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「あ、さっきの…」
急いで体の泥を落として、着替えや化粧まで終えたメリッサが侍女に案内されると、そこには中庭で談笑をする母親と姉、そしてさっきの猫を抱えた男性がいた。
「ん?この猫のことかい?」
男性は中庭で出会った泥だらけの人物とがメリッサだと気づいていないということがわかり、メリッサは咄嗟に「その猫を庭で見かけていたんです」だなんて誤魔化す。泥だらけのままで客人に挨拶したと母親に知られたら、ずっと厄介なことなるはずだからだ。
しかし、その後母親に告げられたのは、衝撃的な事実だった。
「メリッサ、ちょっとあなた、目の前の相手が誰だか分かっているの?」
「え?」
「国王殿下の前では、まず挨拶を先になさい!」
母親の言葉を聞いて、目の前の人物が国王陛下である知って驚くメリッサ。メリッサは咄嗟にドレスの裾を掴んで深々と頭を下げるが、目の前の人物は気にしていないと軽く笑った。
「メリッサ、陛下はあなたに話があるっていうから、私たちは一度席を外すわ」
「いい、絶対に粗相だけはしないのよ!守れないなら、びっちり貴族のマナー講座を受けさせますからね!」
母親と姉にそうキツく言い聞かされて、2人は本当に侍女たちと一緒に下がって行ってしまう。その場に残ったのは国王陛下と、少し離れたところに立つ陛下の護衛たちだけだった。
子猫を腕の中に抱えたまま優雅にお茶を飲む陛下。メリッサはそんな彼を見ながら、自分の中の記憶と重ね合わせる。
そもそもメリッサが過去に陛下のことを見たのは、ずっと前に参加した夜会での記憶しかない。基本的にメリッサは動きづらいドレスや派手な化粧をする夜会を好まず、両親もメリッサが粗相をするくらいならと基本的に姉だけを連れて夜会に参加していた。
そんなメリッサだからこそ、国王陛下なんてずっと遠い存在だった。壁に掛けられた絵画のようにうっすらの自分の記憶の中にある男性に目を向けながら、メリッサは気まずさを隠すためにも紅茶を口にする。




