのは飛龍高志、彼もまた青い顔をしている。
「そうです。異常に気の弱い祥子さんは石段の中で失神したために殺されました。
本当は石段の外まで逃げれば助かったのです」
「それはどういうことですか?」
「あの石段を境にして結界が張られていました。
その力はもう弱くなっていましたが、目覚めたばかりの将門にとっては
その弱い結界でも有効だったのでしょう」
「あのう、姉はその首塚の前の通りの車道で亡くなっていました」
「それは、祥子さんが生贄となったため一時的に結界を越えたのでしょうが
祥子さんは能力者ではありません。
だから力はそんなに強くはならなく結界内に帰らざるをえなかったのでしょうね」
「能力者とは?」
「例えば幽霊を見るという霊能力者なんかもそうです。
そして恐山のいたこ等もそう言えるでしょうね」
「じゃあ、あきあさんも・・・・」
「そうです。だから・・・・・・」
はっと気づいたのは飛鳥警視正。
「沙希ちゃん!あなた自分を囮にしようというのじゃ」
みんなもビックリしてあきあをみなおす。
「だって、どう考えても私しかいませんもの。日和子叔母様」
「それはそうだけど」
「将門の怨霊の力がどこまで戻っているのか」
「ふ~、いくら警察でも相手が怨霊では無力だものね」
「ヤタさんありがとう。役にたったわ」
とひづるに返してから
「瑞穂さん、半紙を!」
瑞穂を呼び半紙を一枚受け取ったあきあ。
いつものように人形に切り、
呪文をとなえると烏帽子姿の安倍晴明が現れた。
でもそれはただの式だけだから、もう一つの呪を唱える。
すると身体が動き
「いつも人使いがあらいのう、あきあ」
と式に晴明の魂が宿ったのだ。
見ている者は皆、慣れっこというか感覚が麻痺してしまい、もう驚きの声はあげない。
「そうだろう、そうだろう」
と小野監督も納得げだ。
「晴明様、今の話を聞かれていたと思いますが」
「ああ、将門の怨霊か、しかし、懐かしい名前が出てきたものじゃのう」
「晴明様には、将門公の怨霊は?」
「一度だけじゃ。調伏しようとしたが、うまく逃げられたわ」
「このものに怨霊の贄になった記憶が」
「どうする?」
「人を一人殺めたは怨霊として力の復活の前触れ」
「そうだのう、しかし、将門の怨霊とは手強いぞ!」
「はい、でもやらねばなりませぬ。人を殺めて得たその力、
もう怨霊にとって止められることではありません。きっと贄はこの者だけではないと思います」
と言ってから
「京姉、泉姉!あの近くで同じような被害が出ていないかどうか調べてください」
「判った」
と飛び出す二人・・・に付いて行くケイと洋子。
なんだか凄いことになってきた。景山はスタッフに耳打ちし 撮影機材などを手配りする。
やるわいとほくそえむ小野監督。
「晴明様、すいませぬ。このものを天に連れて行ってください」
「あっ、姉さん」
というゆりあを押しとどめるジェスチャーで
「ゆりあちゃん、やっと成仏出来るの。姉さんこれでやっと天国にいけるのよ・・」
その言葉で姉を押しとどめる言葉を飲み込んだゆりあ。
「姉さん、天国でゆりあちゃんの幸せを祈ってるから」
「ナウマク・サマンダ・ボダナン・サンサク・ソワカ」
と阿弥陀如来の真言を唱えるあきあ。
晴明にかかえられた祥子の姿が光輝き・・・金色の小さな粒子となって
天に昇って行くのを皆自然と手を合わせて見送った。
ルーク監督もあの女性が安らかに天に召されていくのを知り祈っていた。
実際に魂の昇天を見たのは初めてで胸があつくなる光景であった。
そんなルーク監督に小野監督が
「ルーク、帰らなくてもいいのか?」
「馬鹿な!こんな情景を体験せずに帰ってしまうのは馬鹿だけだ。
わしはもう少しでその馬鹿になってしまうところだった」
と帰りの挨拶をしているところでこの事件に遭遇した自分の運の良さを
神に感謝するルーク監督。
「あきあと一緒にいたらこんなことばかりの連続だよ」
という小野監督の言葉に
「おう、エキサイティング!」
といってから羨ましそうな顔をする。
「よし、あきあくん。ここはもう時間だ。場所を変えよう」
という小野監督にドラマのプロデューサーが言う。
「うちのテレビ局に来ませんか。新しく建ったビルだし、大きな会議室もありますから」
「よし、そうしようか。あきあくんもいいね」
「ええ、これからお世話になるテレビ局ですから」
ルーク監督も通訳を介して
「私も行ってよろしいか」
と・・・結局全員が向かうことになった。
テレビの共演者はあのアイドルを含めあきあの級友となる女子高生役5人と
先生役の女性タレントが5人と男性が2名、その1名が飛龍高志である。
そしてテレビドラマのスタッフと映画関係者が20名・・・
結構な人数が移動することになる。皆、車に分乗してテレビ局に向かった。
あきあにかかわる人達はみんなこんな状態になり、あきあのそばを離れないのだ。
飛鳥日和子警視正と松島奈緒警視もパトカーでむかっている。
★★
テレビ局の大会議室に落ち着いた一同、
テレビ局の乾社長と主要な部門の責任者という上層部が揃っていた手回しの良さには感心する。
せっかくだからと先に帰ってしまっていたテレビドラマに出演する他のメンバーと
スタッフも呼び戻されていた。まるで連続ドラマの打ち合わせのような顔ぶれだ。
演出家の景山三郎とプロデューサーと紹介された山川が隣り合って座り会議を進行していく。
「今回、集まっていただいたのは大部分の人はご存知ですが
まだ知らない方のために説明します。ただしこれは極秘事項となります。
企業内の秘密であると共に日野あきあの個人の秘密となります」
そこで飛鳥日和子警視正がたちあがり、あきあのことは警視庁でも警察庁でも
部外秘となっている。これを破るものは誰であっても一生刑務所で
飼い殺しにするときつい口調で言い放った。
その時、松島警視の携帯が鳴り
「えっ?京なの?ちょっと音が割れてはっきり聞こえないわよ」
という声に
「申し訳ありません。このビルでの携帯の受信がうまくまだいっていないのです」
という乾社長。
「松島警視、大丈夫ですよ」
とあきあが言ってとりだしたのはモバイルだった。
スイッチを入れてその横から黒いアンテナようなものを直角に立てると
「飛鳥京警部聞こえますか?聞こえたらモバイル横の黒いアンテナを直角に立てて
F3を押してください」
しばらくすると
「沙希!・・・なんなのよ、これ!・・・こんなの聞いてないわよ」
「この間、改造しただけよ」
「だってここ、携帯の電波がうまく入らないビルの谷間なのよ。
それがこんなにはっきりと聞こえるなんて・・・」
「いえ、これは電波じゃあなくてニュートリノを使っているから」
「ニュートリノ?何?それ」
「まあいいわ、後で説明するから。それより、用事があったんでしょ」
「そう・・そう、なのよ。あの彼女と同じ亡くなり方をした人が
この3ヶ月で5人よ。それで聞き込みをしているの」
「泉警部は?」
「ああ、泉も聞き込みよ」
「じゃあ、お願いします」
「わかってるって、もう少し時間を頂戴!」
社長や技術部門の長が目を光らせてあきあの手元にあるモバイルを見つめている。
それがわかっているからあきあは
「これのことは後で説明しますので」
と機先を制してしまう。
「話を続けます」
と景山が話しだしたのは報道部門の部長が喉から手がでるほどの特ネタ、
『般若童子』が日野あきあだったことだ。何も知らないスタッフや
共演者達の驚いた顔。知っているものはなんだか得意げに胸を張っている。
助けた女性は今、飛鳥警視正と松島警視の間に挟まれ
下を向いて座っていると聞いて皆の視線がその女性に注がれる。
そして、この女性・・・司ゆりあと姉の祥子の幽霊との再会。
あきあが呼び出した師の安倍晴明・・・祥子を成仏させ、天に連れて行った話となると・・・
あの場にいなかった者にはあきれるほど陳腐な話となってしまう。
そして最後に祥子が殺されたのは・・・・首塚の平将門の怨霊だって?
もうなにおかいわんや・・・だ。
ただ席を立ってしまわないのは、あの場にいたという自分達が知る部下や同僚の真剣な表情からだ。
そんな話で人を騙すほど愚かな人間達ではない。
だが信じられない話・・・なのだ。実際自分の目で見なければわからない。
そんな顔をみせるテレビ局の上層部。これは仕方がないことだ。
こんなことスッと信じるほがどうかしている。
景山の話は続いている。
あの東都テレビがやった龍を助けるドラマ、二番煎じはイヤだが今回は内容が全然違う。
あの有名な怨霊・平将門を調伏するのだ。
セーラー戦士、天聖ルナとしてあきあには怨霊と戦ってもらう。
これは芝居ではなく本当の術者としての戦いなのだ。
だから、スタッフ達も腹をくくって中継をしてもらわなくてはならない。
勿論、女優達との芝居もいれる。司ゆりあをドラマ内のクラスメイトに当てはめて
その姉が怨霊の贄になったとするつもりだ。
急に天才子役天城ひづるが口をはさんだ。
「ねえ、あきあ姉さん、あきあ姉さんが怨霊と戦うとき私に変身するんでしょ。
だったら、今変身の服を着てきてもいい?」
これはあきあを信じられない人達にあきあの力を見せようとする
ひづるが子供なりに考えたことだ。その心を汲み取ったあきあは
「そうねえ、あのう。もう衣装は決まっているのでしょうか?」
とスタッフに聞くと何を言っているこの少女は・・・と顔をまじまじとみられたが
「ええ、一応は。でもまだ少し詰める必要がありますけど」
「それでいいわ。私に着せてちょうだい」
とひづるは衣装さんをひっぱって出ていく。
ひづるの変身はそんなに時間がかからなかった。
「まあ、可愛い」
薄いピンクの光沢のある生地はひづるの身体をピッタリ包む
短いスカートにスパッツ、ロングブーツに破魔の短剣が取り付けられ
背には長剣が背負われている。
「これが普通の姿から変身するパーツの独鈷です」
「わかりました。ひづるちゃんもう一度良く見せてくれる?」
「ええ」
この二人は一体何をしようというのか・・・不審げなスタッフ達
「じゃあ、いくわよ。『臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前』・・・変身!・・・天聖ルナ!」
と両手で持つ独鈷を胸の前で構えて言うとあきあの身体が1mほど浮かび上がる。
「おお~」
という声でテレビスタッフが立ち上がった。
こんなのを特撮でと考えていたのが目の前で日野あきあが実際にやっているのだ。
「本物だあ」
と感動するスタッフ・・・身を乗り出して見つめている。
あきあの身体から着ている服が離れて、
細い布に変わりあきあの裸体の周りを回っている。
そしてその布が光沢のピンクに変わり、あきあの身体に張り付きだすと
あきあの身体が変化していくのだ。体が縮まり顔も髪も変わっていく。
そして・・・
「天聖ルナ!」
といって両手をあげ上で交差させると胸の位置にそのまま下ろし両手をクロスさせたまま
「参上!」
という。独鈷が破魔の短剣に変わっている。
「凄い!本物だわ」
と共演するアイドル、岩佐メグが目を輝かして立っていた。
あきあに嫉妬していたが、あきあのケタ違いの能力と才能を
自分と比較しようとした愚かさにはもう笑い出したくなる。
今では誰にも負けないあきあファン・・・いや『あきあフリーク』だ。
テレビ局の上層部も立ち上がって口をあんぐりあけている。
平気なのは小野監督と飛龍高志と映画関係者。
そして勿論、早瀬の女達だ。ひづる等は喜び手を叩いて飛び回っている。
ルーク監督も通訳の女性も固まったままだ。
景山も言葉にならない。身体が震えているのだ。
その景山の肩に『ポン』と手を置いたのは小野監督。
「どうだ、景山」
「情けないですよ、小野さん。大の男がこんなに震えている」
「わし達も最初はそうだったよ。でも段々と慣れていった。
いや、あきあに慣らされていったと言うほうがいい。
みたまえ、映画関係者は平然としている。あのドラマでの東都テレビのスタッフにしてもそうだ」
「でもこんなのテレビ局の大勢のスタッフには伝えられませんね」
「そうだよ。ブンヤさんにもあきあ番の記者がいるがテレビ局のスタッフも同じことだよ。
東都の大川社長はあきあの番組にはあきあ番として慣れたスタッフしか使わない。
この局でも同じことをして欲しいねえ」
という小野監督に乾社長が
「大川君の言っていることがようやく判ったよ。
日野あきあの力を表に出してはいけないということが」
「そうです。あきあくんの術のことは丸秘なんです。
だから我々は直接、術といわずに『例の』と言う言葉を使い、
あきあくんが術を使う場合は現場を結界でおおって誰も近づけなくしていました。
「結界?」
「はい、あきあくん。一度この部屋を結界で覆ってくれないか。
そこのドアをあけたままでね」
「判りました。・・・・・・北の玄武、東の青龍、南の朱雀、西の白虎、これ四神相応の陣なり」
といって地を手で突くと空間がゆれる。
「誰かそこを出て行って見たまえ」
というとスタッフの一人が開いていたドアから出ようとすると
はね変え返されたのだ。
そこを通りかかった局員が部屋を覗くが首を捻って歩き去る。
「じゃあ、あきあくん」
といわれて結界をとく。
さっそくあのスタッフが出口から出ても何もない。
するとさっきの局員が戻ってきた。
「あれえ、この部屋誰もいなかったのに」
という。
「小野監督!わかった。我々もそれに準じることにする。
景山くん!スタッフは固定だ。ここにいるスタッフともう少し必要なら
都合をつける。この局であきあくんを使う時は全てこのスタッフを使うんだ。
共演者だがなるべくゲストは使うな。この中のもので順番にドラマを作っていけばいい。
彼女がいる限り全て本物なのだからな」
「はい」
「景山、ゲストがいるなら映画で共演した俳優を使うといいよ。
かれらなら喜んで、いや仕事をキャンセルしてもゲストにくるから・・・なあ飛龍くん」
「やだなあ、監督。それって本当、胸に突き刺さる痛い言葉ですよ」
「ふふふ・・・あきあくんとの現場を離れるのはいやだって
入っていた仕事を全てキャンセルしたのは誰だっけなあ」
「仕方ないじゃないですか、あきあくんと現場にいるともうわくわくドキドキですからね。
他の仕事だなんて・・・・だから、マネージャーに調べさせてあきあくんと同じ番組に・・・」
「やっぱり」
というまゆみ社長。
「ねえ、小野さん。この最初となる特別番組のメガホンをとってくれませんか?」
「わしが?」
「ええ、小野さんなら慣れているでしょ。私はサブに回りますから。いいですね。社長!」
「おお、そうしていただければ」
という乾社長。
「わかった。では最初の1本だけな。ところでルーク、君はどうする。
仕事でアメリカに帰るんじゃないのか」
「おう、そんな仕事くそくらえだ。わしも仲間に入れてくれ」
「凄い!凄い!世界で名だたる監督が・・・」
それにしてもこの二人の有名監督を夢中にさせるこの少女、
その能力は言葉に言い尽くせない。
「じゃあ、ルークは現場の指揮をしてくれ。
『ステーション』に乗ってな。まゆみ社長。瑞穂くんを又かしてくれるね」
「いいですわ、ねえ瑞穂」
頷く瑞穂。
「ステーションって?」
「ああ、カメラマンが乗り込む機械だよ。宙を飛んだり異空間に入ったり、
自由自在ですよ。あのドラマでも使っていました。
あきあくんしか動かせないけれどね」
「ステーション?そんなものがあったんですか?」
「ああ、みんなあきあくんが発明したものだから。カメラマンは12人。
景山、人選を頼む」
「景山さん、元に戻っていいですか?」
「ああ」
と言う声で
「『前!』」
という言葉であっという間に元の姿に戻ったあきあ。
スタッフや共演者から盛り上がるこの番組、いったいどうなるのか。
「すいません!あきあさん。さっきの変身シーンを収録してもいいですか?」
「ええ!」
と言う返事に
「しめた!・・・部長、今開いているスタジオは?」
「Bだ・・・だが、他の奴等にわからんようにな」
「じゃあ、準備をしてきますから・・・おい!行こう」
とスタッフが5人飛び出して行く。
スタッフから出てくるこの熱気に脚本家の谷は
「よし、何パターンか撮ってくれ。岩佐メグくん、君はあきあくんの変身を知るたった一人の親だ。
その君の前で初めて変身するシーン・・・そして、他の女子生徒達も目の前で変身されるが
後で記憶を消されるシーンもだよ。薫さん、ひづるくん君達も一緒にね」
急にドラマ制作に拍車がかかってしまう。
スタッフ達がみんなで集まって相談しているのを見て、いったいどうなるのか、
自分だけほっとかれたような心境になる司ゆりあ。
そんなゆりあの肩にまゆみ社長が手を置き
「ゆりあさん、あなた今無職だと言ってたわね」
「はい」
「あなたの特技は?」
「いえ・・・ただ、商社に勤めていましたからパソコンと英語、フランス語、中国語を少し・・・」
「凄いじゃない。・・・私、こういうものだけどあなた、うちにこない?」
名刺を渡してこういうのだ。
「えっ?早乙女薫事務所・・・の社長さんなのですか・・・」
目を輝かすゆりあ。・・・でも
「私のようなものでも・・・」
「何、言ってるの。しっかりしなさい」
と背中を『バン』と叩かれる。
「実をいうとね、人手が足りなくて困ってるの。
あのあきあが次々と発明してくれるから、もう四苦八苦よ。
ねえ、あきあ・・・さっきの装置のこと何も聞いてないわよ」
共演者に囲まれていたあきあは
「まだ、誰にも言ってないわよ。まゆみ社長」
「じゃあ、専務にも?」
頷くあきあにしかたがないなあというようにため息をつく。
「あんた、あの発明がどんな凄い事かわかってるの?」
「凄い事?・・・だってパッと浮かんだだけだから」
「あ~あ、これだから・・・そのモバイルを見つめている乾社長に聞いてみなさい。
自分がどんな発明をしたのか。ねえ日和子叔母様」
「そうですよ、そんな装置がモバイルについているのだったら、注文する数量がもっと増えるわよ」
「その通りだ。今NASAの義弟に電話したら、もう一度来日するといっている。
自分の目で確かめて3000台の注文を10000台以上に変更するかもしれないといっていたよ」
「ほらね、あの子の発明にはもう右往左往なの。手伝ってくれる?」
「私でよかったら・・・」
「よし、決定!・・・瑞穂ちゃん、こっちへ来て」
瑞穂を紹介すると
「今日からしばらく彼女についていてほしいわ」
「はい」
モバイルは社長の手で分析するように技術部長となにやら相談した上、
役員を集めて何事か話し込んでいるのだ。事件のことは京の調査待ちとなっている。
「あきあくん、この装置について聞かせてくれないか」
「えっ?・・・はい」
と社長達役員の中にまねかれる。
そんな様子を見つめている共演者達。
なんだかわくわくしているのだ。
「ねえ、飛龍さん。映画の現場でもこんな状態だったんですか?」
「ああそうだよ。あきあの演技は天才早乙女薫が公言しているぐらいの天才なんだけど、
あきあのあの不思議な術は現場を凄い状態にしてしまうんだ。
京都ではいろんな事件があってね。それを手伝うのが又楽しいんだ。
事件屋・・・そう、僕らは彼女のことをそう呼んでいたんだよ。
今日も事件屋の本領発揮だねえ、さっそく大忙しだ。
この現場、もっといろんなことがあるよ。今から楽しみだねえ」
と笑っている。
「あきあ、どうしたの?」
携帯を手にとっているあきあにまゆみ社長が聞く。
「ええ、乾社長がうちの専務を呼んでくれって」
「あ、・・・静香専務ですか、私・・・沙希です。・・・ええ、ごめん。又やっちゃった・・・」
とペロっと舌を出す。みんなそんなあきあを見つめている。
「うん、それでね。Vテレビの乾社長が至急来てほしいって。
・・・・あっ・・・ごめん。・・・・モバイルに新しい機能をつけちゃったから。
えっ、そんなあ。お願いちょっと来て・・城田さんも連れて。
・・・・ええ、ごめんなさい。ええ・・・・じゃあ、式を飛ばすから・・・」
といって携帯を切る。
「新しい機能のこと黙ってたの、怒られちゃった」
といって両手のひらを胸の前に差し出して
「我式神、玉藻、葛葉、紅葉、出でよ」
というとあきあの身体から光る珠が3っつ飛び出してきて
着物姿の女性が3人あきあの前に出現した。
「あるじ殿、まかり出ました」
「玉藻、葛葉、紅葉いそいで我姉静香、そして城田老を連れてきてほしい」
「はっ」
というと再び光る珠になって窓を通り抜けて消えた。
「何?・・・なんなのあれ・・・」
「ああ、あれはあきあの式神さ」
「式神?」
「ああ、なんでもあきあの師である安倍晴明に譲られたそうだよ」
「ふ~~、何か頭の中が変!」
「そうだろうな、俺はもう慣れているけど。今日1日で君達はいろんな体験をしたものな」
という飛龍高志の言葉に弱々しく頷く共演者達。
これからどうなっていくのやら・・風雲急を告げる!