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場面は王宮にあるメリッサの寝室。メリッサが目覚めてから3か月が過ぎ、メリッサの体調はゆっくりと元に戻っていた。
双子たちがメリッサ以外では泣きじゃくって寝付かないということもあって苦労させられることが多いものの、メリッサにとっては今までベッドで自由を奪われていた日々に比べればずっとずっと幸せで満たされた日々だった。
そんな中、子供たちが寝つき、ようやくベッドに横になれたメリッサの部屋に、仕事を終えた様子のヴァンスがやってくる。
「少し話がしたい」
そう話す彼の表情は、どこか緊張した様子だった。
メリッサが目覚めた後、ヴァンスはメリッサに対して過保護なほど優しくしてくれたが、同時にどことなく一線を置かれているようにも感じていた。メリッサもヴァンスもお互いに忙しくすれ違う日々でゆっくりと向き合うことは出来なかったが、ヴァンスがこうして歩み寄ってくれた今、メリッサもこの機会を逃したくないと感じた。
今の自分たちは離婚したままでその後の手続きをしていないため、元夫婦という立場なのである。
セドリックの指示で腕の良い医師が常駐している王宮での生活を許されているメリッサだが…本来ならばここにいていい人間ではなかった。
(私たちの関係を、きっと彼も進めようとしてくれているのね)
「どうしたの?」
メリッサがそう声を掛けると、ヴァンスは少し不安げに瞳を揺らしながらじっと見つめてくる。その後、彼が決心したように一度目を瞑ると、震える手で小さな小箱を取り出した。
「君に、受け取って欲しいものがあるんだ」
それは、以前、メリッサが受け取れなかったあの結婚指輪だった。ヴァンスは当時のことを思い出しているのか、苦しそうに声を漏らす。
「メリッサがもう俺のことをどうとも思っていないなら、この指輪を拒否してくれて構わない。俺も…ちゃんと君のことを諦める」
ヴァンスの言葉にメリッサの胸が熱くなる。
メリッサは少し考えた後に「少し待ってて」と口にすると、そのままベッドサイドに置いてあるテーブルの小さなクッキー缶を開けた。ベリーのクッキーが描かれたそのクッキー缶だが、中に入っているのは手紙だった。
ずっと渡す勇気がなくて、こんな風に子供じみた隠し方をしながらずっと寝る前に読んでいた手紙。困惑気味のヴァンスに手渡すと、彼はゆっくりと手紙を開いた。
中に書かれているのはメリッサの本心を綴った…崩れた文字である。
「寝たきりになっている間に、ジュリーに言われたの。素直になるべきだって。そうしてジュリーに手伝ってもらって手紙を書いたんだけど…凄く読みづらいかもしれない」
手紙にはメリッサが別れを告げたことを後悔していることや、本当はずっと一緒に過ごしていきたかったことが涙の痕と共に記されていた。
「どうか…私も貴方の側にいさせてください」
メリッサの言葉と共に、ヴァンスがメリッサの体を抱きしめてくれる。そうして暫くお互いの早い心音を聞いたあと、彼がゆっくり離れてメリッサの指に橙の宝石の指輪を嵌めてくれた。指輪のサイズはメリッサの指にぴったりだった。
「メリッサ。これから俺は、ちゃんと君のことも子供たちのことも守るから」
「えぇ。これからもよろしくお願いします」
ヴァンスがメリッサの頬に触れ、ゆっくりと顔を近づけてくる。メリッサもそうして静かに目を瞑り、彼からの口づけを受け入れるのだった。




