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場面はメリッサの病気が完治した少し後のこと。
セドリックは鏡に映る自分の姿を確認し、母親譲りの碧に輝く瞳を隠すように眼鏡をかけた。お忍びで外にいくときはこの格好をしており、自分がまるで王子に見えないかのような薄っぺらい服とぼろぼろのローブで目的の場所に向かう。
ノックした執務室に返事を待たずに入ると、書類に頭を悩ませている様子のヴァンスがいた。
「ヴァンス、俺はもう少しだけ自由にさせてもらう。陛下には許しをもらっているし、もう少しだけ国のことは頼んだ」
「へ?」
驚いた様子のヴァンスの姿を背に、セドリックは執務室を出る。後ろからは慌ただしく追いかけてくるヴァンスの足音が聞こえ、肩がグイッと後ろに引かれた。
「ま、待て!俺はそんなの聞いてない」
「あぁ、だから今言ったんだろ!」
「そんな屁理屈があるかよ!!」
長く伸びた銀色の髪を後ろにまとめ、以前よりもずっと柔らかな雰囲気に変わったヴァンス。数年前までの好き勝手に遊び歩いていたときの彼を好んでいなかったわけではないが、セドリックにとっては今の彼の方がとっつきやすかった。
出産後に目覚めないメリッサを抱きしめ続けてぼろぼろだった彼も、最近はようやくゆっくり眠れるようになったのか、目の下にある隈は消えかけていた。ただし、メリッサとの関係はどことなくまだ気まずそうにしており、むしろメリッサの方が気に掛けるような視線をヴァンスに向けているのが気になった。
(…でもまぁ、夫婦の問題だし、他人が入るまでもないだろう)
「ほら、お前が散々遊び歩いているときは…」
「あぁ分かってる。数年前までは全て押し付けて、時には女遊びの尻拭いまでしてもらった」
「そうそう、だから俺ももう少し息抜きってことで」
ため息を吐くヴァンスの背中をバンと大きく叩いた後、セドリックは廊下を歩いていく。その背中をヴァンスが追いかけてくることはなかった。




