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国内外の貴族たちが集まる結婚祝賀パーティ当日、会場にいるメリッサは予想以上の令嬢たちから睨まれていた。扇の裏で苦笑を漏らしながらも、ヴァンスに選ばれた妻らしく堂々と振舞うメリッサ。
メリッサは現在、ヴァンスにエスコートされながらも、次々に挨拶しにくる貴族たちににこやかな笑みを浮かべる。中にはまるでメリッサに恥をかかせようと専門的な質問をする貴族たちまでいたものの、シャルルに厳しく詰め込まれてきた今はどれも上手く交わすことが出来ていた。
更には、メリッサが少し言葉に詰まっても、ヴァンスが上手くフォローしてくれていた。初夜の一件で貴族たちには”愛する妻を前に暴走してしまった”と恥ずかしい噂が流れてしまったヴァンスだが、今はもう全てを受け入れることに決めたらしい。
今の彼は、以前よりもずっとメリッサを心から愛する最高の旦那様としての演技が出来ていた。
「ちなみにヴァンス様、手荷物検査に効果はあったのですか?」
「…はは、怪しい小瓶や毒が塗られた針まで恐ろしい数の収穫だった。まぁ、それも一部だろうがな」
ちょうど挨拶に来る貴族が入れ替わるタイミングでそんな会話をするメリッサたち。すると、次にやってきた貴族の中にヴァンスを想っていた令嬢がいたのだろう。メリッサとヴァンスが仲睦まじく話していると勘違いして、恐ろしいほど憎しみが籠もった視線を向けてくる。
「第2王子に挨拶申し上げます」
「久しぶりだな、クライン侯爵」
ヴァンスが横でそう告げたのを聞いて、メリッサはシャルルから詰め込まれた貴族事情を思い出す。
クライン侯爵家は王家と昔から縁の深い侯爵家であり、現在は外国との貿易によって大きな利益を出している貴族だ。一方で、娘のジュリーをヴァンスの妻にしようと様々な手段を使ってきたことから危険人物だとも教えられている。
万が一のことに備えて、コルセットに手を置くメリッサ。そこにはメリッサが本棚から持ってきた小さな本を挟んでおり、万が一刺されたときのお守りのようにも思えた。
「えぇ、殿下に置かれましては私の娘であるジュリーのことを可愛がっていただきましたので、当然うちの娘が殿下の花嫁になるかと思っておりました。そんな殿下も今や運命の相手を見つけたようですね」
「あぁ、彼女以外は考えられないんだ」
歯の浮くようなそんなセリフを告げ、扇で隠されたメリッサの頬にキスをするような動作をするヴァンス。その瞬間、後ろに控えたジュリーと呼ばれた少女の顔が歪んだ気がするが、ヴァンスは気にせずにメリッサの肩を引き寄せ、仲の良い夫婦を演じていく。
「…そ、そうでございますか。いやぁ、まったく残念でございます。今日のパーティはジュリーの新たな婚約者を探す出会いの場にさせていただきますね。それでは」
公爵の態度に、王家の騎士たちが一瞬顔を顰めたのが分かる。結婚祝賀パーティにやってきて、メリッサを無視してヴァンスにだけ挨拶しただけでなく嫌味な台詞で去っていく侯爵。しかし、メリッサは変わらず笑みを崩さないまま貴族たちの対応を続けていく。これくらいの嫌がらせなら、気に掛けるまでもなかった。
一方で、ヴァンスの方は…そうもいかなかったらしい。
「あの男は前々から気に食わないと思っていたが…この機会に一度、分からせてやるのも良いだろう」
ヴァンスが後ろに控える部下になにやら命令したのを見て、驚いたように声を掛けるメリッサ。
「…何をする気ですか?」
「はは、酒に酔って気が大きくなる薬を混ぜてやるだけさ」
にやりと笑うヴァンスの表情が悪戯を計画したの子供のように思えて、メリッサは少し呆れてしまう。世の中の令嬢たちは、こんな彼の姿を愛おしいだとか可愛らしいと感じるのだろう。
しかし、今のメリッサにはやっぱり…躾のなっていない犬としか思えず、今後起きるであろうトラブルを自分が後処理をすることにならなければ良いと静かに願うのだった。




