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控室で待っていた侍女たちと共にワインで汚れたドレスを着替えている中、1人の侍女が悲鳴を上げる。
「きゃぁ、メリッサ様、この血と痣は一体…っ」
侍女が驚いたのはメリッサの胸の下あたりに残るいくつもの痣と血の跡だった。刃を通さないように固い表紙の本を選んだこともあり、ドレスの中で肌を傷つけてしまったのだろう。結婚前は領地でいつも走り回って傷を作っていたメリッサには、特に気にするもののように思えなかった。
「あぁ、気にしないで。コルセットの中に隠していた本が体に当たって出来ただけよ。でも、刺されるよりマシでしょ?」
「そんな…。お待ちください、今すぐ治療道具を持ってまいります!」
そうして侍女の1人が慌てて出て行ったあと、扉の隙間からヴァンスがこちらに顔を覗かせる。
「もうパーティも終わりだから、体を傷つけるような本は抜いておけ。後は飲み物や食い物に気を付けておけば、害はないだろうよ」
「鎧を持ってきてくださるんですか?」
「…いいや、少しは頭を使え」
ヴァンスはそうしてつかつかと中に入ってくる。侍女たちが困ったような表情に変わったために、メリッサは一度令嬢たちを部屋から出るように促した。
「そもそもお前らにはこの硬いコルセットがあるんだから、他の令嬢の細い腕じゃそう簡単に体を傷つけることはない。首を切られたってせいぜい血が流れるくらいで、俺が傍にいる限りは深い傷までつけさせない。気を付けるのは無防備な胸元だけだろ?」
まだ着替え途中だったメリッサの胸元に、ヴァンスはどこからか取り出したのか豪勢なネックレスを掛ける。様々な宝石が飾られたその品は、メリッサの胸元に綺麗に広がった。
「…重すぎるわ」
「こんぐらいじゃらじゃらついていた方が、ナイフの先端が胸元に入りづらいだろうよ。まぁ、胸元は最悪これで守れるんだから、後はナイフが見えたら俺の背中に隠れれば良い」
「そうは言ったって…」
「俺だってお前が勝手に目の前で刺されるより、愛する女のために自分の身を差し出して守った方が”運命の女に夢中の王子”だって見られやすいだろ?」
そう笑った彼が先に会場に戻ると部屋を出て行き、入れ違いにやってきた侍女から治療を受けることになったメリッサ。ふと、自分の姿を鏡で見ると、やっぱり胸元の豪勢なネックレスは自分には似合わないと感じる。
「本当に、こんなので身を守れるのかしら…」
動く度に感じるネックレスの重さを感じながら、メリッサは大きくため息を吐くのだった。




