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きっといつかは最高の旦那様  作者: 黒塔
番外編1【セドリック視点】 誰もが待ち望んだ結末を
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「ちゃんと息をしなさい。あなたがパニックになると、苦しくなるのはお腹の子よ」



そんなとき、どこからか声が聞こえる。セドリックの横にいつのまにかやってきた女性は、空が映ったような美しい蒼の髪を揺らしながら、妊婦にそう声をかけた。不安そうにしている妊婦を安心させるように手を握り、柔らかな微笑みを向ける。



「まずはゆっくりと息を吸いなさい。そして、私の合図に合わせて、お腹の子を外に出してあげるの。…そこのあなたは彼女の足元に行って、産まれてきた子を受け止めるのよ」



そう言った女性が橙の瞳でじっとセドリックのことを見つめる。セドリックは困惑しながらも彼女の指示に従って行動した。その間も女性は妊婦を勇気づけるように声を掛けていき…それから暫く経った頃、セドリックは小さな赤子をその手に受け取ることとなった。



ちょうど、女性の帰りが遅いことを気に掛けてくれた妊婦の夫が森まで見回りにきてくれたおかげで、彼女と赤子はすぐさま診療所に運ばれることになった。夫婦からは何度も感謝を告げられた後、その場にはセドリックと蒼色の髪の女性だけが残される。



「こっちに井戸があるから、その手を綺麗にしたら?」



いつのまにか落ちているベリーを集めていた女性は、セドリックをここから少し離れた場所にある井戸に案内する。そうしてセドリックが汚れた手や体を綺麗にしている間、彼女は近くにある木に寄りかかりながら拾ったベリーを口にしていた。



そんな中、セドリックはようやく心の余裕ができ、目の前の彼女は実は人間離れした美しさを持っていることに気づいた。まるで肖像画に描かれる女神のような彼女。



(…あぁそうか。彼女はこの島に信仰される神なのだろう)



そう気づいたセドリックだったが、彼女をそれ以上追及するつもりはなかった。身支度を整えたセドリックは、ゆっくりと彼女の側に歩いていって隣に座る。すると、いつのまにか隣に居たはずの彼女は猫の姿に変わっており、こちらを伺うように橙の瞳で見つめてきた後、そっとセドリックの膝へと乗ってきた。





「妊婦の体が冷え切っていく病気があるんだ。俺の身近な人もその病気で苦しんで…子供を残して死んでしまった者たちもいる。彼女たちを救える方法を探しているんだ」



それはセドリックがまだ誰にも明かしてはいなかった旅の理由の1つだった。もちろん、多くの世界を見てみたいという本心があって、最初は自由に旅をしていた。ただ、メリッサの姿を見た今は、亡き母がどんな思いで自分を残したのかをより考えてしまうのだ。



しかし、セドリックの言葉に答えるつもりはないのか、膝の上の猫はただ「にゃー」と泣くだけだった。人間の思いにそう簡単に神が応えてくれるはずもないだろう。ゆっくりと伸びをした猫はそのままセドリックの膝で丸くなる。セドリックもそんな猫を見て、自分も木に体を預けて静かにと目を瞑ることにした。



(今回もまた空振りだ)



そう考えるセドリックの側を、そよそよと風が過ぎていく。



セドリックはメリッサの一件を見て、もし自分の妻がアイスロック病になって、冷静でいられるのかと不安になった。ヴァンスがあれ程にまで取り乱して、ローガンもまたセドリックには妻を看取るまでの苦しみを話してくれた。


あの国では何組かに1組、アイスロック病に苦しむ夫婦がいるのだ。セドリックの母も同じ病気に苦しみ、どんな思いで過ごしていたのだろう?




ため息をついたセドリックは、ふと目の端に置かれていたベリーを見る。そうして、空腹を感じたセドリックはベリーを口にしたのだが、口に広がるのは甘酸っぱい味…ではなかった。



ガリっと何かの硬さを感じ、セドリックは驚いて口の中の物を掌に出す。そこにあるのは橙に輝く宝石だった。



「意外に身近なものが薬になるはずよ」



そう声が聞こえたのはセドリックの膝にいる猫からで、じっとこちらを見つめる橙の瞳と目があった。しかし、その瞬間に突風が吹き、セドリックが一瞬目を離した隙には、膝から猫の姿が消えているのだった。





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