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この作品には 〔ガールズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。

書く習慣まとめ

お題「沈む夕日」

作者: コトノハ
掲載日:2026/05/09

「見て、沈む」

「綺麗だね〜」


とうに終わりだった。足元を濡らす海はつつがなく満ちゆく。現実的な光だけが空を照らした。あかいあかい夕焼けだった。


「もうダメかぁ」


ぽん、と小気味よい音を立てて瓶を開ける。ざらりと錠剤を手のひらに出す。


「ほい」

「ありがとー」


ふたり流れ着いて数ヶ月。この建築物が徐々に沈んでいることに気がつくのに、そう時間はかからなかった。


だからと言ってどうも出来なかった。懸命に狼煙を炊いても、漁船ひとつ見えはしない。座標はおろか、海域も分からない。ここは一体どこなのか。


拳を握ると、ぎっ、と薬の糖衣が擦れる音がした。


「あ、最後一服よき?」

「もちろ〜ん」


彼女はポケットに錠剤を突っ込むと、タバコとライターを取り出した。小柄な体格にはどうも似合わないそれをふかす。


幸いにしてここにはある程度物資があった。私達は死までのつかの間の猶予を、探索と娯楽に費やした。


「ふー……」

「屋上、まじ寝心地悪かったね〜」

「それはガチでそう。最後くらいふかふかにせえやって感じー」


副流煙。気にする気にはもうならない。磯の香りを、キツいミントがかき消す。もう足首まで冷たい。


「終わりか」

「終わりだねー」


あっ、と声がした方を見ると、タバコが水面に流されて沈んでいくのが視界の端に写った。


「あぁ、ラスト一服……」

「どんまい」


手のひらを開くと、手汗で薬がベタついていた。特に取り出す必要は無かったかもな、と今更思った。


「いくか」

「しゃーなし」


ずるりとふたりでフェンスに体重を預けて座り込む。


「あ、冷たっ」

「うぉ〜、おしり冷える……」

「ま、これからうちら全身ヒエッヒエになるけどね」

「笑えな〜」


ちゃぷんと波の音がした。息を吸う音がした。


「せーのっ」


甘い。噛み砕くと苦い。嚥下しても相変わらず不味かった。


「おえ」

「はい、第二陣」

「不味すぎて先に死ねる」

「置いてかないで?」

「分かってるよ」


……数十、百は超えたか。日はもう沈んで、暗い。寒い。


肩に体重がかけられた。ぬるい彼女は、遅い呼吸をしている。それに妙な安心感を覚えて、そのつむじに頬を埋めた。


先程置いた空瓶が、もう波に攫われていく。ふと目を閉じると、開かない。見えない中で、背を濡らすほどの波が跳ねて、飛沫が首筋にかかる感覚がした。

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