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「…ここは…」
メリッサが気づいたとき、そこは春の陽気を感じるような温かな場所だった。なにもない真っ白な場所で自分が漂っていることに気づいたメリッサ。メリッサはハッとして自分のお腹を見てみると、そこは何もなかったかのように小さくなっていた。
2人の子たちを育てるために肌が伸びきって、妊娠線が出来ているわけでもない白いお腹。そんなお腹を見て、メリッサは途端に胸が締め付けられるかのような思いがした。
「あの子たちは、無事生まれたのかしら?」
ここがあの世の世界とでもいうのなら、自分1人が漂っていることを良い方向に考えたい。きっと彼らはあちらの世界で沢山の人に愛され、祝福されて育つだろう。
(…後悔はないわ。だってずっと、わかっていたことじゃない)
何度願っても神様はメリッサの病気を治してはくれなかった。それに、アイスロック病で命を落としたのはメリッサだけでなく、身近な場所にも何人もいた。彼女たちだって絶対に生きていたいと感じていたはずで、周りの人々だって彼女たちが生きるのを望んでいたはずだ。
でも、そんな願いは誰も叶えてくれなかった。
あの子たちが幸せなら…いや、あの子たちとあの人が幸せで居てくれるなら…。
メリッサはそうして、最後に見たヴァンスの顔を思い出してしまう。もうずっと、彼の苦しそうな顔や泣きじゃくっている顔しか見ていなかった気がする。思えば、もうずっと彼の笑顔を見ていない。
ヴァンスの政略結婚に選ばれた女性が自分じゃなかったら、彼は幸せだっただろうか?誰かに愛を囁いて、ベッドに連れ込んで…。
でも、彼の妻となる人は結局苦労することになるはずだ。嫌がらせをされたり、誘拐されたり。きっと、ヴァンスの妻となった人にはそんな苦労があって、王家の妻というプレッシャーもあって…。
(ふふ…だったら、やっぱり私で良かったのかもしれないわ)
あの人の妻が私で、そして…本当は寂しがりやなあの人に、騒がしい子供たちを贈ることが出来て良かった。
(きっと、生まれた子は私に似て口うるさくなるわ。男の子なら…あの人に似て少し弱気かもしれない。それでもイケメンで可愛らしくて、2人とも多くの人に愛されて育つはずよ)
真っ白な空間で足を止め、そんな考えをしているときだった。メリッサの足元に、どこか見覚えのある子猫が顔を出す。
いつかは国王陛下とメリッサの出会いのきっかけになった猫。そして、いつかは貴族の令息たちに虐められそうになっていたあの猫である。そんな猫がまるで案内をするかのように、綺麗な尻尾を揺らしながらメリッサの前を歩き出したのである。
「あら、ついていけば良いの?」
メリッサがそう告げると、子猫は振り返らずに小さく鳴き声をあげる。メリッサはそうしてゆっくりと、子猫の後ろをついて歩いていくのだった。




