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「おい、これを受け取れ」
部屋で安静に過ごしていたメリッサの元に、ヴァンスがなにやら箱を持ってやってくる。メリッサが箱を受け取ると、中には初夜に引き裂かれていたアクセサリーが綺麗な形で修復されていた。
「ドレスの方はどうにもならなかったが…別に2度と着ることもないのだから良いだろう」
少し気まずそうに視線を逸らしながらそう話すヴァンス。メリッサはそんなヴァンスの顔を見た時、目元に紫色の青あざがあるのを見て、つい笑いが漏れてしまった。
きっとヴァンスはここ数日間、不名誉な噂と乳母から付けられた目立つ青あざで散々苦しんできたはずだ。
「ありがとうございます。…ふふ、いつもよりも男らしくなりましたね」
「うるせぇ」
「でも気にしないでください。私も愛を囁かれるよりも、乱暴な方が後々思い出さなくて済みます。私たちは時期がくれば別れるつもりですしね」
そう話をすると、ヴァンスはどこか気まずそうな顔をしてメリッサの瞳を見つめた。
いつもは強気な彼も、時にはこんな顔をするんだと気が付くメリッサ。実家で飼っていた犬が叱られたときは、こんな顔をしていなかっただろうか?
そんなことを思い出して、メリッサはまた口端を緩めてしまう。
「…」
「どうかなさいましたか?」
ヴァンスは何かを考え込むようにじっとメリッサの顔を見詰めた後、ゆっくりと口を開いた。
「俺は確かにお前のことは気に食わないし、父親から決められたこの結婚は不満だが、お前の人生を壊したいとは思わない。だから、そんな道具みたいな発言は止めてくれ」
ヴァンスの意外すぎる言葉に、メリッサは驚いてじっと見つめ返した。今までヴァンスからの言葉に思いやりなんて感じたことがなかったメリッサは、彼がどうして突然、メリッサを思いやるような言葉を口にしたのか理解できなかった。
「私は優しくされたほうが困ります。私はあなたにとって、簡単に捨てることが出来る妻なんですから」
自分たちはあくまでも政略結婚で、メリッサは王家にとっての道具にしか過ぎない。それは結婚前にメリッサが、何度も悩んだ末に出した1つの答えだった。
しかし、メリッサの言葉を聞き、ヴァンスは舌打ちをするとそのまま部屋を去っていく。腰から剣を抜いていたことからも、きっとこの後はいつものように兵士たちに当たり散らかすだろう。
ヴァンスは元々夜遊びばかりしていたが、結婚後は母親を騙すためにもメリッサだけを愛する演技をしている。そのため、夜遊びは当分の間、禁じられているのだ。
その代わりのストレス発散と言えば、兵士たちを剣で負かしていくこと。元々剣の腕はあったヴァンスだったが、ここ最近は訓練に付き合う兵士たちを連日疲弊させるほどに体を動かしているという。噂では、妻と将来の子供のためにも強い男を目指しているとされているが…巻き込まれている兵士たちにとっては散々なことだろう。
そんな兵士たちに申し訳ない気持ちはあるものの、メリッサは自分が彼を悦ばすことなんてできないために、どうようの日々が続くだろうと考えていた。…もしかしたら、メリッサが離婚してこの家を去るころには、ヴァンスだけでなく周囲の兵士たちも毎日の特訓でムキムキになっているかもしれないと感じ、少しだけそんな光景を見てみたい気持ちもする。
「本当に…出来た夫ですね」
メリッサの口から洩れたそんな言葉は、誰もいない部屋で静かに消えていった。




