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暫くして、荷馬車が止まった。メリッサはジュリーに息を潜めているように告げ、素早く彼女の手を軽く拘束する。そうしてメリッサも急いで縛られたふりをした頃、荷馬車にかけられた布が開けられた。
「っち、目覚めてやがったか。まぁいい、今日はここで一晩泊まる。下手な動きはすんじゃねぇぞ」
そう話した男がまた荷馬車の外に消えた後、なにやら誰かと話し込んでいるのが分かる。その後、荷馬車の中に顔を出したのは、また別の男だった。
「メイドのお前、ちょっと来れるか?食事の準備をするから手伝ってくれ」
さっきよりも人の良さそうな男が声を掛けてきたのはメリッサのほうだった。やっぱり、メリッサとジュリーの立場を勘違いしているらしい。
「奥様の身になにか起こるような状態でこの場を離れることはできません」
メリッサはジュリーと目配せしたあと、男に対してそう告げる。野蛮な男たちに囲まれた中、ジュリーを逃げ場のない荷馬車の中になんて置いてはいけないだろう。
「いや、問題ねぇ。俺たちは誘拐だけで、傷物にはするなって命令されているからな」
「おい!!簡単に話すんじゃねぇ」
「へ、へぇすみません…」
犯人たちの間にも上下関係があるのか、話しかけてきた男に別の男からそう罵声が飛ぶ。メリッサはこれ以上、長引かせても男たちを苛立たせるだけだろうと、ジュリーには「すぐに戻ってくるから、何かあったら叫んでほしい」と告げて荷馬車を降りる。不安げなジュリーの瞳に胸は痛んだが、今の自分はあまりにも無力だった。
その後のメリッサは、男の指示通り野宿をするという彼らのために食事の用意をした。元々、領地では領民たちと共に料理をしていたこともあり、メリッサは手際よく料理を進めていく。すると、メリッサの従順な様子に男たちも警戒を解いたのか、気付けば一番位が下の男を残して、残りの男たちは少し離れた場所で楽しそうに酒盛りを始めるのだった。
「…お前は今、16歳くらいか?」
そんな中、一緒に料理を手伝っていた男がそう声をかけてきた。男の目的はわからなかったものの、メリッサは素性を探られるのが面倒で適当に頷くことにする。
「そうか…俺の娘もそのくらいなんだよな。はは、俺がこんな仕事をしてるって知ったら、嫌われるだろうがな」
そう話した男はメリッサをじっと見つめた後、火の加減を調節するふりをしてメリッサの傍まで来ると、耳元で小さく囁いた。
「今日の夜、俺の見張りの間にあんたは逃げてくれ。誘拐を依頼した貴族の家に奥様を送り届けた後、あんたは殺される手筈になっているんだ。いいか、チャンスはたった1回きりだ」
「え…」
「あんたみたいな人の良さそうな子はこんなとこで死ぬんじゃなくて、良い家庭を作れよ。こんなろくでもない男たち捕まらないでな」
男はその後、不審に思われないようにメリッサから離れ、作った食事を男たちの元に振る舞いに向かう。
(…あの男性を信じても良いのだろうか…)
メリッサは目の前のスープをかき混ぜながら、男の真意を探ろうと考えを巡らせた。
正直、男を信じても良いのか、まだ素直に判断できなかった。なにより、ジュリーをこのまま置いて逃げることに関しても不安が残る。メリッサは結局、男の提案に頭を悩ませることになるのだった。




