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目が覚めた時、メリッサは変わらず荷馬車の中にいた。両手足は縛られて自由を奪われており、口にもキツく布が巻かれている。目の前にいるジュリーも同じ格好で、今はぐすぐすと鼻をすすりながら泣きじゃくっていることがわかった。
ジュリーはメリッサと目が合うとキッと睨みつけてきたものの、彼女の瞳は不安そうに揺れている。
「…で、このまま…森の、野宿するのが…」
古びた馬車の車輪の音と共に男たちの話し声が聞こえる。メリッサは少しでもわかることがあればと、男たちの声に耳を傾けた。
「面倒な…片方は、処分して…明日には…」
男たちはなにやら物騒なことを話していることはわかったが、メリッサはやっぱりこの状況を理解することはできなかった。最初はジュリーがなんらかの嫌がらせのつもりで自分を誘拐したのかと思ったのだが、目の前で同じく縛り上げられている彼女を見る限りは、きっと彼女も巻き込まれたのだろう。
メリッサはふーっと長く息を吐いて冷静さを取り戻しながら、こんなときのためにシャルルに学んだことを思い出そうとする。
(あら…)
そんなとき、メリッサは自分のお腹のあたりがじんわりと温かいことに気付く。
いつのまにかメリッサは指から指輪が外れており、体のそばで転がっていたようだった。橙に光る指輪の光はじんわりと広がり、メリッサはそんな光を見つめているとどうしてか冷静になることができるのだった。
(まずは、私がすべきことを考えなくちゃ)
メリッサを護衛していた騎士からも、メリッサがジュリーと共に誘拐された状況はすぐにでも王家に伝わったはずだ。メリッサはそうして、妃教育をしていたときにシャルルから告げられていたことを思い出す。
『いいですが、万が一にも誘拐されたとしてもその場で騒いではいけません。王宮の騎士たちは必ずメリッサ様を助け出す実力を持った者たちですから、攫われたとしても静かに受け入れてください』
そうしてメリッサは太ももに隠していた小さな剣の存在を確認する。メリッサのこの剣は…万が一のための自害用だった。
『ただし、メリッサ様は何があっても絶対に、押し倒されて体を汚されるような事態にあってはいけません。そうなるくらいなら、絶対にその場で命を捨ててください』
王家のためにも命すら簡単に捨てることが出来る駒のような自分。最初はそんな自分の立場に疑問もあったが、王子妃として様々な経験をさせてもらった今ならわかる気がした。多くの人が自分のために動いているのなら、自分は決して彼らを裏切ってはいけない。
万が一、身元不明の子供を宿すなんてこと、きっと私だけじゃなくて生まれてきた子も不幸になることなのだから。
ただ、そう考えるメリッサには少しだけ、悩ましく思えることがあった。
(…ヴァンス様にもらった王家の紋章があるこの剣で命を終わらせたら…あの人は剣を渡したことを責めてしまうかもしれないわ。結局、メイドに浮気したっていう噂も誤解されたままだし、私と結婚して…あの人は散々な日々ね)
メリッサはそうして自分の瞳にじんわり涙が浮かびあがる感覚があるものの、唇を噛んで気持ちを抑え込むのだった。




