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子猫を助けて池から落ちて数日、あの日猫を虐めていた伯爵家の令息であるスペンサーを中心に、彼に従っていた数人の令息たちも王子妃であるメリッサを狙ったとして責任を負うこととなった。
彼らが裁判所で何を話そうとも、あの場にいた王家の兵士たちが”貴族たちがメリッサを突き落とす様子”を見ていたのだから、圧倒的に不利な立場に追い込まれるしかない。
一方のメリッサは陛下の命令通りにも、数日間は人々の同情を集めるような可哀想な妻を演じた。少し胸が痛んだもののスペンサー伯爵家は後ろ暗い商売を始めていたようで、陛下もこの機会に厳しく追及したかったのだという。
「それで?暇だからって、こうしてメイドのふりをして王宮内の掃除をしているわけか。普段のドレス姿よりも似合っているじゃないか」
本物のメリッサは心を痛めて数日間、部屋に閉じこもっている…としたうえで、メリッサはじっとしていられない性格から、乳母であるシャルルの助けもあって屋敷内でメイドの姿をしながら好き勝手に動き回っていた。新人メイドとして紹介されて部屋の掃除から洗濯場の手伝いまで、まるで領地にいたころのように好き勝手出来る日々はメリッサにとっても良い息抜きだった。
そんなメリッサの変装は完璧で、正体を知っているシャルルや王妃以外に正体に気づく者はいなかったものの…たまたま廊下で出会ったヴァンスは、一旦通り過ぎたあとに笑いながら追いかけてきた。
そうして今は彼に手を引かれるまま、彼の部屋に連れ込まれてしまったのである。
「はは、俺もとんでもない女と結婚したみたいだな。見知らぬ女と結婚しろなんて面倒なことだと思ったが、お前との生活は飽きなくて良い」
「確かに、お淑やかな令嬢や経験豊富な未亡人たちと遊び慣れている貴方にとっては、私の様な珍獣は楽しめるでしょうね」
「…っ、くく、自分のことをよくわかっているじゃないか」
そう話す彼は面白そうに笑ったまま、メリッサの髪に触れてくる。今日のメリッサは変装のためにグレーに髪色を変えていることからも、普段よりも珍しく感じるのだろう。ぱらぱらと髪を指で遊びながら、こちらを見つめるヴァンスの表情は柔らかい。
メリッサはそんなヴァンスの態度に、少しだけ胸が痛む。彼は本当に理解しているのだろうか?自分たちの結婚はあくまでも、病気がちな王妃がヴァンスの将来を心配したために陛下が計画した偽装結婚だったはずだ。
なにより、様々な女性で遊んできたヴァンスにとって、メリッサは珍獣に見えても彼を満たすような美貌があるわけでも、彼が望むような大きな胸やお尻があるわけでもない。メリッサは彼との間に跡継ぎを残しさえすれば、その後は陛下の手腕で”彼に飽きられた女”として領地に戻っても良いとされていた。
そもそもメリッサは、陛下にとっての都合の良い駒の1つなのだから。
「メリッサ、あれから月のものは来たのだろう?」
その後、メリッサは彼から告げられた言葉に、何を求められているのか理解する。
このまま彼を突き飛ばして逃げることもできたが、今騒ぎを起こして注目を集めることだけは避けたかった。なにより、彼とのこうした時間は、メリッサが跡継ぎを残すという役目のためにも必要なもののはずだ。
「16時には外の洗濯物を取り込まなければならないんです。…それに、体が痛む初夜のときと同じものは嫌です」
「あぁ、愛しい妻の願いなら」
メリッサはそうしてからかうようなゆっくりと押し倒されてしまい、そのまま慣れた手つきでメイド服を脱がされていくのだった。




