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きっといつかは最高の旦那様  作者: 黒塔
プロローグ 騒がしい結婚式
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祝福する人々で溢れる教会と、まるで神までもこの結婚を祝っているかのように快晴な青空の下。王宮の庭園では結婚披露パーティが開かれ、どこもかしこも明るい雰囲気で満ちていた。


純白のドレスに身を包んだ新婦と、同じく様々な装飾が施された豪華な衣装を身に着けた新郎。2人は挨拶しにやってくる客人に一通り挨拶を終えた後、側にいるメイドや護衛たちにも聞こえないよう顔を近づけて小声で会話をする。



「旦那様、私との結婚が不服なのは分かります。ですが、今だけはその不機嫌そうな顔を隠してくださいませ」

「本当にうるさい女だ。お前が父に選ばれた存在でなきゃ切り捨ててやったのに」



周囲から見ると仲睦まじい夫婦だが、実際のところ本人たちは愛し合って夫婦になったわけではない。



「だいだいなぁ、俺は今すぐ結婚する必要はなかった。それに…どうしても結婚するというのならお前のような凹凸のない女じゃなく、もっと胸が大きく可愛らしい女が良かった」



そう新婦の姿を見ながらあざ笑うように話すのは新郎であるヴァンスであり、銀色の短く切りそろえられた髪と深紅の瞳が特徴的なこの国の第2王子だった。世間では遊び人と噂のヴァンスだが、つい最近”運命の女性”を見つけ、夜遊びをすべて止めて今は運命の女性に夢中なんだと世間を騒がせている。



「お前はどこもかしこも細くて…はぁ、今日の夜は、こんな女と過ごさなきゃならないなんてな」



ちらりと視線が意味ありげに新婦の胸元へと向かう。そんなヴァンスの言葉に、新婦であるメリッサはブーケの裏で苦笑いを隠した。


世間ではヴァンスを更生させた運命の女性として噂のメリッサ。栗色の艶やかな長い髪が特徴であり、大きな琥珀色の瞳とその下にある涙ほくろが色っぽいと知られる女性だった。しかし、そんなメリッサの姿は社交界で知られるものであり、領地に帰れば領民たちと共に泥だらけになって農作業をしたり、駆け回る家畜たちを追いかけたりしていた。


まぁ、そんな領地でも「あのメリッサが、運命の相手を見つけてとうとうおとなしくなったらしい」と噂なのだが。



「旦那様のご期待に沿えなかったようで、申し訳ございません」

「そう思うなら、もう少し良く見えるように胸元が開くドレスにしたり、きつく締めて持ち上げるくらいのことはしろよ」



メリッサを馬鹿にしてワインを煽るヴァンスに、心の中で「だから首元まで隠れるドレスにしたんだよ」と言い放つメリッサ。メリッサは今日から夫になったヴァンスのことを誘惑するつもりも、彼の言いなりになるつもりもなかった。



この結婚は期間限定であり、メリッサは時が来たらある程度の補償金をもらって領地に帰って良いとヴァンスの父親である国王から指示を受けている。いわば、今は見せかけだけの妻を演じているだけなのだ。


それを証明するように、メリッサに結婚指輪として送られたのは見かけだけ美しい結婚指輪である。華美な宝石がついているものの、重くて洗練されていないこのデザインはきっと彼からの嫌がらせの1つだろう。サイズもあっていないために落ちそうになる指輪を、メリッサはワインを飲むふりをしながら奥まで付け直す。



「あの…メリッサ様、これ…」



そんな中で突然、幼い男の子がメリッサの元までやってきて微笑んできた。その手には綺麗な花冠が握られており、メリッサがしゃがみ込んで話を聞くと、彼が今日のために用意したものだという。



「素敵ね。私の頭に乗せてくれる?」

「ほんと?ありがとう!」

「ティアラの上に乗せちゃっていいからね」



王家に伝わる輝かしいティアラの上では男の子の花冠の不格好さが良く目立つ。しかし、メリッサはまったく気にした様子はなく、男の子ににっこりと微笑みを向ける。



「本当に素敵な花嫁様だわ」


「遊び人だと噂のヴァンス様に、こんな可愛らしい花嫁様が…うぅ…」



後ろから聞こえる声にピクリと反応したヴァンス。そこにはヴァンスの母親である王妃と乳母の姿があった。2人とも今日はずっとハンカチを濡らしており、ヴァンスの結婚を誰よりも祝っている。



「はぁ…」


そういってため息を吐き、もう一度ワインを煽るヴァンス。



ヴァンスがメリッサとの結婚を決めた理由は、病気で塞ぎ込みがちだった王妃を安心させるためだった。今まで散々遊び歩いていたヴァンスだが、王妃から「自分が死んでしまう前に花嫁と孫の姿を見せてほしい」と必死に縋りつかれたのだ。



父親である国王陛下からも「嫌でも跡継ぎが生まれるまで我慢しろ」と言われて、今回の契約結婚を受け入れたヴァンス。世間に流れたヴァンスが運命の相手を見つけたらしいだなんて話題だって、きっと陛下が勝手に流したに違いない。ため息を吐きたくなるのはメリッサも同じだった。



しかし、メリッサはそんな表情をすべて隠して、こちらに視線を向けてくるすべての人々に柔らかな笑みを返す。


今はこうして平和な時間を過ごしていようと、きっと様々なトラブルが巻き起こるはずだ。ヴァンスがかつて愛した令嬢たちの中には未練を残した者たちもおり、今日だって鋭い視線をあちこちから感じる。




「あぁ、素敵な結婚式だわ」


メリッサのそんな皮肉めいた言葉に、ヴァンスも本心を隠しながらにっこりと笑いかけてくる。どう見ても2人は幸せな結婚を迎えた夫婦である。


そうして、そんな様子を見た王妃と乳母がまた大きな声で嬉し泣きを始めるのだった。




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