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メリッサが失踪して更に一週間が過ぎた。食事も手につかず、目の下の隈もずっと濃くなっているヴァンス。メリッサの行方が知れないことは既に王宮内から街にまで広がっていたが、ヴァンスも陛下たちもまだ口を閉じていた。
世間では”メイドとの浮気を知られて、メリッサが実家に帰ったのだろう”と笑い話として広がり、メリッサの実家の方でもうまく話を合わせてくれているようだった。
メリッサの両親へはすぐさま事情を話し、今回のことを謝ったものの…彼らがヴァンスを責めることはなかった。むしろ、お転婆なあの子だからきっとどこかで生きていると、そう告げてくれる言葉がヴァンスにとっては苦しいほどに胸が痛く思えた。
それでも…メリッサの失踪の理由はいつまでも隠してはおけないだろう。
出版社には強く圧を掛けているものの…最近は記者たちの動きも厄介だった。そのうち、メリッサの失踪に関してはヴァンス自ら口にしなければならないだろう。本当は、王家なんて立場がなければ、今すぐ騒ぎ立ててメリッサの行方を追いたかった。
しかし、メリッサの失踪を知れば、この機会にメリッサを手に入れて逆に王家への無理な交渉条件に使おうとする奴らがでてくる可能性もある。メリッサをより危険に巻き込んでしまう可能性があるのだ。
(きっと俺が王子という立場でなければ…。いや、メリッサが俺に嫁ぐことがなければ、彼女は幸せな日々を過ごせていただろう。誰か他の男のもとで、幸せな妻として…)
ヴァンスは深くため息を吐くと、ポケットにしまい込んでいた指輪を手にする。
あの日、メリッサがジュリーに渡していた婚約指輪は、彼女からヴァンスの元へと戻ってきた。センスのない装飾と、彼女の細い指には不釣り合いな大きな橙の宝石のついた指輪。そんな指輪を覗き込めば、宝石が不安そうにするヴァンスの顔を映していた。
「どうして、あんな無茶なことをしたんだ…メリッサ」
少しで良い、彼女が生きている確信が欲しかった。
彼女の無事を祈りながら王宮で何事もなかったように過ごす日々は、本当に息苦しい。ヴァンスは湧き上がる後悔にずっと悩まされていた。




