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「あら、この手紙…」
次々と部下たちによって積み上げられる書類に頭を悩ませる中、メリッサもメイドから1つの手紙を受け取っていた。それでいて嬉しそうにしているメリッサを見て、ヴァンスはすぐさま書類を進めていた手を止め、彼女の前に立った。
「それ、俺が読んでも構わないか?」
「乙女の手紙ですのに」
メリッサが少し躊躇する様子を見て、どろどろと自分の中で独占欲が湧き出るのが分かった。ここ最近はもうメリッサのことで心をかき乱されてばかりである。
メリッサの前に手を出し続けていると、彼女が渋々その手紙を渡してくる。手紙の主はローガン。山中に住む彼は木を加工して売っている男性であり、メリッサが川で流れついているのを見つけて助けてくれた人物でもある。
筋肉質な体と日焼けした肌、そして掘りの深い顔立ち。きっとメリッサもそんな男性の方が好みなのだろう。メリッサはいつもローガンからの手紙を楽しみにしては、すぐに返事を書いていた。
今日のローガンからの手紙にもメリッサの体調を心配するような言葉が並んでおり、ヴァンスの中で苛立ちが募っていくのが分かる。
「…なにか不満でも?」
じっとメリッサに見つめられ、ヴァンスは何も言葉に出来なかった。
ローガンがメリッサを助けてくれなければ、こうして無事なメリッサを見ることはできなかったかもしれない。ただ、意識のなかったメリッサをローガンが介抱したという事実も、メリッサがローガンを特別に思っているという事実も自分の中ではどうしても素直に認めたくなかったのだ。
「いや、全て君の好きにして構わない。彼への報酬だって金銭的に条件を出すことはないから、自由にしてくれ」
そうして嫉妬を隠しながらもメリッサに手紙を返して、執務机に戻る中…ヴァンスに嫌な考えが思い浮かぶ。もしかしたらメリッサは、後に彼と結ばれるのかもしれない。
ヴァンスはメリッサを手放すつもりがなかったが、当初からメリッサと陛下の間では契約結婚の話がされていた。なにより、彼女は当初から跡継ぎを残した後は、役目を終えて自由になれる日を待ち望んでいたはずなのだ。
ヴァンスは執務机に座って書類に向き直ったあと、ちらりとだけメリッサの方に視線を向ける。ローガンからの手紙を読みながら、返事を書くために便箋を楽しそうに選んでいるメリッサ。
(…俺が彼女を愛すことができるのは…あとどれだけだろうか?)
今まで愛や恋を多くの女性に囁いていたヴァンスだったが、全てはただ言葉遊びのようなものだったと分かる。本気の恋はこんなにも苦しくて、胸が痛い。
そうしてヴァンスは執務机の引き出しを開ける。そこにある小さな箱には、以前までの結婚指輪をメリッサの指のサイズに戻し、彼女に似合わない豪華すぎる装飾を直したものがあった。
しかし、ヴァンスはこの指輪を彼女に渡すことができなかった。夢の中では何度も彼女に渡そうとするのだが、そのたびに彼女の指には既に他の指輪があるのである。
他の男の元で今よりもずっと幸せに過ごすメリッサ。そんな悪夢を見続けてきたヴァンスはやっぱり今日も指輪を渡すことはできず、静かに引き出しの奥にしまい込んでしまうのだった。




