-1
その日の早朝、目覚めたメリッサが感じたのは体の違和感だった。ここ最近、やけに眠気があったり、ぼんやりとする日々が続いていたものの…今日は完全に体が動かないのである。指先まで感覚があるのに感じるのは冷たさだけで、動かそうと力を入れることはできない。
そんな困惑を感じながらも、メリッサは隣で眠るヴァンスに声を掛けた。すると、眠い目をこすりながらも彼が目を開ける。寝ぼけた様子のヴァンスはメリッサを自身の胸の中に引き込もうとしたものの、体に触れた際に違和感を感じたようだった。
「…っ、なんだこの冷たさ」
「えぇっと、私も今目覚めて理解ができなくて。ただ…凄く寒い」
メリッサがそう話すとヴァンスはメリッサの体ごとシーツで抱きしめた後、メイドたちを呼んで寝室の暖炉に火を入れたり、医者を呼んだりと辺りが慌ただしくなった。しかし、その間もメリッサの体は冷えていく一方だった。
そうして少しして、医師の診察が終わると部屋にはヴァンスだけでなく王妃や陛下、乳母のシャルルまで集められ、医者の診断が告げられた。
「メリッサ様の病名はアイスロック病で間違いないかと思います」
医者のそんな言葉に泣きだす王妃と乳母たち。陛下やヴァンスにも病名に覚えがあるようだったが、メリッサだけは事情が見えない。
「あ、あの…その病気って」
「メリッサ様、落ち着いて聞いてください。貴方はヴァンス様との子を妊娠しています。しかし、この国では妊婦のほんの一握りが原因不明のこの病気に悩まされてしまうのです。…そうして、個人差はありますがこの病気によって母親が命を落とす確率は7割ほどだと言われています」
突然、医師から伝えられた言葉にメリッサの思考も止まる。そんな中、医師は気まずそうにしながらも病気の説明を続けた。
「アイスロック病の特徴は妊娠した母親の体が冷え切っていくところから始まり、徐々に臓器機能もゆっくりと止まっていきます。食事はお腹の子のためにも出来る限り取っていただきたいのですが、そのうち嚥下や消化も厳しくなるため、お腹の子は母親の体調を見ながらお腹から取り出すことになります」
「え、そんな…」
「言葉も徐々に発せなくなり、毎日の生活は介助が必要になり…特に出産時期が近づくに連れて意識も保てない母親が多い状態です。ただ、この病気はお腹の子を諦める、もしくは出産するなどしたあとは快方に向かう場合が多いです」
あまりのショックに王妃が倒れることになり、隣にいた陛下が王妃を支える。そうして、王妃の体を優しく抱きながら、陛下は少し目を伏せるようにしてとある話をした。
「前王妃…第1王子であるセドリックの母親も同じ病気だった。彼女は子を産むまで懸命に耐え続けたが…その後、帰らぬ人になった。メリッサ、君もお腹の子についてはヴァンスと共に話し合ってくれ」
そうして、陛下たちが去っていき、部屋に残ったのはメリッサと顔を俯かせたままのヴァンスだけだった。




