第十七章 魔王軍襲来
戦闘は、三日目に入った。
敵軍は、昼夜を問わず攻撃を続けた。波状攻撃で守備側の体力を削り、じわじわと城壁に迫ってくる。
だが、修平たちの防御は崩れなかった。
強化された魔導設備が、敵の攻撃を跳ね返し続けた。
「——すごいな」
司令官が、感嘆の声を漏らした。
「三日間、一度も城壁が破られていない」
「魔導設備のおかげです」
修平は、淡々と答えた。
「でも、このままでは持ちません」
「何だと?」
「魔導石の消耗が激しい。あと四日分しか残っていません」
司令官の顔が、曇った。
「援軍は、あと四日後に到着する予定だ」
「ぎりぎりですね」
「ああ」
◇
四日目の夜、異変が起きた。
敵軍が、突然動きを止めた。
「——何だ?」
修平は、城壁の上から敵陣を見つめた。
松明の列が、揺れている。何か、動きがあるようだ。
「斥候からの報告です」
伝令が、駆け寄ってきた。
「敵軍の後方に、新しい兵器が到着したようです」
「新しい兵器——?」
「詳細は不明ですが——非常に大型だと」
修平の胸に、嫌な予感が走った。
◇
夜明けと共に、その「兵器」が姿を現した。
——巨大な魔導塔だった。
高さは二十メートル以上。青白い光を帯びた金属の柱が、ゆっくりと要塞に向かって移動している。
「——あれは」
修平は、【配線術】のスキルを発動した。
青白い糸——魔力の流れ——が見える。
その量は——
「——桁違いだ」
修平の声が、震えた。
「魔力の集中量が、今まで見たどの兵器よりも多い」
「どういうことだ」
「あれは——」
修平は、息を呑んだ。
「魔力を集中して放射する兵器だ。一撃で、城壁全体を破壊できる」
◇
作戦会議が、緊急で開かれた。
「あの兵器が射程に入る前に、破壊しなければならない」
司令官が、厳しい表情で言った。
「『雷撃』で撃てないか」
「射程が足りません」
修平が、首を横に振った。
「あの兵器は、我々の砲の射程外から攻撃できる。迎撃は不可能です」
「では、どうする」
「——出撃するしかありません」
修平は、立ち上がった。
「前回と同じように、直接破壊します」
「無茶だ。敵軍の真ん中だぞ」
「他に方法がありません」
修平の目が、決意に満ちていた。
「俺が行きます」
◇
「俺も行く」
リカルドが、前に出た。
「シュウを一人で行かせるわけにはいかない」
「私も」
ミラが、続いた。
「俺たちも」
マルコと、数人の見習いたちが、手を挙げた。
「——お前たち」
修平は、仲間たちを見回した。
全員の目が、真剣だった。
「——ありがとう」
修平は、深く頷いた。
「行こう」
◇
夜の闘いが始まった。
修平たちは、闇に紛れて城門を出た。
敵軍の陣地を迂回し、魔導塔に向かう。
「——静かに行け」
リカルドが、低い声で言った。
「見つかったら終わりだ」
一行は、身を低くして進んだ。
敵兵の間を縫い、松明の明かりを避け、魔導塔に接近していく。
「——あと百メートル」
ミラが、囁いた。
「見張りが多いな」
「迂回する」
修平たちは、さらに慎重に進んだ。
そして——
「——着いた」
魔導塔の足元に、辿り着いた。
間近で見ると、その巨大さに圧倒される。二十メートルの金属の柱が、夜空に向かってそびえ立っている。
「——ここからだ」
修平は、【配線術】を発動した。
塔の内部構造が、青白い線として視界に浮かび上がる。
「制御部は——」
彼は、塔を見上げた。
「——上だ」
「上って、登るのか」
「ああ」
修平は、塔の側面を見つめた。
足場になりそうな突起がある。登れなくはない。
「俺が登る。お前たちは、下で見張りを」
「——シュウ」
リカルドが、修平の肩を掴んだ。
「気をつけろ」
「ああ」
修平は頷いた。
そして、塔を登り始めた。
◇
塔の側面は、滑りやすかった。
だが、修平は必死でしがみつき、少しずつ登っていった。
十メートル。十五メートル。
やがて——
「——ここだ」
制御部に、辿り着いた。
塔の中腹に、魔導管が集中している場所がある。ここが、魔力を制御する心臓部だ。
修平は、工具を取り出した。
「——これを壊せば」
彼は、配線を切断しようとした。
だが——
「そこまでだ」
背後から、声がした。
振り返ると——
フードを被った男が、立っていた。
「——ヴァルター」
修平は、その顔を認識した。
魔導師ギルドの元ギルド長。王国を裏切り、魔王軍に寝返った男。
「久しぶりだな、平民」
ヴァルターの声は、冷たかった。
「まさか、ここまで来るとは思わなかった」
「お前を止める」
「止める?」
ヴァルターは、笑った。
「無駄だ。この塔は、既に起動している」
修平は、周囲を見回した。
確かに、塔全体が青白い光を帯び始めている。魔力が集中しつつあるのだ。
「あと数分で、魔力が臨界に達する。そうなれば——」
「——お前ごと吹き飛ぶぞ」
「構わない」
ヴァルターの目が、狂気に染まっていた。
「私は、貴族の誇りを守るために戦う。平民ごときに負けるくらいなら——死んだ方がましだ」
「——狂ってる」
「狂っている?」
ヴァルターは、首を横に振った。
「狂っているのは、お前たちだ。平民の技術者を重用し、貴族の権威を踏みにじった。それこそが——狂気だ」
修平は、黙ってヴァルターを見つめた。
この男は——もう、話が通じない。
ならば——
「——力ずくで止める」
修平は、工具を振り上げた。
ヴァルターが、魔法を発動しようとする。
だが、修平の方が速かった。
工具が、ヴァルターの手を打った。
魔法の発動が中断され、ヴァルターがよろめく。
修平は、すかさず制御回路に手を伸ばした。
「——止まれ」
彼は、配線を切断した。
バチン!
火花が散った。
そして——
塔の光が、消えた。
◇
「——馬鹿な」
ヴァルターが、呆然と呟いた。
「こんなはずでは——」
「終わりだ、ヴァルター」
修平は、息を整えた。
「お前の野望は、ここで終わる」
「——許さない」
ヴァルターが、最後の力を振り絞って立ち上がった。
「お前だけは——」
彼が、修平に襲いかかろうとした瞬間——
塔が、崩れ始めた。
制御を失った魔力が暴走し、構造が崩壊していく。
「——まずい」
修平は、塔から飛び降りた。
落下の衝撃で、全身に痛みが走る。だが、立ち上がって走り出した。
背後で、轟音が響いた。
魔導塔が、完全に崩壊した。
その下に——ヴァルターの姿は、なかった。
◇
夜明けと共に、修平たちは要塞に帰還した。
魔導塔の破壊は、敵軍に大きな打撃を与えた。
主力兵器を失った敵は、攻撃の勢いを失い、後退を始めた。
「——やったか」
リカルドが、息を切らしながら言った。
「ああ」
修平は頷いた。
「でも、まだ終わりじゃない」
「わかってる。でも——」
リカルドは、修平の肩を叩いた。
「今夜は、休め。お前は——十分にやった」
修平は、小さく笑った。
「——ああ」
彼は、城壁にもたれかかった。
全身が、疲労で重かった。
だが——
心は、軽かった。
見えないところで、確実に繋ぐ。
その仕事を——今日も、果たすことができたのだから。




