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数週間が経って、メリッサは毎日を忙しく過ごしていた。初夜のトラブルのせいで長い間ベッドから動けなくなっていたこともあり、スケジュールが一気に狂ってしまったからだ。
世間ではヴァンスとの運命的な出会いからの結婚と知られているため、王家の妻としての礼儀作法やしきたりを学ばないままに結婚したメリッサ。そんなメリッサにとって、今からでも学ばないといけないことは山ほどあった。
メリッサの教育係としては、ヴァンスの乳母であるシャルルが選ばれた。普段は優しい彼女だが、家庭教師の仕事を始めると鬼のように恐ろしくなる。ヴァンスの教育係をしていたという彼女だが、確かに今のヴァンスですらも彼女を目の前にすると少し委縮する理由が分かる。
シャルルからの教えには確かに愛は感じるものの…彼女が求めてくる理想が高すぎて、追いつけない自分に情けなくなる。それでも、メリッサは必死に毎日を過ごしていた。
「…さて、今日はここまでにしましょう」
シャルルからそう告げられ、肩の力を抜くメリッサ。長い時間座っていたこともあり、メリッサは体を動かしたくて厨房でお茶やお菓子の用意をしてくると提案をした。今の時間なら、午後のティータイムにはちょうどいいだろう。
すると、シャルルは折角だからと王妃も誘い、3人は王妃の私室でお茶を飲むことになったのだった。
「メリッサの話はいつもシャルルから聞いているわ。とても真面目な子が来てくれて、私は本当に嬉しいの。だって…今までのあの子だったら、どんな相手を連れてくるかずっと不安だったんだもの」
ヴァンスと同じ銀の髪と深紅の瞳を持つ王妃がそう笑うと、隣でシャルルがタルトを口に運びながら何度も頷いていた。
「本当にそうですよ!メリッサ様は真面目に話を聞くだけでなく、孤児院訪問でも率先して料理や洗濯を手伝ったり、子供たちとすぐに打ち解けたりと本当に素晴らしいです!国民たちからの反応も良いんですよ」
いつもは厳しいシャルルの誉め言葉に、メリッサは「ありがとうございます」と告げてにっこりと微笑む。元々領地で領民たちと過ごすことが多かったメリッサにとっては、人々と関わる仕事は苦ではなかった。
むしろ、豪華絢爛なパーティや貴族同士の腹の探り合いの方がメリッサにとってはずっとずっと苦手なことである。
しかし、まもなく国内外の貴族たちを集めて結婚祝賀パーティを開くことが決まっていた。メリッサにも準備が必要だろうと結婚式からは少し時間を空けて開催が決まっていたものの、時間は驚くほど早く進んでいってしまう。
王妃や乳母のシャルルには色々とフォローしてもらっているものの、メリッサには自分の立場が王家の評判に直結するため、大きな不安が残ったままだった。
「夜会でも上手く振舞えると良いのですが…」
「シャルルを信じれば大丈夫よ。それにメリッサが社交界に慣れていなくても、ヴァンスがフォローしてくれるはずだもの」
「えぇ、最近は色々鍛えているみたいですし、何かあってもメリッサのことを守ってくれますよ」
楽しそうに笑う王妃と乳母に合わせて、「そうですね」なんて告げてにっこりと微笑むメリッサ。けれどやっぱり、心の中では大きな不安が残っていた。




