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第一部 第十六話


飛行機嫌いのため全員が列車で移動することになり、

智子だけが監督達スタッフと一緒に先に東京に帰っていった。

皆の見送りに京都にいる京子やママ達によろしくといって、ロケ車に乗り込んだのだ。


列車は途中で東北新幹線に乗り換え、

東京で再び東海道新幹線に乗り換えるというルートを取った。

列車に乗り込んでみるとセーラー服の軍団が溢れている。

慌ててあきあを隠すように指定席に乗り込んだ。


「ねえ、杏姉!あれ持ってる?」

「あれって?・・・・ああ、アレね」

とバッグからセーラー服を取り出した。

あきあが手を触れると今まで着ていた服と入れ替わってしまった。

そして、めがねをかけ髪を後で束ね、その上顔を変えた。


「あきあ・・・・いえ沙希ちゃん。その格好は久しぶりね」

と隣の座席から薫がいう。

「ええ、みなさん。私、佐野沙希といいます。

これから京都までよろしくお願いします」

と挨拶すると、初めてセーラー服姿をみたひづるが目を丸くして沙希の前に立った。


「沙希姉さん、とっても似合うわ。本当の高校生みたい」

といって沙希の横に座った。

「この格好で、京都まで行くからよろしくね」

女ばかりでのこうした列車の旅、もっとリラックスしたいところだが

いくら指定席とはいえ女子高の生徒達が乗っているのだ、ましてやこんな狭い空間。

あっという間に天才女優早乙女薫とこれも天才子役の天城ひづるが同乗している、

ということが伝わりこの指定車両に女子生徒が溢れかえった。


はじめはおずおずと色紙代わりのノートを差し出していた彼女達、

ファンを大事にという早乙女事務所の基本理念があるので

女子生徒がサインを求めてきても女優陣は断りはしないので次から次へと

遠慮なしにこの車両に入ってくる。

大空圧絵までもが見つかりサインをねだられている。

でも最後にいづれの女子生徒も指定席を見回してがっかりした様子を見せるのだ。

これは東北新幹線にのりかえても同じだった。


「ねえ、律姉!私、みんなに悪いことをしているのかしら・・・」

ずっと気にしているのでもう我慢できずそう聞いた。

「沙希!あんたまでみんなに見つかったらどんな騒動になるのかわからないわ。

でも、あんたのことだからとても気にしているのね」

といって慰めるように言う。


サインを終えたひづるが

「沙希姉さん、みんな沙希姉さんのこと気にしてたわよ。

あの子は誰ですかって・・・一時日野あきあさんかと思ったんだけど

顔が全然違うからがっかりしたんだって、でも女優さんたちに囲まれて

大事にされているあの子は何なんだろうって評判になっているわ」


少し考え込んでいた沙希だが

「ねえ、ひづるちゃん。私と一緒に来てくれる?

私、あの子達と少しでもお話がしたいの。いいでしょ。律姉!」

「仕方が無いわね、いいわよ。その代わり正体をばらしたら駄目よ」

律子の言葉に薫達みんなが頷いた。


「うわあ、ひづるちゃんだ」

「あそびに来たわよ」

「ひづるちゃん、この人は?」

「沙希姉さんのこと?沙希姉さんは女優の卵なのよ」

これは打ち合わせ通りだ。


「へえ~~」

「佐野沙希といいます。京都まで一緒だと聞いたんでお話したいなって思って」

「うわあ~~、可愛い声・・・・でもどこかできいた声だわ」

「あっ、そうだ・・・昨日のドラマだ!」

「本当だ!千賀子の声だわ」

といって手を叩いて喜ぶものがいたし、不審がって顔を覗き込む子もいた。


「佐野さん」

「沙希って呼んで!」

「じゃあ沙希!あなたはどうしてひづるちゃん達と?」

「京都の撮影で知り合いになったの。

それで聞いたらテレビドラマを撮りに東北へ行くっていうでしょ。

だから東北まで押しかけていったの。お手伝いさせてくださいって」


「へえ~~、いいわね」

「じゃあ、沙希は京都人なんだ。・・・でも京都弁使ってないね」

「へえ、うちは京都までみなさんとぎょうさんお話したかったんどす。

京都までの旅、みなさん。よろしゅうおたの申します」

「うわあ~~京都弁だあ。いいわあ~~何だかとても女らしい。舞妓さんみたい」

「でも、私は沙希に昨日のドラマの台詞言って欲しいわ」

と声が似ていると言った女子生徒にいわれ、思わずひづると顔を見合わせてしまう。


「私でいいの?昨日の撮影のお手伝いしたから台詞は覚えているけど」

「うん、いい。だって日野あきあはここにいないもの。

代わりといっては沙希に悪いと思うけどね」

「じゃあ・・あれ言って・・・あれ・・・」

「あれって?」

「それ・・・えっと戦士に変身する前の台詞よ」

「待って!目をつむるから」

と周囲にいたもの全員、しかも横で聞いていた先生らしき人まで目を閉じた。

沙希はひづると顔を見合わせニッコリと微笑むと真剣な表情にかわり


「『人は守るべきものがあれば強くなれる。どんなことでも受け入れられる。

わたしは守りたい!・・・愛するひとりの少女の真心を!・・・母が子を想う心を!

だから、あなたのその闇の心をぶち壊す!』・・・これでいい?」


臨場感溢れるその台詞の言い回しに

「うわあ~~~本物みたい!」

と歓声と拍手、何だろうと隣りの車両からも覗きにくる女生徒達、

その数はドンドン増えて、何度も何度も台詞を繰り返し言わされる。


その上、ひづると千賀子との会話の台詞も言わされて、二人とも冷や汗しきりだ。

「あんた達! もういいでしょ。そんなにくりかえすと佐野さんやひづるさんが疲れるわよ」

と先生がやめさせたので台詞はそれ以上言わなくてよくなったが

集まった女子生徒達がドラマのことや女優、なかでも日野あきあのことをとても知りたがった。


「凄い女優さんよ。あの天才女優の早乙女薫さんがファン第1号になっているもの」

ひづるがニヤニヤ笑いながら隣りの沙希を見て楽しそうにあきあのことを言うのだ。

「だから、私がファン第2号なの」

「日野あきあが不思議な術を使うって本当なの?」

とメガネをかけ委員長と呼ばれる少女が聞いた。

「あなたはどう思うの?」

「私はデマだと思う。昨日のドラマだって私最後まで見たわ。

生放送だって書いてあったけれど絶対に嘘だと思う。

だってあんなのできっこないじゃん。CGとかを合成しているんだわ、きっと」


沙希とひづるが顔を合わせてニコッと笑った。

これがテレビを見ていた生の感想なのだ。視聴者が持つ当然の反応だといえよう。

「ひづるちゃん、今の私の話ってどこかおかしい?」

と委員長が聞き返してくる。

「うん、昨日のドラマを見た人の当然の反応だなって思って」

「今の委員長の話とは別の感想を持っている人はこの中でいる?」

と沙希が聞くと

「私、そんな見方でドラマを見てなかったわ。ただドラマの筋に没頭していただけ。

だからドラマが終わったら目が真赤、家族もそうよ」

という意見にはほとんどの生徒が賛成していた。


「でもあんな術使えたらいいなあって私は思ってたわ。

あの変身して戦士の格好になったでしょ。私あこがれちゃう」

という生徒にも賛成が多く、ひづるまでもがキャアッキャといって

手を取り合って騒いでいた。だから調子に乗って

「あきあさんの術のことって詳しく言えないけれど・・・これは内緒よ。絶対しゃべっちゃ駄目よ」

といって沙希が止める間もなくヤタさんを出してしまった。


『カアー』っと一声鳴いてひづるの肩にとまる。

「キャー」

とびっくりして逃げ出そうとする女子生徒達に

「大丈夫よ、ヤタさんは人にはあぶないことしないから・・・

私達お友達なのよねえ・・・ヤタさん!」

とひづるに頬づりするヤタさん。


腰が引けていた女子生徒達がほっとするように腰を落ち着けたのは

ヤタさんがする可愛らしいしぐさだった。

「それは一体なに?」

「ヤタさんっていうの・・・えーと熊野・・・」

とひづるがまだ覚えきっていないのを、仕方ないなあと沙希が手助けする。


「熊野権現の熊野誓詞のヤタカラスよ」

「そうそう・・・それよ。ヤタカラスだからヤタさんなの」

「え~~私達、帰りに熊野権現に寄るのよ。だから少しお勉強もしたわ。

へ~その子がヤタカラスなの?」

とすぐに不可思議なものでも可愛いかったら受け入れてしまう現代娘。


「ひづるちゃん、それどうしたの?」

もう皆興味しんしんだ。

ひづるはさすがに天才子役、事件には直接触れなくて

日野あきあが出した式神として京都の晴明神社から熊野権現の清流を汲みに言ったことを話す。


それ以上のことを聞きたがった女子生徒がいたが

「ごめんね、これ以上は話せないの。え~と国家の機密事項だって」

そんな難しい言葉で煙に巻く。

「晴明神社も行くし、熊野権現も行くの。何だか楽しみになってきたわ」

「そうよねえ」

と頷く女子生徒達。


ひづるがキーホルダーの熊にヤタさんを戻してしまうとがっかりする皆の目。

「えっ?・・・」

と目を真ん丸くして沙希とひづるを見つめる委員長。

「信じられない!これって本当?・・・じゃあ昨日のドラマって」

ひづるのちょっとしたいたずらでこの心境の変化。


「じゃあ」

と沙希がいう。

「今度映画が封切られるのを知ってる?」

「知ってる、知ってる」

「今、評判よ」

「何か、ゲームのストーリーに合わせて映画がつくられるって」


「そのゲームをつくったのが日野あきあだってことは?

「えっ?知らなかった」

「知ってるわよ、それくらい」

と反応が二分する。


「映画、私も出ているから見に行ってね」

とちゃっかり宣伝するひづる。

「行くわよ、絶対」

と女子生徒達がいったとき車両のドアから順子が顔をだしてつい

「あきあ!・・・ひづる!・・・もうすぐ東京よ!」

と言ってしまったから大変な騒ぎになってしまった。


「えっ?・・・あきあって?」

「沙希!・・・あんたのことあきあって呼んだよね」

これは委員長だ。この子はとても感受性が強く頭がいいみたいだ。


見ると順子が右手で顔を隠してがっくりと肩を落としてしまっている。

大変な仕事が終わってほっとして気が緩んでしまったのが原因だ。


ひづるまでが

「あきあ姉さん、もう駄目ね」

というから騒ぎが大きくなった。


沙希は立ち上がって騒いでいる女子生徒にむかって

「騙していてごめんなさい」

と頭を下げてあやまった。

凄い女優といわれている日野あきあにこうして素直に頭を下げられては女子生徒達、

どう反応すればいいのか戸惑ってしまい、騒ぎが波を引くように納まってしまった。

皆の視線は、あきあに集中したままだ。

「でも顔が全然違うじゃない」

と言う声が聞こえてくる。


「あっ、ごめんね」

と『フィ』と指先を口の前で吹くと、皆が知るあきあの顔に戻った。

もうびっくりなのが女子生徒達。

それはそうだろう一瞬のうちに顔が変わったのだから。

どうしてそんなことが出来るのか委員長はもう言葉も出ない様子。

「皆ごめんね。でも騒ぎになって怪我をする人が出てきたら大変だから、

・・・それにね昨日のドラマを見た生の声を聞きたかったの。

この償いは乗り換えた新幹線の中でするからね」


「ごめんね」

「ごめんね」

といいながら女子生徒を掻き分けて順子のほうに歩いていく。

女子生徒達がこんなにおとなしいのは皆、固まっていたから・・・・。

それはそうだろう常識では説明できない、

摩訶不思議の世界を目の前で見てしまったのだから。


その証拠にあきあ達が車両を出て行ってからクラスメートや別のクラスの子達とも

顔を見合わせてから委員長がまず最初に

「キャア~」

と叫び声を出し、連続的に叫び声があがった。勿論、恐怖の叫びではない。

不思議な術を見た驚きと、あきあのその可愛らしさに叫んだのだ。


やっと騒ぎが納まったのは、乗り換える準備をするようにと

教頭が入ってきたからだ。

荷物をまとめる女子生徒達、表情が輝いている。

「ねえ、乗り換えの新幹線の中で償いをするっていってたわよね」

「言った!言った!」

「でも、ねえ皆!あきあさんってあんなに礼儀が正しいのよ。

私達もあまり騒がずにきちっとしようよ」

という委員長の言葉に皆頷いた。


担任の先生達はそんな子供達に驚きの目を向ける。

実は教頭以外の先生はこの車両にいて終始目撃していたのだ。

いつもきちっとしなさいと叱っても言うことを聞かない生徒達。

一人の女優の力でここまで変わってしまうものかと。


新幹線の乗り換えも先生の先導で見たこともない礼儀正しさで行動した。

こんなこと今までになかったことだ。

席に落ち着くと荷物を置き、3クラス全員がこの車両に移ってきた。

さっきいなかった子も皆の誘いでやってきていた。

時間が経つとみんなソワソワとし出す。

「本当に来てくれるのかしら」

と思いかけた時、

車両のドアが開き、ニッコリと笑うあきあが入ってきた。

もちろんひづるも一緒だ。

・・・あれ?あの早乙女薫も大空圧絵も付いてくるではないか。


空けておいた4人がけの座席、そこに落ち着いた4人。

「もう一度謝っておきます。ごめんなさい」

と立ち上がって、頭をさげるあきあ。


「あきあさん、もうそんなことなさらないでください」

と委員長が止める。

「昨日のドラマでお疲れだったでしょうに、私達のためにわざわざ・・」

と挨拶する委員長、担任達が思わず顔を見合わせてしまうほどきちっとした挨拶。

なんて、立派な挨拶なんだろう。自己中心でこんなこと言ったこともない彼女が。


あきあはにっこり笑って腰掛けた。その邪心のない笑顔に引き込まれてしまう。

集まっていた全員がもうファンというより親衛隊になった気分だ。

そこに順子と律子が色紙の束を持ってきた。

「はい、あきあ。頼んでいた色紙を事務所の子が持ってきてくれたから」

渡された色紙、対面式の4人がけだったので前にはテーブルもなかったが

あきあは前にドンと置き、サインを書き始めた。

ん?・・・・と、色紙が宙に浮いているのを皆、目を真ん丸くするのを薫が

「こんなことで驚いていてはあきあのそばにいられないのよ」

と笑った。


「それじゃあ、早乙女薫さん」

「薫さんでいいわよ」

「薫さん・・・昨日のドラマは本当に、本当に録画ではなかったのですか?」


「そうよ。勿論、導入部の古い時代のものはテレビでも断ってあったように

録画だったけれど、現代のものは全て生だったわよ」

「ええ~~!じゃあ、あの龍や千賀さんって」

「勿論、本物よ。千賀さんは霊魂だったし、緋龍、紅龍という龍神様も本物よ。

でも、こんなこと他の人に言っては駄目!判った?

生か録画か半信半疑っていうのが一番無難だからね」


「今度放映される映画はもっと迫力あるわよ」

と大空圧絵。

楽しく話しあっている間に、あきあといえばもうペンを置いてニコニコ笑っていた。

「はい、一枚づつとってね」

というと色紙が皆の間をかってに飛んで配られていく。もう驚くばかりだ。


京都につくまでみんなで楽しくおしゃべりがはずんだ。


女子生徒達にとって楽しい修学旅行の序曲である列車の中、

もっとも思い出になる時間となっていた。


                      ★


「沙希お嬢様、おかえりやす。皆様、おかえりやす」

と一行を迎えたのは志保始めとする高弟達。


高弟達に荷物を渡して玄関を入ると、早瀬一族のママ、操、澪と京子が並んで待っていた。

手早く帰宅の挨拶をすると、沙希はさっそく居間に向かった。

居間には井上貞子がニコニコ笑いながら座っていた。


「お婆ちゃま、ただいま帰りました」

と横に座って挨拶する。

「おうおう、よく帰ってきてくれはりました。

小沙希ちゃんがいないと寂しゅうて寂しゅうて」

「ほほほ・・お母様はもう沙希ちゃんの帰ってくるのは、まだかまだかって朝早くからそればっかり」

といってお茶を入れながら笑って話す。


「私ちょっと着替えてきます」

といって立ち上がると志保もついて行く。

入れ替わりに入ってきたのは薫達、井上貞子に挨拶をするとさっそく薫と澪の会話が始まる。

「ねえ、澪。隣りだいぶ出来たみたいだけど」

「まだまだよ。器が出来てもまだ入れるものが素人同然ではなんにもならないわ」

「今どうしているの?」


「近くの病院へ手分けして研修よ。そして学校にもいかしているわよ」

「何人連れてきたのよ」

「30人」

「そんなに?」

「だって地下の施設ってへたな人を入れらないじゃない。

だから身元が確かな人以外は里の人間で固めるしかないの」


「今に里がガラガラになるよ」

「大丈夫だよ、一族の血を引くのは日本中にいるんだから」

そばで笑っていた真理が

「澪ちゃん、奈美に頼みなさい。あの子だったら一族の血を引く看護師さんを見つけてくれるわ。

里の女の子はじっくりと育てることね」

とアドバイスをする


そばで聞いている貞子は一族の結束の強さに羨ましさをおぼえるが

全て自分の前世の子供や孫達なのだ魂の結びつきはある。

だから肉親と変わりはないのだから自分のことのように嬉しい。


「おまちどうさんどす」

といって襖があいて三つ指を突いて座っていたのは舞妓姿の沙希だった。

「おお~お、小沙希ちゃん。こっちへ早う」

と貞子がせかすように手招きをする。

「お婆ちゃま!うち、ちょっとだけ出掛けてきてもよろしゅうおすか?」

「あんた、帰ってきたばかりなのにそんなに急いでどこへいくんどすか?」

「へえ、昨日の千賀ちゃんのこと、菊奴さん姉さんによう頼んでおこう思いまして、

菊野屋さんにお線香をあげに行って来ます」

「やっぱり、小沙希ちゃんや。優しいおすなあ、そんなことやったら早う行ってきいよし」

と送り出す。


家を出ると、やはりここも雑誌や新聞の記者に張られているようだ。

厚塗りした舞妓姿、正体をくらますのに良かったのだろう、後は付いて来ないようだ。

すれ違う舞妓や芸妓達に

「おきばりやす」

と挨拶すると共にウインクすると、皆驚いた顔をするがこの祇園の世界、

井上貞子の家に留まる小沙希ちゃんのことは皆知っている。

というよりは小沙希の横笛、真理のお琴の弟子ばかりなのだ。

「小沙希ちゃんこそ、おきばりやす」

と挨拶をかえして何もないように通り過ぎる。これが祇園なのだ。


「お母ちゃん、ただいま戻りました」

と声をかけて玄関戸をあける。

いわばここも小沙希の我が家なのだ。

『どどどどっ』と2階から走り降りてくる足音と

『ピシャリ』と障子をあけて小走りの足音が聞こえる。


「まあ、小沙希ちゃん!お帰り・・さあさ・・早う上がって」

「小沙希さん姉さん、お帰りやす」

と菊野屋の菊野と舞妓の花世だ。

「あら!おかあちゃんも花世ちゃんもすごい鼻声やわあ」

「へへへ、うちもおかあちゃんも鬼も撹乱え」

「風邪?」

「そう、でもなんどすか、小沙希ちゃんの顔みたらすーっとお熱が下がったわ」

と菊野の言葉に

「ほんまやわ、うちもなんか元気がでてきたえ」


「もう、二人ともそんなわけあらしまへん。二人共ここにお座りなさい」

といって居間の座布団の上に座らす。

「もう、こんな熱が高うて、どないしますのや」

と怒りながらも二人の額に手を当てて呪文を唱えた。


「おかあちゃんも花世ちゃんも今日1日だけはお布団の中で辛抱どす。

うち、お呪いかけましたさかい明日にはもうお床あげどすえ」

といって二人共無理やり布団の中に追いやった。

そして、菊奴の仏壇にお線香をあげて千賀のことをよろしく頼んだのである。


そして隔離ということで一つ部屋で布団を並べて寝かしつけられた菊野と花世に

「うちがつくったおかゆやから、おいしいかどうか判からしまへん。

どうせ二人共、朝からなんも食べてえしまへんのどっしゃろ?」

と二人の枕もとに土鍋にいれたおかゆと小皿二つを持ってあらわれた。


「へえ、お母ちゃん」

といって菊野用にいれた小皿のおかゆをスプーンですくって食べさせる。

「次は花世ちゃんえ」

と花世にも同じ事をする。

二人に何故か溢れる涙、

「あらあら、二人共どうしたのどすか?涙なんか流さはって」

「うちは嬉しいのどす。こんなこと実の娘の菊奴にもしてもらったことおへん」

「うちはちっちゃいときにうちのお母ちゃんにしてもらったの思い出しただけどす」


「どうせ、お母ちゃんはうちのためにお百度をふんでたんで風邪をひいたんどっしゃろ?

花世ちゃんは花世ちゃんでそんなお母ちゃんが心配で遠くから様子を窺っていた!

違ってます?」

という小沙希に床の中で顔を見合す菊野と花世。

そんな様子に自分の推理の正しさを確認する小沙希。


とそのとき『ガラガラ』と玄関が開く音、

「あっ、来たわ」

といって立ち上がって部屋を出ていく。


次にあらわれた時、小沙希の後に澪の姿が。

「駄目じゃないですか、何か身体に異常があったときは私を呼んでくれなければ」

という澪の言葉に

「へえ、・・・でも風邪ぐらいで澪先生を呼ぶなんて」

というのを

「女将さん!病気に対する素人判断はろくなことがないのよ。それに風邪は万病の素というでしょ」

と注意をする。


しばらくすると『ガヤガヤ』とこの家の芸妓や舞妓達が帰ってきた。

「あっ!小沙希ちゃん・・・」

と皆を出迎えようと障子を開けたとたん、目ざとく見つけて声をかけたのが

芸妓の花江だった。


「ひゃ~、小沙希ちゃんやわ」

「小沙希さん姉さん!」

と玄関口を跳び上がりドタドタと小走りに近づいてくるのを

小沙希が慌てて『シー』と人差し指を唇に当てると、みんな足を止めてしまう。


「今、澪姉さんがお母ちゃんと花世ちゃんの診察をしているんどす」

「小沙希ちゃん!お母ちゃんと花世ちゃん、大丈夫なんどすか?」

と心配そうに聞く花江達、・・・・と障子が開いて

「もう大丈夫だよ。・・・だけどあんた達がついていながら

どうしてもっと早く医者に見せなかったの!」

と強い口調で言うと

「へえ、すいまへん。・・・でもお母ちゃん、お医者はんが大嫌いなんどす」

「だからといって・・・・」


「お母ちゃん、お医者にかからへんのが自慢やって普段から言うてました。

・・・そのお母ちゃんがお医者はんにかかりはったんは、澪先生だからどす」

「えっ?」

「小沙希ちゃんの縁に続く澪先生やから安心して診察してもらったんや思います」

と花江がいう。


芸妓や舞妓達に見つめられた澪・・少し上気した表情を見せながら

「わかったわ、・・・ありがとうって言うべきかしら?」

というが、急に表情を引き締めて

「さあさ、あんた達。外から帰ってきたらうがいを励行よ。

この薬を少しづつコップにとって水で薄めてからうがいをするの」

といって薬を渡した。


皆、『キャーキャー』言いながら二階に上がっていくが

「小沙希ちゃん!・・・昨日のドラマ皆で見せてもらいました。

泣いたり笑ったり・・・でもあんな凄いドラマ見るの初めてどすえ。

今日どこ行っても物凄い評判どした。だからうちら鼻高々で聞いてたんどす。

うちらと小沙希ちゃんのこと誰も知りはらへんから

うちらの前で皆さん遠慮はあらしまへん。変なこと言う人もいやはりましたけんど

たいていのお人は凄いドラマやった言うてました」

といって階段の前で花江が振り返って小沙希に言う。


「ねえ、小沙希さん姉さん!お願いどす。

昨日のお話を少し・・・・少しだけ聞かせておくれやす」

と階段途中から顔を覗かせた舞妓の豆奴が小沙希を呼ぶ。

「ええ、少しの時間なら」

とみんなを追いかける小沙希。


「沙希ちゃん!・・・お婆様が首を長くしてまってるから長くは駄目よ」

という澪の言葉に振向いて『ニッコリ』笑って階段を上がっていった。


結局、小一時間ほどわくわくするような眼差しで小沙希の撮影話を聞いていた芸妓と舞妓達、

「うちらが小沙希さん姉さんからこんな話聞いた事知ったら

お母ちゃんと花世さん姉さんうらやましがるやろなあ」

という豆奴に

「駄目どす、それだけは言っては駄目どすえ」

という花江だったが2日後お床上げのさいに嬉しさのあまりついポロリとしゃべってしまった豆奴、

『あちゃあ』という表情で顔を見合わせた芸妓や舞妓達、

そして、睨みつける女将の菊野と花世は悔しがる悔しがる・・・

そして又聞きだが小沙希の話を順番にその話を繰り返させ、

芸妓や舞妓達を『へきへき』させた女将と花世。

そのころ小沙希はマネージャーの瑞穂と律子と共に東京に戻る新幹線の中であった。


                       ★★


「お婆様、寂しそうだったね」

と窓側に座る沙希の横の律子が言う。

「でも、すぐに里で会えるから」

と言う沙希はセーラー服姿で術で顔を変え、あの佐野沙希という架空の少女に変身していた。


やはりテレビの効果は恐ろしいもので、あのドラマの放送以来、

沢口靖子と間違われるよりも日野あきあとして追いかけまわされ、

ファンもそうだが、メディアの記者やレポーターは神出鬼没であらゆるところで見張られている。


たった一泊だったが京都の町にも多くの報道陣が出張っていて

顔見知りの記者達に祇園で何度もすれ違ったがさすがに舞妓姿をしているのには

気づかなかったようである。


先ほども京都駅構内で律子と瑞穂の顔を知る記者に声をかけられた。

「あのう日野あきあさんはご一緒じゃないんですか?」

「いえ、今日は東京の事務所でマネージャー会議があるので私達だけです」

「あきあさんはどこにいられるんでしょうか?」

「小野監督が昨夜太秦入りされたので、きょうは一緒に映画の編集作業のお手伝いすると言って、

タクシーでここまで送ってきてもらって今別れた所なんですよ」

といってうまくごまかしたのだ。


こうして3人やっと席に落ち着いたところだ。


「ねえ、沙希!私は今は『日野あきあ』じゃなくて『早瀬沙希』のマネージャーよねえ?」

と二人の向かい合う席に座る瑞穂がバックから何やら取り出しながら聞いてくる。


「そうよ、瑞穂!今日から里に帰るまでは沙希は『早瀬沙希』という

株式会社アクトの部長付き秘書としての初仕事だからがんばってね!」

と言う律子に

「だったら律姉は?」

「私?・・・私はこれ以上仕事は増やせないからね」

と苦笑いをする。

一応あきあのマネージャーであるが天城ひづるのマネージャー・・・そして、

ひづると瑞穂の家庭教師を兼ねているから目が回る忙しさだ。

今日、スケジュールを入れていなかったひづるがついて来るといって

だだをこねていたが、『早瀬沙希』として忙しく動き回らなければいけないので

京都に置いてきたのである。

そして、たっぷりと宿題を与え、これが出来なければ隠れ里には連れていかないと

きつく注意をしてきた。


沙希は二人の話を聞きながら窓の外を眺めていたが、いつしか昨夜の事を思い出していた。

皆と晩御飯を終えて楽しい語らいの場を繰り広げていたが、

さすがに昨夜来の疲れからか、一人去り二人去りと静かになっていった。


そんな中、沙希は手荷物を持って月明かりの中、屋敷を出て行ったのである。

行く先はいつものように比叡山奥の院。


「誰だ!」

「天鏡さん、私です」

暗闇から出てきた大男、

「おお!これはあきあ殿!」

「天鏡さん、お上人様はもうお休みに?」

「いやいや、あきあ殿が来て下さったらすぐ起こすようにときつく言われておるのじゃ」

「でも・・・」

「とんでもない、ここであきあ殿に帰られたら後でどんなお叱りを受けるのか

考えてもぞっとしますわい」


「じゃあ、お言葉に甘えて・・・」

「少し待っておられよ」

と奥の院に入っていく。

しばらくしてひょろりとした蓬栄上人が満面の笑みを浮かべて近づいてきた。


「これは、これは、あきあ殿。よく来てくださった」

と両手をぎゅっと握ってくださる。暖かい手だった。

「あきあ殿、わしもこの年になってテレビというものをみるとは思わなんだ」

と蓬栄上人が言われる。

「でも、お上人様ここにはテレビは・・・」


「勿論、そんなものはありはせんから、我ら一同比叡山の檀家に押しかけたんですわい」

と天鏡が笑う。

「それにしてもあきあ殿!昨日のドラマには感服しもうした。

本当のことだと聞いておっただけにあきあ殿の術の凄まじさには一同ただ唖然とするだけでしたぞ」

天鏡がその大きな眼をギョロリと動かして言った。


「これこれ、天鏡!そう大声を出さずとも良い。

夜目にもあきあ殿の顔が赤く染まっているのが判からんのか」

と蓬栄上人が注意をするのだが、

調子に乗ってさらに喋りだそうとするのに

「うふ・・」

とあきあがつい笑ってしまった。


「すいませぬ。かの地で天鏡さんのこと・・・

いえ、泣き虫小僧時代のことを充分に伺ってきましたので・・・・つい・・・うふふふ」

とこらえきれず笑い出してしまった。


しかし、天鏡の反応はと見ると・・口をあんぐりあけて驚いたまま凍っている。

あきあは笑いをおさめると

「これは、かの地にある龍雲寺の和尚様から渡された天鏡さんへのおみやげです。

何でも東北の天然水で作られた地酒・・・いえ、般若湯です」

と手荷物の中から一升瓶を出す。


「龍雲寺の住職?・・・・・・はっ!もしや・・・」

「あきあ殿のドラマに出ていた龍雲寺の峰厳和尚というのは・・・」

とお上人様もあきあの顔を真剣にみつめて言うのだ。


「ええ、ドラマでは峰厳和尚を幸田朱尾さんがやっておられたので

お気づきにはならなかったと思いますが、

峰厳和尚はお上人様と厳しい修行をご一緒に耐えてこられたと聞きました」

「おお~~おお~~・・・・これは何より嬉しい知らせじゃ。

あきあ殿が・・・・そうあきあ殿が行方知れずになっていた峰厳のことを知らせてくれた」

と喜ぶ蓬栄上人。


「お上人様にもおみやげが・・・」

というあきあの言葉に手を振って

「いやいや、あきあ殿。峰厳の無事を知らせてくれたのが何よりのみやげじゃ」

という蓬栄上人。


「いえ、これは峰厳和尚にも差し上げた同じもの」

不審げに小さな袋を受け取ったお上人が中身をみると

「おお・・・・これは・・・・」

赤白く光る大きな鱗が出てきたのだ。


「あの緋龍様の鱗でございます。これは結界を守る要となるもの。

いかに私でもこれがあるとそう簡単には結界は破れませぬ。

そして、悪心を持ったものがさわるとその身はたちどころに消滅してしまいます」


お上人が持つ龍の鱗がますます輝きを増し、周囲を昼間のようにうつしだす。

天鏡を始めとする武者僧達そして、土御門の者達まで周囲を取り囲んだ。


「おお~おお~これは素晴らしい、この比叡山の守りとなるもの。

あきあ殿!どのようにお参りすればよろしいのじゃ」


「和尚様、比叡山の要となるのはこの奥の院の庭、そこに石碑をたてます。その鱗はその石碑の中に」

というあきあに

「そんなことが出来るのはあきあ殿しかおらぬ」

「はい、私はそのために今日お伺いしたのですから」

お上人の言葉にそう返事をした。


あきあが示す比叡山の要の地点は奥の院本堂横の小さな花壇がある場所だった。

小さな花壇は別の場所に術で移し変える。

目の前で見るあきあの術の凄まじさは僧達の声を奪っていった。


「ナーマクサーマンダ・ボダナンバク・・・・」

と真言を唱えると『ゴ~』と地鳴りがして地中から何かがせり上がってくる。

やがて地鳴りが止んだとき、それは身の丈3mもある大きな岩が

皆の目の前にそびえ立っていたのだ。


あきあの真言は続く。

僧達が見つづける大きな岩に『ピシッ』と一筋のヒビが入ると

そこから幾筋ものヒビが岩全体に広がっていく。

そして『バシッ』という音と共にひび割れた岩の表面が崩れ落ちた。


「おおお~~~・・・」

声ならぬ声があがったのは驚異の秘術・・・・の結果、岩の中から大日如来像があらわれたからだ。

僧の中から一人・・・二人と経を読む声が聞こえ、やがて全ての僧達の読経が比叡の山に流れる。


蓬栄上人が手に捧げ持つ龍の鱗が再び輝きを増して、赤白い光が黄金に輝く時

『フワリ』と上人の手から浮き上がり、大日如来像に向かって進みだした。

僧達の読経の声が大きくなる中、龍の鱗は像の前で一瞬停まったと思った瞬間、

『フッ』と大日如来像の中に消えていった。


すると岩で出来た大日如来像が如々に光始めその輝きが、

像の隅々まで行き渡ったとき、ゆっくりと光が像の中に染み込むように消えていく。

そして、満天の星の光がこの比叡の山に戻ったときやっとあきあの真言が終わった。


荘厳なる静けさの中、ゆっくりとあきあが名笛『緋龍丸』を取り出し口に当てて吹き始めた。

比叡の山を再び退魔の音色が包み込む。清々しい風と空気が大日如来像に命を与える。

像の頭上から一筋の赤い光が天空に上りその一点から幾筋もの光が分かれて

比叡の山を覆ったのである。強力な比叡の結界が完成されたのだ。


あまりにも凄まじい陰陽師あきあの術、

比較にならぬ力の違いに呆然とする土御門の術者達。

「お上人様、この像を破壊する強力な術者が現れない限り、比叡の結界は磐石です」

「あきあ殿のおかげじゃ」

「あきあ殿は凄すぎる。この比叡山に単身殴りこんだとき、

ようもわし達は無事だったものよ。今から思うとぞっとる」

と天鏡がいうと

「天鏡さん!そのことはもう言いっこなし」

とちょっとすねるような言い方で注意をした。

でもその可愛らしさは強力な術者として相反するもので

僧の身でありながら『ぞくっ』とした者がいても不思議ではなかった。


                      ★★★


沙希にとって久しぶりの会社だった。

本当はすぐに社長に挨拶に伺うのが筋だったが、

さすがセーラー服では顔を合わせるわけにはいかず、

又、二人のマネージャー・・・特に瑞穂が現地採用だったため、

まだ事務所に挨拶をしていないことと、律子にしてもいろんな報告があるので

まずは早乙女薫事務所に顔を出すことになった。


「おはよう!」

とまず律子がドアを開けて事務所に入った。

「おはようございます。・・・あっ!律子さん」

と玲子が声をかける。

その玲子と話をしていた杏奈が立ち上がってセーラー服の沙希を見て二ヤッと笑う。

けれど事務所の女性達、瑞穂とセーラー服姿の沙希に眼を見張るだけだ。


玲子の声が聞こえたのかパーティションで区切られた会議室のドアが開いて

まゆみ社長と城田メディア部長・・・そして、何と沙希の会社の社長、

株式会社オクトの佐野社長と静香専務が出てきたのである。


「律子、遅かったじゃない」

というまゆみ社長に

「ええ、京都からここまで何回も記者さん達に声をかけられるものですから

手間取ってしまって・・・」

「こちらもマスコミからの集中攻撃で業務もままならないのよ。

テレビ放映以来それが激化してしまってね」

「ええ、京都では凄まじかったです。あきあなんてマスコミから逃れるため

四六時中舞妓姿でいましたもの」


まゆみ社長の視線は瑞穂と顔を変えて変装中の沙希にうつり二ヤッと笑って

「さあ、みんな紹介するからこちらに集まって!」

というといつのまにこれだけの大世帯になったのか20数名の女性達がまゆみ社長の前に並んだ。


「まず、この子は京都であきあのマネージャーとなった土御門瑞穂さん。

京都で彼女の身におきた悲しい事件はみんなの知っている通りよ。

でもここまで元気になったの。これからはみんな、公私ともよろしくね」

というと瑞穂に一言挨拶するように促す。


「土御門瑞穂です。わたし、事件以来見るもの聞くもの全くの初めてのことなので

いろいろ戸惑っていますが、周囲のみなさんの励ましでなんとか今日までやってこれました。

これからも一生懸命がんばるつもりです。みなさんよろしくお願いします」

といって1歩後に下がる。


「ついでにあんたも挨拶しちゃいなさい」

とまゆみ社長にいわれ1歩前に出たセーラー服の少女。

さきほどから城田と静香はニヤニヤ笑いっぱなしで、杏奈は沙希の横に立って知らないフリだ。


「わたし、これからもみなさんにお世話になりっぱなしになりますのでよろしくお願いします」

と簡単な挨拶で1歩下がった。


「ほら、もうみんなに正体を見せちゃいなさい」

といわれて印を結ぶと顔の前で指を走らすとそこにみんなが見知った顔が現われた。


「きゃあ!日野あきあだわ」

「あっ!・・・沙希お嬢様!」

里から来たもの、新たに採用されたもの、そして元からいたもの

全ての女性達の嬌声、歓声が部屋の中に響く。

両手で口を抑え目を真ん丸くあけたまま固まっている女性もいた。


しかし、一番驚いていたのが株式会社オクトの佐野社長だ。

あの記者会見の日、会社を出た早瀬沙希が今目の前にいる少女ととうてい同じ人物とは思えなかった。


とにかく会社の知名度をあげ、利益を生む新しい開発を次々と専務の静香を通して

報告される身にもなるといい、今までとは違うその開発品は新しいプロジェクトを

組んでいかなければならず、今までのようにソフトの開発のみで

会社を運営することが出来なくなってしまった。

あれよあれよと社長の日々の業務まで変化していったのだ。


まさか仕事の取引をすることとは絶対思わなかった警察関係者との折衝、

セキュリティーの安全な開発品を製作することとなる会社を

社長のあらゆる知人友人を通じてさがすこと。

または警察から紹介される会社を見学するという分刻みのスケジュールとなった。

本当に目の回るような忙しさとはこういうことなのか。

ヘッドハンティングして数名の社員も入れた。


そして本日、まさかと思うNASAの関係者が沙希の発明品のことで来社するのだ。

さすがにこの機能等の専門的なことは沙希にしかわからない。

あきあとして素晴らしい仕事をテレビで見てはいたのだが、その疲れを心配をする余裕も今はない。

こうして帰社を要請して今、目の前にいる沙希を見るとそのショックは大きい。

確かに妻の静香には聞いていた。でも100%信じていたわけではない。

テレビで見るあきあは若いと思う。でも女優である。

年なんてメイクでどうにもなると思っていたのだ。


しかし、目の前にいるこの少女、セーラー服を着ているので若くはみえるが

化粧一つもない輝くような肌はまさしく16歳の少女のものだった。

その真実を突きつけられた驚きは大きい。

「ふふふ・・・あなた、驚いたでしょう?」

佐野社長は言葉にも出来なく視線は沙希にあてたまま突っ立ったままである。


(えっ?・・・あれは何をしているんだ?・・・最近名前を覚えた

早乙女薫事務所の玲子という女性が沙希君に抱きついて・・・ああ~~

キスをしている。・・・・あっ、腰砕けになって椅子に座りこんだぞ。

ええ~~?なんだこりゃ・・・勢い良く立ち上がって・・・

何と・・・元気溌剌じゃないか!)


女性達が次々と沙希に抱きつきキスして元気になっていく。

初めての子は驚きで・・・そしてここに入社できて良かったと

ガッツポーズをする女性達で二人の男性は圧倒されっぱなしであった。

最後に佐野社長の横からスーっと専務の静香が沙希に歩んでいく。

佐野社長が止めるひまも無いほどあっというまのことであった。


元気になった静香が社長の横に戻ってきたとき

「おまえ」

と非難めいて言うと

「いいじゃない、女同士だもの。それに最近疲れ気味だったから」

とニッコリ笑ってから

「残念ね、沙希ちゃんは男嫌いだから男には効果がないの」

という。


杏奈の用意した薄いグリーンのビジネススーツに着替え終わった沙希が

もと自分がいた2階の部署に挨拶にいったときの女性達の歓迎ぶりは

ここに改めて書き記す必要もないだろう。

ただ女性達の嬌声とその後ろから男性社員のアイドルを見つめるような

視線で部屋の中が熱くなったのは確かだ。


そして、静香専務が案内したのは部長となった沙希の新しい部屋、

4階の部長室に始めて足を踏み入れた。

窓際にある大きな机の上には真新しいノートパソコンと

開発部長と肩書きのある沙希の名刺が3ケース置いてあった。


「律子さんの机はこれ、土御門さんの机はその横よ」

という静香の言葉で律子と瑞穂は自分の机の後に荷物を置き、椅子に座ってみる。

律子にとっても瑞穂にとっても新しい経験なのでドキドキするほど嬉しい。

机の上には沙希と同じように名刺が置いてあった。

律子には『開発部第二秘書』瑞穂には『開発部第一秘書』と

肩書きが記されてあった。


「えっ?・・あのう専務、これ間違いじゃ・・・」

と瑞穂が言いかけたのを

「いいえ、間違いじゃないの。ほら、電車の中で言ったでしょ。

私、忙し過ぎるので沙希の秘書をまかすって。

私は暇なときには第二秘書として沙希の仕事を手伝えるけど、ほとんどそんな暇が無いと思うの。

だから瑞穂、あなたが第一秘書として沙希をバックアップしてちょうだい。

でも、勉強することばかりよ。それにわたしとのお勉強もあるし、これから瑞穂も大変だわよ」

と律子がいう。


「そういうことよ、土御門さん。それにここは会社だから公私の公だということを忘れないようにね」

という静香専務の注意にも

「はい」

と強い返事も忘れない。


あの京都での悪夢のような事件に遭遇したが、沙希と知り合って、

沙希によって解決されたあと瑞穂の運命はあれよあれよと変化しつづけ今日この場にいるのだ。

自分でも信じられないような幸運を沙希によって与えられたのだ。


その沙希はというと佐野社長やオクトの城田部長とニコヤカに話こんでいた。

「瑞穂ちゃん、あなたの机はうちの事務所にもあるからね。

でもそこに座ることはなかなか無いと思うけど」

と一緒に付いてきたまゆみ社長が椅子に座る瑞穂の肩に手を言う。


そのときドアをノックする音が聞こえ専務が返事をすると

ドアが開いて社長秘書の大崎恵が顔をだした。

沙希の姿を認め一瞬驚いたように立ち止まったが

社長への急ぎの用件を思い出し佐野社長の傍まで近寄ってから

「社長!今NASAの方がおいでになりました」

「おお、そうか・・・で今は?」

「はい、岡島さんが応接室に案内しております」

「何人来られたのかね」

「はい、2名の方と通訳の方が・・・」

「そうか、じゃあ専務!」

と静香専務を促すと部屋を出て行こうとしたが足を止めて沙希に振向くと

「早瀬くん、専門的な話になったら電話するからそれまでここで待っていてくれ」

と言ってから部屋を出て行った。

秘書の大崎が社長や専務の後についていこうとしたが、急いで沙希の元に戻ってきて

「まあ、沙希ちゃん。すっかり若返ってしまって、可愛いわ。さあ、急いで私にも元気を頂戴!」

といってキスをすると腰砕けになりながらもふんばってから、にっこり笑って部屋を出て行った。


次に電話があることになる15分間というものまゆみ社長と城田部長は、

ソファで杏奈の昨日の報告を受けていた。

「友人達が持ってきた服は50点、そのうち10点を沙希個人用として

購入しました。そして、15点は公人・・・つまり映画・テレビの衣装用としての借り受けで、

着てしまえば購入することになりますが

手を通さなければ又、新しいものと交換することが出来ます。

他はこれというイメージが湧きませんでしたので返品しました」


「わかった。杏奈もやるわね。それでメーカーがどうのって言っていたけど」

「はい、10社のこれからというメーカーのオーナーに話を聞きました。

若い女性服に対するコンセプトとこれからのイメージ戦略など

いろいろ聞きましたがもう一つピンとくるメーカーがありませんでした」


「女性服といっても千差万別なのよね」

「ええ、それに私がデザインするっといっても映画やテレビでの役柄もまだわかりませんからね。

最低条件とすればこちらの細々と指示に答えられるかどうか、だけですから・・・」


「杏奈くん、一度京子くんと話をしてみればいい」

「京子さん?鳴海京子さんとですか?」

「ああ、そうだよ。彼女、元はといえばファッション誌の記者でけっこう有名な記者だったんだ。

それがどういうわけか道を曲げてしまって今のような作家になったんだよ」


「へ~、あの京子さんが・・・」

「ああ、いまでもファッション業界の顔であることは間違いないよ」


一方、律子と瑞穂は机で新しいノートパソコンで新しいソフトをつくる沙希を

驚異の眼差しで見ていた。律子にしても里での第二段の作業の時はいなかった。

眼を閉じ物凄いスピードでキーボードを叩き続ける沙希、

電話が鳴る直前に手をとめ、受話器に手を伸ばすとベルが鳴ったのだ。

「はい、早瀬です。・・・・わかりました。すぐまいります」

といって受話器を置く。


「じゃあ、行きましょうか。土御門さん」

という沙希に

「はい、部長」

と瑞穂が返事をする。

サラリーマン社会では当たり前の光景だがこんなこと初めての瑞穂は嬉しくてたまらない。


「じゃあ、行ってらっしゃい。私はここで待っているから」

と律子は言ってから

「瑞穂ちゃん、前から言っているようにマネージャーも秘書も同じだから

何でも手帳に控えておくことは忘れないようにね」

と二人を送り出す。


「律ちゃん!さすがね」

とまゆみ社長にいわれるが、心配でしかたがないのが本心である。

こうしてソファで待つ4人に、じりじりと時間が過ぎていく。


5階の応接から会議室へ場所を移したNASAからきたアメリカ人2名、

この社のプレジデントから紹介される開発者をいまかいまかと待っていた。

ドアがノックされ入ってきた沙希と瑞穂を見たその反応は

『嘘だろう?』『何か騙されているのでは?』と二人顔を見合わせていたが

通訳の日本人の若い女性の反応は違った。

通訳としてはあるまじき行為だったが、勢い良く立ち上がって

「きゃあ、日野あきあさん!」

と顔を赤くしながらそう叫んだ。そしてつい沙希に近づいて握手を求めたのである。


そんな行為をする自分達の通訳に訳がわからないと、強く説明を求めた二人のアメリカ人。

あたふたしてしまった通訳の手助けをしたのが沙希だった。

その見事な英語で

「その通訳の人が悪いのでも何でもありません。最近私がこの仕事以外に

女優の仕事をすることになり映画やテレビで少し顔を知られるようになったからです。

だから通訳の女性を叱らないでください」


「おおう~~」

とNASAのアメリカ人達、納得したようで

「そうか、私達が来日したその日、ホテルのレストランでも

ロビーでも同じテレビ番組をしていたが・・・そう、あなただ。あなたの顔はそのテレビで見た」

と沙希を驚きの眼でみてから握手を求めてきた。

「おおう、ファンタスティックね」

と喜んでいる。


開発した装置の専門的な会話は沙希が英語を話せることで

意思の疎通は限りなくおこなえたし、

それ以外の会話は通訳の女性にまかせるという沙希の優しさを

アメリカ人二人も判ってくれたようで楽しい会議となった。


「沙希!どうしてあなたはこんな追尾装置を作ったのですか?」

という会話にもなった。

これは京都での関係者しか知らないことだったので佐野社長も沙希の話を聞いてビックリ仰天だった。


「京都での映画の撮影のときに女性が連続して殺される事件がありました。

私はあることでそのことを知り推理し犯人をつきとめました。

女性達の遺体が日本の神が守る山に埋められているのが判ったのですが

どうしてもその場所がわかりません。

例え犯人を告発しても証拠がなく、すぐ社会に出てきてしまうのは判りきっていたのです。

それにその山は微弱な電波しか通さない地質でできているので

犯人達の車につけるには普通の発信装置では駄目なのです。

だから新しく発信装置を作る必要性にせまられました。

それとそれまでに私の親類の刑事に頼まれて作ったモバイル型のパソコンに

強力な受信装置もつけていましたので、それを組み合わせれば

例え地球の裏まででも追える強力さは持ち合わせているでしょう」

本当のことは言えないので脚色をした。


「そんな凄い経験から生まれた装置なのですかあ」

通訳しながらも女性は驚きを隠せない。

「お聞きしたいのは例えばその受信装置をロケットに乗せれば、どれくらいの距離を追尾できますか」

と聞くと

「少し待ってください」

と持ってきたノートパソコンを開けるとなにやら計算を始めた。

だがいくらパソコンを見慣れているアメリカ人にしても

沙希の神業のようなキー捌きは初めてのもの、

その上目を閉じているとしたらもう驚きを通り越している。

あっけにとられたような顔でその作業を見つめていた。


沙希は手を止めるとパソコンの画面をアメリカ人のほうへ向け

「この計算式は見覚えはあるはずですが、これでいきますと約1光年」

とこともなげにいう。

「1光年?!」

両手を横にあげ納得したのかしないのか。


「今の装置はゲーム機の部品を組み合わせて作っただけですから

発信装置としての目的で部品を揃えて作れば約10光年は追尾できるはずです」

とこともなげにいう。

「あれはゲーム機の部品でつくったのですか?」

「ええ、あの時何の部品もありませんでしたから」

「あのう、すいません。その計算式をプリントアウトしていただけませんか」

というアメリカ人、NASAのスコット・アルダがいう。

と佐野社長が自ら受話器をとって大崎秘書に指示をした。


「ミス沙希!私そのモバイルパソコンもみたい」

というジョン・ロバート。

沙希が佐野社長を見ると

「ああ、デモ機として10台あることはあるが・・・・」

「社長!どういうことですか?」

「まだ、その受信装置とやらはついていないんだ」

「スキャナは?」

「それはこの装置の要となるからついているよ」

「じゃあ、それを1台もって来てもらえませんか?」

「だって・・・」

「いえ、そのスキャナが受信装置になるのですよ。あるプログラムを組み込みさえすれば」

「わかった」

と今度は自ら部屋を飛んで出ていく。


沙希と社長の会話は通訳されているのでジョンもスコットも判っていた。

「あのう、さきほどゲーム機の部品で発信装置を作られたとお聞きしましたが

どれ位の日数で?」

「日数?」

「ええ、日数ですよ」

沙希が考え込んでしまったので二人のアメリカ人『あれえ?』という顔をする。

そこで専務の静香が助け船をだした。


「ふふふ、今沙希が考えてしまったのは日数という質問をしたからですよ」

「日数っといってはいけなかったのですか?」

「ええ、実際の製作期間をいえば自分の能力を持ち上げてしまうと考えて困っているのですよ」

「能力を持ち上げる?」

「私自身はその場にいなかったのですが、私の姉達は目撃していました。

壊れたゲーム機から発信機を作ったのは約30分!」

「30分?・・・・・」

「ええ、たったの30分なのですよ」

呆然と聞くジョンとスコット。


「信じられん・・・この機械をつくるのにたった30分とは・・・・・」

「それが本当としたら、ミス沙希!あなたは天才だ、いや超天才だ」

というスコット。

目の前にある小さな発信機を見て、いとおしむようになでているのだ。


大原秘書が持ってきた小型のプリンターから打ち出された

計算式を見て考え込むジョンとスコット、

NASAで長年宇宙開発のためのロケット製作に関わってきた二人だ。

計算式を検算するのは難しいことではない。

ただこんなにややこしい計算をあんな短時間にしてのける

アメリカ人からみれば小学生のようなミス沙希のどこにそんな能力が隠されているのだろうか、

しかしその可愛さにはジョンもスコットも参ってしまっていた。


そんなときに佐野社長が部屋に入ってきた。

「さあ、早瀬くん、これだ」

とモバイルを渡す。

モバイルのスイッチを入れた沙希、ウインドウズのDOSプロントにプログラムをうちこんでいく。

眼を閉じてのキー打ち驚異のスピードは変わらない。


その間に佐野社長、沙希のパソコンをさわってどんな計算をしたのか

見ようとしたのだが、ゲームらしきものが入っているのに気が付いた。

沙希がくるまでは何のデータ-も入っていないパソコンであったのにもうゲームが入っているのだ。


「社長、それは先ほど社長から電話があるまでに早瀬部長が何やらパソコンで作っていたものです」

という瑞穂秘書の言葉に眼をむく。

「だって君、あれは15分ぐらいだったんだぜ」

「はい、ちょうどそれぐらいの時間でした」

という瑞穂の言葉に、じっと沙希を見てからゲームのファイルを開けてみる。


音楽は無いもののゲームの題名がその液晶画面に映し出される。

『知恵の輪』それは三次元の映像のゲームだった。

シューティングやロールプレイングのような華々しさはないが、なぜか夢中になってしまう。

いつのまにかジョンもスコットも社長の後ろから覗いている。

言葉がいらないからすぐにゲームを飲み込んだのだ。


「あのう、終わりましたけど」

という沙希の言葉にも何やらゲームのほうに心が残っている。

「あとでコピーして差し上げますから」

という声でやっと仕事へと頭を切り替えていく。

その前に佐野社長から沙希に質問があったのは言うまでも無い。


「このゲームは?早瀬君」

「ゲーム?あっ・・・はい、少し時間があったので作ってみただけです」

「時間があっただけで、しかもたった15分の短い時間でこんな面白いゲームを作るのかね。

一体君の頭の中はどうなっているのか不思議で仕方がない」

という佐野社長に対して余程不思議だと首を振りつつ

「このゲームがそんなに面白いですか?」

「ああ、もう少しいろんな知恵の輪を増やしたらゲームソフトとして販売できるよ」

「じゃあ、あとで増やします」

と簡単にいう沙希。

「でも、第二段第三段を出されるのでしたら会社の皆さんにおまかせしてもよろしいでしょうか」

「それでいいのかい?」

「ええ、まだ平安京のソフトがあと2弾開発しなければなりませんので」

「良かった。又早瀬くんが忘れていたのかと思っていたよ」

と社長は笑う。沙希のいろんな仕事のことを知っていて言うのだから経営者としては有能ではある。


「これが受信機となったのですか?」

「はい!」

といってスイッチを入れると、まずは自転する地球が現われ、

発信機のスイッチを入れると地球上の一点が赤く点滅するのだ。

そしてズームしていくと日本、そして東京とズームが自動的にくりかえされ

そして今地図上この地を赤い点が示していた。


「今はまだ詳細な地図が入っていませんが国別、主要都市ぐらいなら

このままで判るようになっています」

「詳細な地図を入れるのには?」

「いやですねえ、NASAのあなた達なら地球上のどんな地域の詳細な地図なら

簡単にこのモバイルにデータ-をインストールできるでしょうに」

とニッコリ笑うが

モバイルを手にとってキーを打ち始めた。

そしてある画面になると

「さあここからは私は入ることが出来ませんからおまかせします」

とモバイルを渡してしまう。


沙希の顔をじっと見てから

スコットがパスワードを入れ地球上の詳細な地図をモバイルにインストールをしていく。


「これで全て終わりました」

といってモバイルの画面を切り替えるスコット。

アメリカの機密事項にはなんの興味もない沙希、

知らないふりで瑞穂がメモをとる手元を見つめていた。


「そのモバイルと発信機は差し上げます。でもモバイルはわが社の特許製品ですので

どこでも作られるものではないことをお知らせしておきます」

と佐野社長がいうとアメリカ人たち強く頷き

「判っています。一応ここで仮調印をしていきます。

そして私達の片方が地球を一周回るテストをしてきます。

そして、その結果がよければ本調印をします。

第一回の注文数は1ロット1千台で3ロットお願いします。

我々はいろんな人の声を聞きます。

そしてその声を反映してバージョンアップしてください。

その時は我々使っていたモバイルを全て破棄して新しいものに替えます」

といって立ち上がって社長と握手をする。


そして沙希と握手しながらスコットは

「ミス沙希、一度我国に来て下さい。いえ、来るべきだ。

あなたの能力わが国でもトップレベルだし女優としても優れていると思います。

実はわたしの義兄は監督のジョージ・ルークです。

彼は貴女のことを知ったら日本に飛んでくるとおもいます。

ホテルでテレビを録画しましたので、帰ってから彼にそれを見せるつもりです」



「いえ、あまり私を買い被らないで下さい」

「いや、ミス沙希!あなたは天才だ。わたしはあなたとNASAで再会する日を待っています」

と今度はジョン。


こうして今日の第一の仕事は終了した。

ジョンとスコットは発信機と受信機となるモバイルと共にあのゲームの入った

CD-ROMを喜んで持って帰ったのはいうまでもない。


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